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転生帝者の無双魔導 〜転生した最強魔導師、新能力で超最強に!!〜  作者: しまらぎ
第三章 転生帝者の見えない記憶
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帝者、居眠りをする

 砂利を踏む音は雨音にかき消され、もともと小さなエリルの声など、耳を澄まさないと聞こえない。今日は雨だ。

 そんな中、レンガ造りの建物の間を俺とエリルは歩いていた。

 

「三日ぐらいしか経っていないはずなのに、なんだかとても久しぶりに感じますね、リュウヤさん!」


 黄色のレインコートを着てくるりんと回って見せるエリルは、いつもより笑顔が多い。


「そうだな。最近はいろいろ詰め込みすぎた。こうやって登校するのも、いい息抜きになる」


 昨日……ではなく、さっきのエイミーとの話から、俺は魔導書を知るために学院へ行くことにしたのだ。

 今日から再び授業が始まる。クラスも一変し、一般平民も加わりまさに心機一転と言った感じである。


「そう言えば、この学院には同士の集まりのようなものがあったな」


「あはは、そう言えばありましたね。私も忘れてました」


 雨に濡れる前髪を払い、エリルは笑う。


「お前の言っていた読み物の会だったか。俺もそれに入る事にしたぞ。と言っても個人的に本を漁るだけだがな」


「ほんとうですか!? それは嬉しいです!」


 今度は一気に近づいてくる。

 だが……ちょっと近すぎないか? と思っているのは俺だけのようで、エリルは嬉しそうに俺の手を取って両手で包み込む。濡れた手に温もりを感じる。


「でも、リュウヤさんの思ってる通り、名ばかりの集まりなんですけどね。入って意味があるのかどうか……。そもそも自動加入みたいなものですし」


「たしかに、本を読むだけならそうなるか」


「あ、でも、嬉しいのは本当ですよ?」


 俺の心情を考えてか、彼女は付け加えた。

 

 そうやって話しているうちに、学院の側まで来てしまった。レンガの建物の向こうに、大きな教室棟が見える。赤っぽい家が多いのに対して教室棟は灰色に近いため、市街地ではかなり目立っていた。


 俺たちは学院の門をくぐり、エルフや天族、人間に魔族、様々な種族が共に歩く道を進んだ。


 

 教室の扉を開けると、いつもは白服が多かったのだが、今日は一人も見当たらなかった。ネスティアのような例外もいるが、貴族の象徴の白服は撤廃されたか。

 そう言えばエリルの服も黒に変わっている。……こんなに近くにいて気づかないとは、情けないものだ。

 

 自分の席に座り、笑顔の多い教室を眺めると、平和を感じる。


「これが、そなたの見たかった世界なのじゃな」


 声の方を向くと、隣の席にはネスティアが座っていた。

 今までのメンバーに平民が加わるだけで、俺たちの席順自体はに変化はない。

 左右にエリルとネスティアのいる風景だけはいつもどおりだ。


「この国は、俺の見えている世界は少なくとも平和になった」


「あとは、残りの貴族たちがどうでるか、ですね」


 反対側からエリルが言った。


「なるようになる。気にするな」


 キンコンとチャイムが鳴り、生徒達は席につき始める。

 教室のドアが開かれると、新し……くはない先生が教壇に立った。


「それじゃあー、新しいメンバーでー、授業を始めるよー」


 相変わらずののんびりペースでミクリィが話し出す。


「……の前に、自己紹介をしまーす! 私はミクリィ! こう見えてもすっごく強いんだよ!」


 人差し指をほっぺたにつけてニッコリ笑ってみせるミクリィ。

 年は二十そこらか、ツインテールの髪とその姿にまだ可愛げを感じる。


「そういうことで、授業を始めまーす!」


 ゆったりと授業が始まり、のんびりと何かの描かれる黒板を上から眺める。一時間目は歴史の授業だが、前回の続きではなかった。


 腕を組んで机に突っ伏す。

 段々畑のような机の並びは、日本ではあまり見ない光景だ。

 

 ミクリィの授業は緩すぎて、ついうとうとしてしまう。

 時間は流れ、だんだんと意識が遠のいていった。

 

『ーーまた寝てるの?』


  暗闇から、誰かが呼びかける。


『ディルくん、いつもお寝坊さんなんだから』


 頭の下には柔らかい感触。頭の上からは暖かく優しい声。

 いっそいつまでもこうして寝ていたいぐらいだ。


『もう、起きる気ないんでしょ? ディルくんのことなら何でもわかっちゃうんだからね?』


 尚も優しい声は俺に話しかける。


 ただ、俺の眼は開かない。

 この心地よい空間に、身体を預けていたかった。それだけだ。


 俺は暗く何も見えない中で、ゆるりと流れる時間に幸せを感じていた。


 だが、そんな幸せが長く続きはしない。

 ついに開かれた眼の前には、何も存在しなかった。


「……誰なんだ…………お前は……いったい…………?」


 何もいないけど、たしかにそこには誰かがいた。いや、いつも俺の近くにいる。近くにいながら、一番遠い。

 何度もその姿を見ているはずなのに、思い出せない。

 

 俺は……大切な何かを忘れている。


 ふとした瞬間に、目が覚める。

 キンコンとチャイムが鳴り終わるのが聞こえ、ようやく起立の号令がかかっていることに気づいた。


「やっと目を覚ましたのじゃ」


「お寝坊さんですね」


 クスクスと笑う両横の二人。特にエリルの言葉にハッとする。

 

「つい、な」


 そう言って前に向き直ると、礼をして授業が終わる。


 学院の授業は特殊なもので、受ける授業と受けない授業がある。

 それは学院側の行う試験によって決まるのだが、俺の場合は半数以上が免除のために、一日フルで授業なんてことはまずない。


 ということで今から二時間の間、昼休みを含めると三時間もの間、俺は休み時間となったわけだ。

 ちなみにエリルは俺と同じで、ネスティアは座学が苦手なようであと一時間は授業が続く。


「さて、それじゃあ図書館へ行くとしよう」


「へっ!?」


 自然とエリルの手を取り教室を抜ける。


「あの…………リュウヤ……さん?」


「なんだ?」


「この手は……?」


 俺も少し不思議だが、なぜか手を取りたくなってしまった。

 きっとあの夢の少女とエリルを重ねてしまったのだろう。

 ここで離すのが普通なのだろうが、エリルの反応を見ているのも楽しいものだ。


「……嫌か?」


「そ、そそそんなことは……ない……ですよ?」


「なぜ疑問形……?」


 慌てふためく様子もまた、女の子だ。とても可愛らしい。

 

『マスター、何をしているんですか!』


 エイミーだ。念話で俺に話しかけてくる。

 あの二人は家に置いて、魔導書だけ持ってきたはずだが……魔導精霊とはそう言うものか。


 とりあえず今は無視しておこう。こう言う時のための魔力遮断だ。

 魔力を切るとエイミーの声が止まる。


「さ、行くぞ」


 手を繋いだまま、俺はエリルを引いていく。

 コンクリートか何かの灰色の床が、雨水で湿っていた。だが、窓の外にはお天道様が顔を出していた。


 図書館はいくつかある棟のうち、最も端っこの棟にある。

 

 俺は建物の中でも一番高い図書館のある棟を目指して、真っ赤なエリルの手を引いて歩く。

 教室棟を出ると、こっちの世界の空にも虹が輝いていた。

第三章二話ですね。

この章でもなるべく無双してこうと思ってます^_^

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