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追い出しコンペ


「ヨシ、これ。」


「んぇ?」


「お前の追い出しコンペ。」


「あぁ!あれほんとにやるんだ。」

完全に忘れていた。

わたしが3月いっぱいで辞めてしまうので、そのお疲れ様コンペだ。

だいたい、長めに勤めた講師が辞めるときに毎回やるのだが、私は前回のコンペ優勝者なので特別に開催してくれるらしい。

あと半年に一回のコンペの時期でもあるし。


「おうよ。他の校舎のスタッフも勝ち逃げは許さないって息巻いてるぞ。」


「まぁ、ディフェンディングチャンピオンとして、可愛がってやりますか。」


「今回新人の元ツアープロも入るから頑張れよ。」


「ほげぇぇぇ!!!!」

今回の新人講師のツアープロといえば、講師としては新人だが、その実、プロゴルファーとしての歴は長く、引退したばかりでまだ一線級の力を持っている。


「絶対負ける。」


「優勝者には俺がなんでもしてやるよ。」


「はい言質取りました。」

ポチッとな。

『優勝者には俺がなんでもしてやるよ。』


「おい!ずるいぞ!」


「言ったのは叔父さんですからねぇ。

ちなみに、私この前アメリカでなおちゃんとドラコン勝負して勝ってますから。」


「てんめぇ…!!!」


「さーて、なにしてもらおうかなぁ。

車カスタムしちゃおうかなぁ。

ピアノもう一台買っちゃうかなぁ。」


「ふざけんなよ!」


「コンペ、当日が楽しみですなぁ!

首洗うてまっといてくださいや。」


「クソが!」


せっかく叔父さんがなんでもしてくれるらしいので、またこの勝負頂くとしよう。


それからというもの、私は勝負事に負けるのが大嫌いなので、ゴリゴリに練習した。

ピアノ以外の時間は全てゴルフに割いたと言っても過言ではない。

自宅のアプローチ練習室も最大限活用した。

打ちっぱなしも行きまくった。

ここ数年で一番いいコンディションと言っても過言ではない。



そして迎えたコンペ当日。

会場は群馬県のレイクウッドカントリー。

まだ冬の寒さが残るが早朝にもかかわらず私はゴルフ場に併設の練習場に来た。


「おはようございます。」


「おぉ、ヨシ。

当日まで練習とは、ディフェンディングチャンピオンなのに弱気か?」


「ドライバーの飛距離見てから言ってもらっていいですか?」


今回のためにドライバーは新調した。

シャフトはより硬く、より重く。

自分が振り切ることのできる最大の重さと硬さにしたのだ。

ヘッドもプロ仕様。なおちゃんに頼んで、契約しているクラブメーカーでフィッティングさせてもらった。

ほぼプロ仕様と言っても過言ではないハイスペッククラブだ。


そのクラブを渾身の力で振り切る。

朝イチでかましてやろうと思ったので準備運動もしっかり30分して体も温めてきたので、怪我の心配は無いと思う。


カキン!といった小気味良い音を立ててゴルフボールがはるかかなたに飛んでいく。

ナイスショット!と自分で言いたくなるような弾道だ。


「てめぇ…。

ゴリゴリに練習しやがったな…。」


「もちろん。」


そんなふうにバチバチに叔父さんとやり合っていると声をかけてくる人が。


「いまの、ほんとに素人の人のショットですか…?」

前シーズンまでツアープロとして活躍していた大平さんだ。

今日一番の強敵である。

「おはようございます!

胸を借りるつもりで頑張りますので今日はよろしくお願いします!」


「こ、こちらこそお願いします…。」

大平プロもドン引きのようだ。



始まってみると、まぁー調子が良い良い。

打てば飛び、刻めば止まり、狙えば入るとはまさにこのことだった。

「こりゃドラコンももらったかな?」

ドラコンは前半後半で1ホールずつの計2ボールが設定されている。

ニアピン賞も同様だ。


「もしかして、藤原先生、ドラコンもニアピンも全部取っちