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帝者、騎士団に囲まれる

 毎日のように見る同じ夢。きっと全てが繋がっている。

 断片的な記憶が、ずっと心に残っているのだ。


 一番最初は、ちょうど最期の夢と同じ、得体の知れない城の中で、俺は配下と思われる三人と話をしていた。


ーー 初日 ーー


「ふむ。約束通り、龍族は退いたか」


 俺は、腕を組みながら言った。


「ですが主人よ。魔族はこの機を狙い、猛攻は増す一方でございます」


 配下の一人、剣を携えた冷静沈着な男は言った。


 ……戦争とは、いったいどうして起こるものなのか。昔から幾度となく経験してきたが、全くもって理解出来ない。


「……魔族は、今も昔も変わらない。いつの時代も、世界を狂わせるのは魔族か……」


 遠い過去を見るような遠い瞳で、俺は言う。


「もしや……実行なさるのですか?」


 金髪の女の配下は、少し心配そうにしている。


「そうしなければならないだろう。死とは悲しみしか生まない。だが、また必要な死もある。我が明日の世に、魔王はいらない」


 無駄に死人を増やさない為に、どれだけ策を弄した事か。それが魔族に伝わるとは思ってはいないが、せめて命を想う心がほんの僅かでもあれば……。


「……期待は性に合わないか……」


 呟き、立ち上がる。


「一刻の猶予もありはしない。今すぐにでも行くとしよう」


「ならば、我らも御同行致します」


 鞘を掴み、男配下も立ち上がる。


「だめだ。これは俺の甘さが引き起こした事態。俺が一人で片付ける」


 もっと早くしていれば、などと言うのは愚かだ。

 俺も……あの日から何も変わっていない。

 本当にこの世に必要ないものは魔王か、或いはーー。


ーーーーーー


 目の前に立ち塞がる騎士達を目にして、過去に見た夢の戦禍を思い出す。あのような血に充ち満ちた戦いを、ついに現実世界でやる事になろうとは思いもしなかった。


 少しの間、睨み合いが続いたが、ようやく騎士の一人が話を始めた。


「我々は深蒼騎士団ベルファーレである。赤の国の者よ。今すぐに投降しろ!!」


 男騎士は叫ぶ。


「赤の国……? 何のことだ?」


「惚けるなっ!! 魔導書も持たぬ輩が何も無い空間に突然現れるなど、赤の国の者か魔族にしか出来ん」


 たった今ここに来たばかりだと言うのに、変な言いがかりはよして欲しいものだ。


「俺はただの旅人だ。魔導書なら、ほら、ここに精霊が二人いるだろう」


 両横にいる二人を指差して言う。


「何を言うか。魔導精霊を二体も同時に召喚する事が出来る筈がないだろう!!」


 まったく……話しの通じないやつだ。


「出来る筈がない……か」


 二人の言っていた事が少し分かった気がする。

 魔法学において可不可を問う事は許されない。魔法は意思の表れだ。出来ないという気持ちが存在するのであれば、この国の、いや、この世界の魔法文明に未来はないだろう。


「なあエイミー、どうするべきだ?」

 

「ここで顔を覚えられるのは得策ではありません。適当にあしらって、早急に撤退すべきです」


 エイミーは冷静に判断する。


「そうだな。そうしよう」


 キキンと剣を抜く音が聞こえ、騎士達は次々に戦闘態勢に入る。強い魔力を感じないあたり、恐らく魔法は使ってこないだろう。


「投降するのであれば手出しはしない。さあ、早く投降しろ!!」


「悪いが断らせてもらう。〈コマンド・氷束縛(フリージングバインド)〉!!」


「なっ、なんだと!? 魔法……魔導書も無しに……いや、あれは本当に…………くっ、はあ、動けん、動けんぞ……」


 煌びやかに輝く氷の鎖は、確実に騎士達の足を捉えて地面に縛り付ける。

 まともに動く事もままならない彼らは、己が持つ剣で必死に鎖を斬ろうとするが、その刃を傷つけるだけだった。


「すまないが、暫くそのままで居てくれ。じゃあな! 〈コマンド・飛行(フライト)〉」


 一言だけ言い残し、飛行魔法で身体を浮かす。

 街のど真ん中で起きた騒動故に、多数集まっていた野次馬たちが騒めきだす。


 一般人には魔法そのものが遠い存在なのか? 

