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帝者、全てを終わらせる

 九日目。

 この日の夢は長かった。


 どこまでも続く平野に、多くの者が武装して並んでいるのを見下ろして、空高くを飛んでいるところで気がついた。


ーー九日目ーー


 天は黒く染まり、地は人々で溢れかえる。

 世界と俺ーー悪神との全面戦争だ。


「ハッハッハッ、下界に住まう全ての種族よ!! この世界は今日をもって我がものとなるのだ!!」


 夥しい人々で埋め尽くされた地を見下ろし、高らかに宣言する。


 俺は巨大な悪魔のような姿に変身し、闇の衣を纏い槍を持ち、人々の恐怖としてそこに君臨していた。

 今から善神に討たれるのである。


「悪神ゲルダよ。この世界は私が守る!! そなたの好きにはさせぬぞ!!」


 俺に相対するのは、善神の役目を負ったエルスであった。俺が彼女に命じたのは、善神として俺と闘う事だ。


「さあ、下界に住まう勇敢なる戦士よ! 共に戦おうぞ!!」


「おおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」


 地を揺らすが如く、地上から声が響く。

 

「行くぞっ!! 悪神ゲルダよ!!」


「来いっ!! 捻り潰してくれるわっ!!」


 巨槍と巨斧が交じり合う。しかし、光と闇は混じり合うことなく、空間に火花を散らす。

 悪神の纏う闇が空間の半分を、善神の纏う光が残りの半分を占め、互いにぶつかり合った。


 地上には数多の魔法陣が展開され、俺と影魔を狙って魔法が飛んでくる。

 闇を討つべくして、全種族が共闘しているのだ。


 俺が心待ちにしていた光景を、自分を敵として実現させる事が出来たのである。

 何時間も続く闘いの中で、唯一そこに喜びを感じられた。

 

 後は俺がエルスにやられれば終わりだ。


 手筈通りにエルスが巨大な斧に光を纏わせ迫って来る。


「悪神ゲルダよ。これが世界の決断だ!! この世界に貴様の居場所はないっ!! その身で感じろ、人々の怒りをっ!!」


 大きく振り下ろされる斧が、ズザッと俺の身体を斬り裂く。光に侵食され、身体が崩れていった。

 だが、まだ終わりではない。


 俺の身体が闇に包まれ、どす黒い光となって消えていく。


「フハハ、フハハハハッ!! これで終わりではないぞ……!! 我は蘇る……何度でも蘇り、この世界に恐怖を与えよう。我がまた蘇るまで、せいぜい恐怖に身を焦がすが良いっ!!」


 フハハハハと不気味な笑い声が響き、虚空へと消えていった。

 同時に、どす黒い光と悪神の巨城、影魔も完全に消滅し、天から降り注ぐ太陽の輝きに地上から歓声が上がったのであった。


 その歓声を搔き消すように、善神であるエルスが声を上げた。


「人々よ、これは我々の完全なる勝利ではない!! 奴はまた現れると言った。その通り、神は不死身なのだ!! 奴がそう言ったのならば、また現れる。私もこの闘いで力を使い過ぎた」


 そう言うエルスの身体も、だんだん薄くなり、光の粒へと変わっていく。


「やがて奴が復活した時、この世界は窮地に立たされるだろう。その時、闘うのは其方らこの世界に住まう者共だけだ。先のように争い、同じ世界に住む者同士で傷つけ合っていては奴の思うつぼであろう。どうか、今日のように皆で協力し合い、より良い世界を造ってくれ。これが私からの最後の願いと贈り物だ」


 右手を天に構え、大きな光が生まれる。

 次の瞬間、その光は分散し強い輝きを放ちながら遠くへ飛んでいった。


 もう殆ど消えかかっている善神は、最後の言葉を言った。


「この光が、魔界と天界と下界を隔てていた世界の壁を破壊し、この世は完全に一つとなった。今日からここにいる皆が同じ一つの世界に生きる者なのだ。今一度言おう。悪神の事を忘れぬように、共に助け合い、より良い世界を造るのだ。それでは、さらばだっ!!」


