表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

カッパえびせん

作者: 起爆

男子中学生の、恋愛ものです。ストーリー、オチは王道です。

不快な表現や、文の構成や文法などでおかしな点がありましたら、指摘していただけると嬉しいです。

〈大和side〉

熱い。

口の中は乾ききっているが、妙に唇だけが熱を持っている。

ハヤタからの返球を、手首だけを動かして受け取る。

8回裏ワンナウト、ランナー二三塁、ツーボールワンストライク。

7回裏の守備は、俺の暴投で3点取られてしまった。点差は2。

ハヤタが、「抑えるぞー!!」と声を上げる。

外野がそれに応える。

ハヤタが、次はここだ、とグローブをパンパンと拳で叩く。

俺もそれに応えなくてはいけない。

頭ではわかってても、体がついてこなくて、イライラする。

この流れをどうすればいいんだ。

熱くて熱くて、頭がぼうっとして、どうすればいいかわからなくて。

俺のせいでチームがピンチに立たされている。俺のせいで。俺のピッチングが全部悪い。この試合を組み立てるのは俺のはずなのに、俺が壊してる。

砂がついた手を、ズボンで拭く。もう一度息をする。

どうしても、ここは抑えたい場面。なのに、体がうまく動かない。

次暴投したらどうしようと、不安が胸の中をちらつく。

でも、投げなきゃいけないという漠然とした使命感が俺の中にはあるから。

ふっ、と息を吐き、ピッチング動作に入る。

アンダーシャツから出ている首筋を、チリチリと太陽の強い日差しが焼く感覚だけがはっきりと感じられる。

俺が投げたボールは、いつものようなスピードを見せることはなく、大きくストライクゾーンを外れた。



〈浩樹side〉

試合中の大和は、野球のことを全く知らない俺からしても、調子が悪く見えた。

何というか、体に力が入ってない。

というより、体に力を入れることができていない、と言ったほうが正確なはずだ。

フェンス越しにみていても伝わってくる、大和の焦りと息遣いが、痛々しかった。

試合は結局、7-2で朱鷺原(大和チーム)が負けてしまったようだ。

ついさっきまで大和が立っていたマウンドは、綺麗に整備されている。

朱鷺原の選手たちは、各々の荷物を持ってグランドから出てきている。

その中に、大和の姿を探す。

…いた!隣にいるのは…、ハヤタ?とかいうキャッチャーだ。

大和の肩を担いで、何か喋っている。

俺は、「大和!!」と声をかけた。

大和が少しビクッとし、俺の方をゆっくり向いた。

「あ、浩樹……。」

大和はそう呟くと、不意に顔を引きつらせた。俺からふいっ、と目をそらす。

「あの、試合、おつかれ。これ、……」

差し入れだよ、と言葉を続けようとしたのを、大和が遮った。

「……ッ疲れてなんかいねぇよ。」

え?、と一瞬硬直する。

「だから、俺は疲れてなんかいねぇんだよ!」

その剣幕に、迫力に、気押される。

「あ、ご、ごめっ……。」

声が小さくなる。自然と顔が俯くのがわかった。

そのとき、俺は大和の右肘がテーピングしてあることに気づいた。

「え、その肘、どうしたの?」

大和の眉がヒクッと動いた

「……ッお前には関係ない。」

大和が俺に八つ当たりしているのはわかったが、俺はなんもいうことができなかった。

試合中の大和が思い出される。

少しの間、沈黙が続く。

すると、ハヤタとかいうキャッチャーが大和の腕を軽く引っ張った。

「なぁ、もう行かね?ミーティングだってあるんだしよぉ。」

大和は、「あぁ。」と答えると、後ろを向いて歩いて行ってしまった。

関係ない、か。

大和のために買ってきたアイスが、手に持った袋越しに溶けていくのが分かった。



〈浩樹side〉

市民グラウンドからの道を、1人で歩いて帰る。

太陽が少し傾いて、木の葉陰が道に跡を付ける。

本当は、部活が終わるのを待って、大和と2人で帰るつもりだった。

けど、今俺が大和と一緒にいたって、イライラさせるだけだ。

俺は野球のことは何もわからない。

だから、今の大和に何かしてあげることはできない。

そう、頭で分かってはいても、やっぱり寂しい。

今、一緒に大和と帰れてないのも、大和が、俺が大和の野球を理解するのを望んでないのも、なんだか1人にさせられたみたいで嫌だ。

大和が遠く感じる。俺はもっと一緒にいたいのに。

