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転生帝者の無双魔導 〜転生した最強魔導師、新能力で超最強に!!〜  作者: しまらぎ
第三章 転生帝者の見えない記憶
33/66

帝者、手を伸ばす

ここから三章に突入です!!

思い出メインの章になっています。

ぜひお楽しみください^_^

 限りなく金髪に近い茶髪ロングの少女は、俺の頬に手を当てる。俺も彼女の手に自らの手を覆い被せ、その温もりを感じていた。


 ーーーーずっと、待ってるからね、ディル君ーー。


 たった一言、彼女は告げる。だんだんと身体が離れ、俺の手から彼女が完全に離れた瞬間に、俺の目は開いた。


 気がつくと、真っ白な天井に向かって手を伸ばしていた。高い天井にその手は届かない。いつもより遠く感じる。だが、それよりも遠く感じたのは、彼女の存在だった。


 いつかの夢にも出てきた、「#/&#」という名の分からない少女。さっきまで側にいたのに、冷酷な時間のように薄れ消えていく顔。

 伸ばした手の先にいた彼女は、天井なんかよりもずっと遠くに感じられた。


「……思い……出せない…………」


 伸ばしていた腕で眼を覆う。頬にはもう、彼女の暖かい温もりは無かった。

 代わりに感じたのは、冷たい水滴が伝っていく感覚。


 俺は、ただ一人、泣いていた。


 戻ったはずの記憶の中で、唯一思い出せない大切な思い出。それが大切であると、その人が大切であると心の底では感じているのに、何も思い出せない事が悲しかった。


 決して広くはない部屋には沈黙が漂い、月明かりすらも入ってこなかった。


 しばらくして、俺は服の袖で涙を拭いてベッドの上に座る。一人で寝るには大きすぎるベッドの上をするように動き、そのままゆっくりと立ち上がった。


「……牛乳……あったっけ……」


 大した広さもないのに、大きなベッドと机が一つ。そして、部屋の隅には冷蔵庫がある。

 俺は冷蔵庫の中に入っていた牛乳を取り出して、ガラスのコップを取って注いだ。


 静かな部屋の中に、牛乳を注ぐ音が響く。


 ……あの日も……エイミーとレイミーに初めて会った日も、こんな感じだったな。


 あの時も、変わった夢に早く目が覚め、悲しい気持ちを紛らわせようと牛乳を飲んでいた。

 この部屋にテレビはないが、砂嵐の音が耳に聞こえる。


 明かりもつけず暗い部屋の中で、ちびちびと牛乳は減っていった。


 牛乳を飲むだけで何もせず時が流れていき、やがてコップの向こう側が歪んで見えてくる。

 真っ白で模様のない壁が、ガラス越しに映っていた。


 ーーん?


 飲み干したコップを机に置いた時だった。

 だれかの気配を感じたのだ。


 こんな夜更けに誰が……と考えつつも、視線をそちらに向けて見れば、閉まっていたはずのドアがほんの少し開いていた。

 その隙間に見えたのは、白くてサラサラのロングヘアと、曇りのない綺麗な瞳だった。エイミーだ。


「ーー入ってきても構わないぞ?」


 いつもより、少し優しい口調で言う。


「……ばれてしまいましたか……」


 少し笑いながらエイミーは部屋に入る。


「それで、こんな夜中に何かあったのか?」


「その……なんだか、マスターに呼ばれた気がしたのです」


 エイミーは、少し不安そうな表情を浮かべて答えた。

 呼んだつもりはないが、俺と同じように夢でも見たのだろうか。


「そうか。……変なこともあるものだな」

 