 悪神同様に、善神もこの世から消え、歓声の声もなくなる。

 希望であった善神が姿を消したのだ。悲しみに堕ちる者も少なくない。


 俺とエルスは、その様子を遠くの山の上から眺めていた。

 消える演出をしつつ、転移魔法で消えたのだ。

 

「なかなか骨の折れる仕事であったな」


「はい……。でも、ディル様がこうして生きる道を選んでくれた事だけで、私は嬉しくてたまりません!!」


「…………俺は……消えるぞ?」


「……え? なぜ……どうして……どうしてですかっ!?」


 笑顔だったエルスの顔が、一瞬にして絶望に変わる。


「俺はずっと平和な世界を夢見て生きてきた。前に、五百年前の話をしたな。覚えているか?」


「……はい」


「察しはつくと思うが、あれは魔王と俺の話だ。あの時の俺には力が無かった。戦った事もなく、魔法も使えない。いや、使おうと考えた事すらない、そんな弱小な人間だった」


 どうせ消えるのだ。もっとちゃんと伝えてもいいだろう。

 俺は流れる雲を眺め、地べたに転がりながら続けた。口調は昔のように柔らかなものに戻っていた。


「だから守れなかったんだ。唯一の友達を。魔王の軍が攻めてきて、街が消え、人が消え、それでも生き残っていた俺たちは、最後の二人として魔族に囲まれていた。当然、何も出来なかったさ。結局、彼女だけ目の前で殺された。それで、俺は暴走したんだ。魔力が爆発して、街の残骸すら消し飛ばして、気がついた時にはベッドで寝ていた。大精霊が俺をつきっきりで見ていてくれたんだ。おかげで俺は一命を取り留めた。けど、現実も受け入れなければならなかった」


 長く話し続けて、ふと隣を見てみるとエルスが泣いていた。


「そこから大精霊に稽古をつけて貰い、今の俺ができるまでには一年とかからなかった。でもな、ちょうど一年経った時には、大精霊は何も覚えていなかった。稽古を始めて一ヶ月ぐらい経った時に、あいつは魂を鎮めるためにガルディアに行ったんだ。魔力が乱れるあの地へ長居するのは精霊には自殺行為のようなものだが、あいつはそれを知っていて実行した。その後遺症がそれだ。だから今のあいつは何も覚えていない。あいつの記憶からは、俺を稽古した事も消えている」


 あの日の事を話そうと思うと、やはり長くなる。

 だが、ちゃんと話さねばならない。

 

 泣きながら黙って聞くエルスを横に、俺はまだ話しを続けていった。


「話が逸れたな。俺はやっとの思いで現実を受け入れてから、とにかく魔王を殺す事だけを考えて生きてきた。でもそれは、途中から平和な世界を造る事に変わっていった。仲間が出来て、国を作って、城を築いた。それがちょうど三百年前。そこからやっと今日世界は平和への道を歩みだした。ようやく俺の役目は終わったんだ。魔王も消えて、世界は平和になった。俺がこの世に生きる理由も、もう何処にも存在しない」


 ここまできて、エルスが口を開いた。


「……違います。理由ならあります。貴方は、私たちの掛け替えのない主人……いいえ、仲間なのですから!! 貴方はもう十分苦しみました。これからは純粋に楽しむ為に生きてください!!」


 そう言う彼女はとても真剣な眼差しだった。

 

「ありがとうな。だが……俺は予定通り消える。なにも永遠の別れじゃないさ。このまま五千年先に転生しよう。ゆっくりと長い時を休み、またこの世に現れる」


「そんな……それでは永遠の別れと変わりないじゃないですかっ!!」


「また、会えるさ。お前が会いたいと思っていれば、きっと、な」


 仕方がない。ここまで言われてしまうと、ほかの奴らのことも心配になってしまう。

 ちゃんと皆に話してから、全てを終わらせるとするか。


 大量の涙が溢れ出す彼女を抱き寄せ、軽く背中をさする。

 そのまま延々と時が流れて、日が暮れる頃には地上を埋め尽くしていた人々は皆居なくなっていたのだった。


ついに一章は残り一話となりました!!

次は現実での話だけとなります。

そしてリュウヤの記憶も……さて、どうなるんでしょう?



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