2人分のアイス、もう溶けちゃったよな。早く家に帰らないと。

そう思い、歩くペースを上げた。



〈大和side〉

「じゃーな!」

「おー。明日なー。」

ハヤタに返事を返し、俺は自転車を漕ぎだす。

ふと上を見上げると、太陽の日差しがもろに顔にあたる。

夏だなぁ、と思い、今年の夏何がしたいかと考えた。

まず、野球部の合宿で大食い競争をして、いっぱい練習して、都大会で上位を狙って、活躍して……。

そのためには、今日みたいなことは絶対起こしてはいけない。

俺のせいで試合に負けるなんて。思い出して、唇を噛みしめる。

そこで気づいた。

「………浩樹。」

そうだ、浩樹は?そういえば、今日は一緒に帰るって言った気がするけど…。

ハッとする。俺は、自分が浩樹に言ったことを思い出した。

そっか、流石に帰ったよな。俺が八つ当たりしたから。

浩樹は、せっかく俺の試合を見にきてくれてたのに。さっきの自分の言動で、浩樹のこと、どれだけ傷つけたんだろ。

なんだか、言い表せないような感情がせり上がってきて、すごい焦りを感じて、夢中で自転車をこいだ。



〈大和side〉

自転車を急いで止めて、家に入る。

ココミ(大和の妹)が「おかえりー。」とテレビを見ている顔を動かさずに言った。

無視して二階の自分の部屋に上がる。

肩から落としたエナメルが、ドスッと鈍い音をたてた。

机の上ににあるスマホを手に取り、着信を確認する。

「……0件。」

だよなぁ、と思い、スマホをベッドに放り投げる。

そのままその場にズルズルと座り込んだ。

部屋の中の静かさが、俺に何かを訴えているようだった。

テーピングされた右ひじを掴む。

思わず、左手に力が入った。

俺のせいで試合に負けた。チームに迷惑をかけた、俺が。悔しいというか、申し訳ないというか、やりきれない気持ちだ。

なんであの時、体があんなに重かったのか。

なんでコントロールがつかなかったのか。

なんで球に力がこもってなかったのか。

野球肘だから?そんなの関係ないだろ。

俺の今日の失敗を、肘のせいにしたくない。

俺はピッチャーだ。

どんなことがあっても、俺が崩れてはいけないし、俺の役目をやり通さなくてはいけないのに。

ダメだった。

イライラして、悔しくて、全部吐き出したいのに、なんだか息がつまる。

誰かに、話を聞いて欲しいと思った。

話せば、つっかえてるのが取れる気がした。

浩樹に会いたい。心からそう思った。

俺が、浩樹に言った言葉。

謝りたい。

「……、ダッセェなぁ、おい。」

と、自然と口から言葉が漏れた。

俺は壁に掛けてあったパーカーを掴み、ココミに「走ってくる。」と言って家をとび出した。



〈浩樹side〉

先生の話す言葉が、右耳から左耳に流れていく。

最近、やっと勉強頑張ろうと思いはじめて、塾では集中するようにしてたのに。

今日は全く頭が働かない。

なんでだろ、と思うと、理由は一つしかないのがわかる。

はぁ、と息を吐き出す。

……大和。

「関係ない。」そう、大和は言ったけど、あれはただの八つ当たりで、本音じゃないってことぐらい俺もわかってる。

なのに、なんで俺はこんな悲しいんだろ。

理由は簡単だ。

俺が、大和の野球について理解してないのは本当のことだから。

寂しい。俺たち、好き同士のはずなのにって思う。

でも、、もっと寂しいのは、

今日のことで大和との関係が崩れることだ。

それは絶対に嫌だ。

はぁ、、とまたため息が出た。

「ちょっと、二伊くん?ちゃんと集中して。この問題わかったの?」

急な声にびっくりする。

「あ、すいません。」

とっさ的に返しながらも、頭はまだぼーっとしていた。



〈大和side〉

俺は家から止まらずに、駅近くにある浩樹の塾まで走った。

塾の隣に設置してある自動販売機の横まできて、俺は走るのをやめた。

いつもよりペースが速かったようで、息が上がっている。

ポケットからスマホを出して時間を確認すると、19時53分だった。

浩樹は、いつも8時ぐらいに塾から出てくる。

そろそろか、と思いしばらく待つと、キィッとガラスのドアを開ける音がして、中から浩樹が出てきた。

「浩樹!!!」

浩樹は体をビクッとさせ、こっちを向いた。

「え、大和?」

心底驚いたような顔をしてる。

「ど、したの?なんでここに?」