 エイミーを俺の横の椅子に座らせ、俺も椅子に座るが、彼女には高すぎたようだ。足が地面からかなり浮いていた。


「マスター、その白い飲み物は何なのですか?」


 エイミーはコップにほんの少し残った牛乳を指差して聞いた。


「気になるか?」


「はい。マスターが美味しいものを隠し持っているのは分かっているのです」


「はは、目ざといな、エイミーは」


 軽く笑い、俺は席を立つと、牛乳ともう一つガラスのコップを持ってくる。

 再び、静かな部屋の中に、牛乳の注がれる音が響いた。


「これは牛乳だ。多分この世界にも同じようなものはあるだろうが、こいつは俺が特に好きなやつだ。飲んでみるといい」


「では、いただきます」


 エイミーは両手でコップを取り、口へと運ぶ。

 こくこくと牛乳は減り、すぐにコップの中は空になってしまった。


「ほら、髭ができているぞ」


 机の隅に置いてあったティッシュを取り、髭を作っているエイミーの口元を拭いてやる。まるで子守をしているようだが、これはこれで悪くない。可愛いは正義、とはよく言ったものだ。


「で、ご感想のほどは?」


「とても甘くて美味しいのです!」


「なら良かった」


 にっこりと微笑むエイミーの顔を見て、少し安心する。

 いつのまにか、心の中を埋め尽くしていた負の感情は、どこかへと消え去っていた。


 さて、日が昇るまでの三時間半、何をしたものか。


 ぼーっと肘をついて考えていると、エイミーが口を開けた。


「マスターは、これからどうするのですか?」


 エイミーはコップに目をやったまま聞く。


「これから、か……」


 いくつかの道はあるのだろうが、未だにはっきりとしていない。

 貴族だなんだという問題は終わったようなものだし、自分に見える世界は十分に変わった。それに、今は見えない世界のことに首を突っ込む気にはなれない。

 結局のところ、何も決まっていないのだ。


「エイミーは、どうしたい?」


「わたしはマスターについていくだけなのです。魔力もマスターに提供してもらい、この世界に存在を保てているのもマスターのお陰。わたしの全てはマスターに委ねます」


 エイミーは、俺の瞳を見つめてそう言った。

 

 忘れていたが、こいつは魔導書だ。魔導精霊だ。切っても切れる縁じゃない。

 だがーー。


「やってみたい事の一つや二つ、お前にもあるだろう。どんな無茶でもいい。俺が叶えてやる。これならどうだ?」


 俺にはする事もしたい事もない。一応学院に身を置きはするが、学生としてずっと過ごす訳でもなく、かと言って旅をしようという意思もない。

 ならば、エイミーやレイミーのしたい事を俺もするのが、友である俺の役目ではないかと俺は思う。


 エイミーは少しだけ考え、またコップに視線を落として話し始めた。


「なんでもいいのなら、一つだけ、夢があります」


 言うと、恥ずかしそうに顔を赤らめる。


「なんだ? 言ってみろ」


「あの……その…………少し、恥ずか……しい……のです」


 さらに頬を赤く染め、顔も真下を向く。

 だが、エイミーは小さな声で言った。


「ーー普通の精霊……として……その……マスターの側にいたい……のです……」


「普通の精霊? お前は精霊だろう?」


「魔導書に、契約に縛られて側に居るのではなくて……えっと……その…………普通の女の子……として……マスターの側に居たい……のです……」


 だんだん声が小さくなり、両手で顔を隠してしまうエイミーだったが、真っ赤に染まった耳までは、隠しきれていなかった。


 普通の精霊……女の子として……これが何を示すのか分からないほど、俺は鈍感ではないつもりだ。


「要するに、魔導精霊を辞めたい。そう言う事だな?」


「……えっ……?」


 俺の言葉に、エイミーの顔の赤らみが少し引いていく。


 何か間違った事を言ったのだろうか? 魔導精霊という縛りから解放されたい、自由になりたいと、そう言う話しではなかったのか?


 まあ何にせよ、俺に答えられることは一つだ。


「ーーちゃんと叶えてやるよ。それまで、少し待っていてくれ」


 彼女の耳元で囁くと、また彼女の頬が赤くなる。


「……い、今は……それでいいってことに……してあげるのです」


 エイミーは、今日一番の小さな声で答えると、少し顔をそらす。


 まだまだ夜の闇は深く、窓を閉めている部屋の中には何の音も響かない。

 エイミーが自分の部屋に戻ったあと、俺はただ一人、ずっと窓越しに見える新しい帝都の風景を眺めていた。

 

お読みくださいありがとうございます^_^

二章と同じく週一くらいのペースで更新していく予定です。

ぜひぜひお楽しみください!

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