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帝者、実験する

 地に転がる貴族たちが吹き飛ぶほどの力が、俺とフェルゼンの間でぶつかっていた。

 周囲の魔狼たちも、気絶する者あり、動けなくなる者ありといった様子だ。


 互いに見つめ合う俺とフェルゼン。

 先に動いたのはフェルゼンだった。


 巨体が凄まじい速さで地をかけ、その姿を捉えさせない。

 まあ姿が見えなくても、気配が分かれば十分なのだが。


「フハハ、逃げるばかりで戦えないか、小童!!」


 閃光のみが宙を行き来し、四方八方から声が聞こえる。


 正直なところ、魔狼など相手ではない。

 だが、俺の能力、特性を改めて理解しておくための実験台にはちょうどいいだろう。


「そろそろ狩らせてもらうぞ!!」


 そう声が聞こえ、周囲に多数の大きな魔力を感じる。

 多数に感じるが、実際は一つの魔力が高速移動しているだけだ。


 そして俺がほんの息を呑んだ瞬間、左後ろから最初の魔法が発射される。


 ほう。咆哮に魔力を乗せて、ブレス系統の魔法として放っているのか。

 並みの魔導師には真似できない芸当だな。


 軽く躱しながら分析していると、次々と色々な方向から魔法が飛んでくる。

 その威力は甚大なもので、大地を大きく抉り、あたりいっぺんはもはや平原の姿を失っていた。


「これが皇魔狼の力か。並みの魔導師では対抗する術がないな」


 空間を埋め尽くすほどの咆哮の嵐の中、俺は極少量の動きで全てをかわしていた。


 やがて魔法の嵐は止み、フェルゼンも動きを止める。


「ようやく俺の番か。ーーそうだな、先に言っておこう。俺は、お前をペットにするつもりだ!」


 ニッと笑って言い放ち、今度は俺がスッと風に溶けるように姿を消す。


「小童が! 我をペットにしようとは、図にのるでないぞ!!」


 少し癇に障ったのか、フェルゼンの声に怒りが混じる。


「お主如き人間が姿をくらませようとも、我から逃れることはできぬ。獣の五感を舐めるでない!」


 フェルゼンは精神を集中させ、その瞳を閉じる。

 だがーー。


「ーーなっ、お主、魔力は愚か気配も匂いすらも……!?」


 数秒後、フェルゼンは驚きの声を上げる。

 どうやら奴は気づいていないようだが、俺は一歩も動いていない。


 かつて魔王や天王と戦うことさえあったフェルゼンは、この数千年の間で自分より強い相手と戦うという、自分より強い相手がいるという感覚が薄れ鈍くなっているのだろう。

 平和ボケは日本だけだと思っていたが、あらぬところで起こっているものだ。


 さて、まずは解析(アナライズ)からか。

 ただ、この特性の特性魔法はほとんど実戦向きでないからな。どうしたものか……。

 それにーー。


「無駄だ」


「なにっ!? 気づいておったか!!」


 さっきの高速移動中に組み上げられた立体魔法陣が発動し、闇の咆哮を生み出し上から超広範囲に降り注がせるが、俺の身体に当たる直前に霧となって消えてしまう。


「お前の事なら既に解析済みだ。さっきぶん殴った時に全て読み込ませてもらった。今度はこちらからいくぞ!!」


 姿を消したまま、俺は言った。

 全て分かってさえいれば、真逆の効果の魔法を使って相殺もできる。


 右手をフェルゼンの方に向け、最初の魔法を解き放つ。


「まずはこれだな。〈コマンド・物質変換(コンバージョン)〉」


 見えないばかりか、魔法の発生も感じさせないコマンドタイプの魔法を唱える。


 この魔法、物質変換(コンバージョン)情報(データ)からなる特性魔法で、魔力圏内における全ての非核物を別のものに作り変えることができる。


 こんな酷い技を使う時が来るとは思いもしなかった。まあ全ては地球の技術なんだが。


 そのまま俺は三十メートルほど一気に下がり、もう一つの魔法を唱える。


「まだ死ぬんじゃねえぞ、ジジィ。〈火球(ファイアーボール)〉」


 俺の右手に薄い光が生じ、魔法陣もなく火の玉が生み出されると、それは真っ直ぐにフェルゼンの方へ向かっていった。


「小童が。魔力でも尽きたか? そのような魔法、避けるまでもなーー」

 

