帝者、皇魔狼と話す
風の間を駆け抜け、皆の魔力を頼りに帝都の中央部へと向かうと、その付近より多大な魔力を感じる。更に脚を速く動かし、ものの数十秒でそこへ辿り着くと、目の前の光景を目にした俺は足を止めた。
「これは……いや、まさか……だが……間違いない!」
そこには平民たちを障壁により守るエイミー、レイミー、エリルの三人の姿と、エイミーが念話で言っていた魔獣どもの姿、そいつらと戦うネスティアとガディアの姿があった。
魔獣の名は、皇魔狼フェルゼン。魔界に住まうという高度な知能と強大な魔力や武力を持った最悪の魔獣である。ドラゴンをも喰らい、かつての四界大戦の時にも天界にまで名を轟かせるほど大暴れしたという逸話まで残っているのだ。
だが……なぜそんな奴がここにいるんだ?
無論さっきの輩が連れてきたのだろうが、よくもやってくれたものだ。
現代民では敵うまい。ガディアの実力が帝王と言われるほどのものであろうとも、フェルゼンの力には遠く及ばない。今の状態のネスティアでは、ガディアにも劣る実力だろう。おまけにフェルゼンの手下の魔狼たちまでいるときた。
あの結界が壊れるのも時間の問題だ。
俺は止めていた足を再び動かしながら、ガディアとネスティアに向かって叫ぶ。
「二人とも下がっていろ!!」
二人と魔狼たちとの間にスッと割り込む。
「そなた、来てくれたのか!」
嬉しそうに驚くネスティア。
「君にしては少し遅いんじゃないかい?」
ネスティアとは真逆に、少し疲れた表情のガディア。
「……お前を餌に使うっていう手も悪くはないが……」
「あー嬉しいなー!! 我らがリュウヤ君のお助けだー!!」
焦りながら棒読みするとは、これはこれで気分の良いものじゃないな。どちらにせよ悪ふざけはこれまでだ。
「今すぐ結界に入れ! お前たちの敵う相手ではない!!」
そう言うと、二人はうなづいて結界の元へ走って行った。
これで話しは聞かれずに済むし、俺の顔もバレはしないだろう。
あの結界の中には数千の平民がいる。だから轟音にも衝撃にも耐えられるように防音効果が施されているのだ。最悪の場合は記憶を消せば問題ないが……。それにもうばれていると言えばバレているしな。
一歩ずつ近づき、声の聞こえる距離まで進む。
グルルルと周囲の魔狼の唸り声が耳に響いた。
「皇魔狼のジジィがこんなところで何をしている?」
俺は巨体を見上げながら言った。だが、フェルゼンは何も言い返さず、ただこちらを見ていた。
どうやら魔法にやられているみたいだな。
これは……束縛の魔眼か。
「フッ、そういう事か」
笑いながらフェルゼンに近づくと、フェルゼンも少し体勢を変える。がしかし、次の瞬間、俺はそこから姿を消していた。
「とっとと目を覚ましやがれ。クソジジィ!!」
フェルゼンの頭のちょうど真上に飛んだ俺はそう叫ぶと、空気を思い切り蹴飛ばして奴の頭を力強くぶん殴る。俺の存在に気づくのが遅れたフェルゼンは、頭を強打されものすごい勢いで地面に穴を開けた。
地は割れ、衝撃波は周囲の建物を壊し、その中央には巨体が転がっている。俺は少し離れたところに着地すると、砂煙の中からは瓦礫が動く音が聞こえた。
「いったい、何が起きたのだ……」
砂煙の中から男の声が聞こえる。
「我は今まで何を……」
やがて砂煙が引いてくると、フェルゼンが体勢を立て直して立っていた。奴も俺に気づいたようだ。
「その魔力、覚えておるぞ。顔こそ少しばかり違えど、間違いない。ディルガノス、お主であるな?」
フェルゼンは俺を下に見ながら言う。
「久しぶりだな、ジジィ。目は覚めたか?」
俺も下から、下に見るように言った。