俺は、「一緒に帰ろう。」と呟くように言った。

「…?うん。」

と浩樹が頷き、俺たちは歩き出す。

星は出ておらず、暗い青色の空に、黄色い丸い月がかかってる。

俺は、短く息を吸い込んだ。

「あの、今日のことなんだけど、……ごめんな。」

「……。」

浩樹は何も言わない。

「試合、……俺、悔しくて、俺のせいで負けるし、なんかもう、イライラしてて。」

俺は、スニーカーのつま先に視線を落とした。

「うん。」

浩樹が頷く。

「それで、俺、浩樹に言ったこと謝りたくて。」

もう一度、浩士は頷いた。

「ううん。俺、わかってるから。だいじょうぶだよ。」

「えっ。」

驚いて、浩樹の方に顔を上げる。

「大和が、毎日体づくりのために走ってることとか。野球部で大変なはずなのに、いつも俺との時間を作ってくれてることとか。俺、大切にしてもらってんなぁって思うことたくさんあるよ。だから、大和が言ったこと、本音じゃないってわかってるつもりなんだけど…。」

「……。」

浩樹が、俺のことをわかってくれてる。

心がポッと熱くなって、優しい気持ちになる。

「俺さ、大和のことが好きだよ。」

えっ、。と、突然の言葉に驚く。

「え、どした。急に。」

浩樹は顔を赤くすると、こっちの目をしっかりと見て言った。

「…だから、好きだって言ってんの…大和に。」

浩樹はそう言うと、俺の肩に手を乗せ、

ちゅ、とキスをした。

唇が離れて、浩樹の顔を見ると、さっきとは比べ物にならないくらい赤くなっていた。

ああ、俺、すごい幸せだな、と思えた。浩樹のことを好きになってよかった。

「浩樹。俺も、好きだよ。」

浩樹の目を真っ直ぐ見て、伝える。

浩樹の目が大きく見開かれる。

俺は、思わず笑みを溢した。

「なぁ、もっとキスしていい?」

そう聞くと、こくん、と浩樹は頷いた。

今度は、ちゃんと浩樹の方を向いて、キスをする。

ちゅ、ちゅ、とお互いの唇をついばむ音が、耳を刺激する。

唇を少し離し、小さな声で呟く。

「舌、入れたい。」

「……大和が、もう一回好きって言ってくれたらいいよ。」

可愛い。

俺は、浩樹の耳元に顔を近づけた。

「……好きだ。」

浩樹は、ビクッと体を震わせて、

「うん。」

と頷いた。

俺は浩樹の唇に、もう一度自分の唇を重ねた。



〈浩樹side〉

「…ただいま。」

母さんにそう言い、階段を上がる。

あの後、大和は俺のこと家まで送ってくくれて、その間ずっと手を握ってて、最後にもう一回キスして、、、。

さっきまでの出来事を思い出して、俺は自分の顔が赤くなっていくのを感じた。

ガチャ、と自分の部屋のドアノブを回す。

その時、ポケットに入っている携帯が、ブーッと振動した。

画面を確認する。

大和からの着信だった。

『明日、遠征が午前で終わるんだけど、そのあと遊ばない?」

つい、嬉しくなって顔が綻ぶ。

『うん!遊ぶ!楽しみにしてる』

と、返信を打つ。

明日はどこに行こうかな、と考えていると、大和から、今度は電話がかかってきた。

「もしもし。」

「うん、どーしたの?」

「いや、あのな…。」

「…うん?」

「明日の試合、よかったら見にきて欲しいなっておもって。…俺、明日、頑張るから。浩樹にかっこいいとこ見せられなくても、頑張るから。だから…。」

「うん、いいよ。俺、明日も応援行くよ。でも……。」

「肘、無理しないでね。」

「ああ、うん。……そうだな。」

「うん、明日も頑張って。」

と、俺は頷く。

「ありがとう。」

大和のその言葉で、俺の心があったかくなる。

「…じゃあ、明日。おやすみ。」

「うん、おやすみ。」

そう言って俺は電話を切った。

そのまま、ベッドに倒れこむ。

ブーッと携帯が振動し、大和からメッセージが送られてくる。

「また明日」

「うん!」

と返事をして、俺はクスッと笑った。

今日はなんだか、いろんなことがあった気がする。

でも、今日のことで、思ってたより大和は俺の近くにいるってことがわかった。

ふふっ、と笑いが漏れる。

明日は、何を差し入れに持っていこうかな……。








最後まで読んでくださりありがとうございました。

不快な表現や、文法、話の構成、誤字、分かりづらい点などがありましたら、指摘していただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