 フェルゼンの言葉は途中で止まる。


 そして次の瞬間。

 ドゴゴゴゴオオオオオォォォォォォン、と大きな爆発音が響き、真っ赤で巨大な火の玉が俺のすぐ目の前すらも焼き尽くしていた。


 大爆発。

 誰もが小中学校の時にやっているだろう理科の実験だ。

 ほら、混ぜると爆発する気体の実験と言えばーー。


「ふむ、威力は思ったより大きいか」


 一歩前に進んで下の方を眺めれば、おおよそ二十メートル下に何か黒いものが……。


 と眺めていると、一瞬その黒いものが光り、黒い咆哮が薄い煙の中を俺を目がけて飛んでくる。


 おっと危ない危ない。

 さすがにあんなので死ぬほど弱くはないか。


「小童! やってくれおったな! だが残念だな。我は魔界に住まう皇魔狼だ。炎や爆発など慣れておる!!」


 遠くから、ピンピンとしているフェルゼンが叫ぶ。

 続けざまに数回咆哮が飛び、俺の前で弾け飛んだ。


 こいつ、やっと俺を捉えたか。

 少々遅いが大したものだ。


「クッ、少しお主を見くびっていたようだ……。我も本気で戦おう。死んでも文句は言うな!!」


 随分と強そうなセリフを吐くと、空間を漂う魔力が更に増大し、フェルゼンの身体も少し大きくなる。

 

「我はお主より永き時を生きる皇魔狼。お主のように強い相手は神や魔神の先住種族以来だ!!」


 瞳を真紅に輝かせ、ただでさえ沈んだ地面を気迫で破壊しながら叫ぶフェルゼン。


 こいつが俺より前の時代から生きていたのは知っていたが、まさか先住種族とも関わりがあったとはな。

 面白い。余計にペットにしたくなってきたぞ。


 フェルゼンは地面を壊しながら一歩一歩こちらへ近づいてくる。

 俺も姿を現し、魔力を高めてフェルゼンの元へと歩く。


「次で終わりだ」


 右手を天に掲げ、俺は言った。


「舐めたことを」


 フェルゼンが吐き捨てるように言う。

 一つ唸れば、空中のそこかしこに魔法陣が展開され、だんだんと輝かしい光を放ち始めた。


 そして二人が十分に近づいたところで、フェルゼンの展開した全ての魔法が放たれる。


 ズドドドドドドドドと音を立て、幾千もの光の槍が降り注ぐ。

 

「甘いな。〈付与(エンチャント)追尾反射(サーチリフレクション)〉」


 俺の真上に展開された超広範囲の魔法陣は、降り注ぐ光の槍を鏡のように反射していく。

 やがて光の槍が降り止むと、天高くに跳ね返った光が集まり、巨大な魔力の塊が生まれる。


「これで、終わりだ!! 〈雷撃(ロストサンダー)〉!!」


 魔法が発動すると、魔力の塊が雷雲と雷に変わり、轟音と共に雷がフェルゼンを喰らう。


 フェルゼンが普通の状態であれば、こんな攻撃は効くはずもないだろう。だが、俺がさっき使った魔法、もとい大爆発は大量の水を生み出していたのだ。

 純水はフェルゼンを濡らし、またその純度をかなり落とす。

 純度の低い水は電気の良導体だ。


 さすがの皇魔狼でも、体内を循環する高圧の電撃を喰らえばひとたまりもないだろう。


 少しの時間が経ったが、バチバチという音はまだ残っている。

 濁った空気がだんだん晴れていくと、そこには真っ黒に焦げて気を失っているフェルゼンの姿があった。

これはかなりの強敵? と思いきや、やっぱりリュウヤは強いですね^_^

そんな無双の二章ももう終わってしまいます。

ちなみにですが、三章のテーマはリュウヤの思い出です。


次回もお楽しみ!!

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