「ジジィではないわい。じゃが……もう歳であるか。我もあのような魔法に侵されるとは、時代に驕っていたようだ」
そう言うフェルゼンからは少し怒りと哀しみの情が見える。
「黒いマスクの、ゲルダとか言う男か?」
「そうだ、そやつだ!! お主もまみえたのか!」
ゲルダという名に過剰に反応するフェルゼン。間違いない。
ゲルダの左眼の青いのは、束縛の魔眼。フェルゼンのかけられた魔法も束縛。さっきのゲルダとの会話からしても、絡んでいるのはあいつだろう。
周りを見回せば、半壊した街が目に入る。少し息をつき、再びフェルゼンの眼を見る。
「話しは変わるが、ここは俺たちの街だ。これ以上暴れるつもりなら俺も続きをしてやる」
指をポキポキと鳴らしながら俺はフェルゼンに近づく。
「そうであるな、お主とは一度本気で相見えたいと思っておった」
フェルゼンも少し魔力を高めて俺を威圧的に見下ろす。
かつて何度か会っているが、別に仲間だとか友だとか、そんは間柄ではない。
俺もさっきよりかなり魔力を高めながら、互いに眼を見合った。
「かかってこい、と言いたいところだが、お主には礼を言わねばならぬ立場だ。ここではお主の仲間に悪い」
火花が飛びそうなぐらい魔力を高めているが、フェルゼンは義理堅くそう提案した。
こいつは昔からこういう奴だ。
それに俺も他の場所でやる方がありがたい。
戦い続きで疲れるが、イラついて殺さないように頑張るとするか。
ま、俺のペットにするというのも悪くはないが。
パチンッと指を鳴らせば、俺とフェルゼン、そしてその他の魔狼たちが、もう戦いの定番と化している平原に瞬間移動する。
「ほう、やはり魔法には長けておるか」
フェルゼンは昔を懐かしむように言う。
「昔のことを思い出すな。だが、思い出すたびに思うのだ。お主はなぜ生きておる?」
フェルゼンは目を細める。
「俺は転生したんだ。だいたい五千年前からな」
「転生だと!? フハハ、面白い! 五千年前に既に転生できる者がおったとは」
フェルゼンは笑いながら言った。
だが、俺にはそれが少し不思議だった。
「それはどういう意味だ? 後に誰か成功者が出たような口振りだが」
あのような高度な技術を持つ者は、俺の知る限りではほとんどいなかったはずだ。
「お主が転生したという時からほんの数十年ほど後、転生という効果を発揮する汎用魔法陣が作られた。使える者こそ少なかったがな」
なるほど、そういう訳か。数十年あればできなくはない芸当だ。
高度な技術を持つ者はほとんどいないだけで、まったくいない訳ではなかったからな。
「まあいい。だいたい分かった」
「そうか。ならば始めるとしようぞ。先に言っておくが、間違って殺してしまったらすまぬ」
また見下すようにフェルゼンは言う。
「すまないな。俺も手が滑るかもしれない」
互いに眼を見合わせ口元をニヤッとすると、莫大な魔力が弾け飛び、魔力による柱が天へと昇っていった。
フェルゼンの暗い青紫の毛は逆立ち、眼は真っ赤に輝いていた。俺も髪が揺れるほどに力を込めて、奴の前で仁王立ちをする。
風が二人の魔力を避けるように吹き、そこら辺に転がっていた意識を取り戻しかけている貴族たちの上を通り過ぎていく。
太陽はもうすぐ山の向こうへと沈んでいきそうなほどに傾いていた。
そろそろ二章も終わりです。
最近、リュウヤと呼べばいいのかディルガノスやディルと呼べばいいのか分からなくなってきました。
まあどっちでもよいのですが(笑)
@タイトルやサブタイトルを変更しました。
内容にも、加筆修正が入ります。
内容に関してはほとんど変化はないかと思います。
少しずつ変わっていくので、ご了承ください。
お読みくださってくれている方々、ご迷惑をおかけします。