 まあ今はそんな事を気にしている暇はないからな。

 この世界の事は後でゆっくり調べるとしよう。



 飛行開始から数分が経過し、俺たちは広々とした森の上空を飛んでいた。


「なあ、マスター! さっきの魔法、私にも教えてくれよお!!」


 レイミーが俺の腕を掴んで揺らし続ける。


「いい加減しつこいな……。お前、魔導精霊なんだろ? 魔法ぐらい自分で作ればいいだろう」


「まったく簡単に言ってくれるぜ。魔法なんて一つ作るのに何日かかると思ってんだ? そもそも高度な魔法を作れる力なんて持ってない」


 時速百キロでの高速フライト中、レイミーはずっと駄々を捏ねていた。


「だいたいな、魔法は気持ちだ。やりたいって本気で願えば案外なんとかなる」


「うぅーーー適当に流しやがって……」


 腕を揺らし続けながら、表情だけはころころと変わっていく。


 正直なところ、俺も魔法がどのようなものなのか、その真髄まで理解している訳ではないのだ。何故か身体では魔法を深く理解している感覚はあるのだが、思い出そうとしても何も分からずじまいである。


「ーーそう言えば、二人は俺からこの世界の魔力を感じると言っていたな」


「ん? たしかにそう言ったな。それがどうかしたのか?」


 質問に答えたのはレイミーだった。


「ああ。少しな。もしかすると、俺はこの世界と深く関わっているのかもしれない、と少し思ってな」


「うん? どういう事だ?」


「いまいちピンときませんね」


 それもそのはず。俺にも分からないのだから。

 ただ、もとより俺の魔力がこの世界のものだとするならば、俺の存在自体がこの世界にあるーーあったという事になる筈である。


「一つ質問だ。魔力には種類があるのか?」


 その質問に、エイミーがピクンと反応する。


「なるほど。マスターの考えている事が少し分かりました。結論から言うと、マスターの考えは正しいです」


 全て分かったように、エイミーは答える。


「おいおいエイミー、二人で話しを進めるなよ。私も連れてけよー!」


 今度はエイミーの腕を揺らしてレイミーが騒ぐ。


「少し黙っていて下さい。重要な話しなのです」


 エイミーはレイミーを振り払う。


「うぅ……こいつがマジになると怖いんだよな……」


「何か言いましたか?」


 何というか……エイミーの強い威圧によって、あのレイミーが押し黙ってしまった。物静かなだけに、真剣になると怖みが増す。


 真剣な顔でエイミーは続けた。


「触れ続けた空気などによって、魔力には多少の違いがでるのです。かなり大きな数字にはなりますが、それだけの時間が経過すると、世界間での魔力に相違が生まれます」


「分からない話でもないが、なかなか難しいな」


 空を飛んでいることなど忘れてしまうぐらいに考え込む。


「その通り、簡単な話しではありませんが、世界を超えて同一の魔力が存在するケースがごく稀にあります。そのケースというのが、俗に言う転生なのです」


 転生、それは前世の記憶や魔力など、様々なものを引き継いで生まれ変わる事を言う。エイミーの話しからすると、魔法で転生する事も可能なのだろう。まさか全て神隠しなんて事はあるまい。


 エイミーは少し不思議そうな顔つきになって再び話しだした。


「ですが、転生というには不可解な点があります」


 首を傾けてエイミーは言う。


「不可解? 転生こそ不可解ではあるが、まだ他にもあるのか?」


 俺には転生自体が不思議なため、ほとんど理解はできないが、エイミーは続ける。


「はい。マスターの記憶です。転生したのなら、確実に記憶が付き添うのです」


「だが、俺には記憶がない、と」


 うむ。不思議だ。

 しかし、合点のいくところもまたかなりある。

 魔法が使える事だってその一つだ。何のために転生したのか、前世の俺が何をしていたのか、何故俺には記憶がないのか。知りたい事は山ほどある。

 だが、元はと言えば、それを知るためにこの世界に来たのだ。どんなにゆっくりでも、これから探していけばいい。一つ可能性が足されただけでも大きな進歩だ。この重大な情報を頼りに、あの街から再スタートするか。


 こんな会話をしながらでも、俺たちは高速で飛行中なのだ。

 目の前には、さっきの街とは比較にならない程の巨大な街が見えている。


「とりあえず話しは終わりだ。もう街が見える。少し離れた場所に着地するぞ」


 俺は少しスピードを上げて飛ぶ。


「また改めて話しをしましょう」


「そうだな。そうしよう」


「……うーん、なんだかはぐらかされたまま終わっちまったな」


 ぼやく声も聞こえるが、無視だ無視。


 やがて、だんどんとスピードを落とし高度を下げると、俺たちは街から数百メートル離れた草原に着地した。

 そしてそのまま近くにある道を、少し離れた街に向かって歩みを進めるのだった。

この通り、一章は夢の世界の話が毎話の頭に入ります。

どうか現実と夢の両方をお楽しみいただけると嬉しいです。


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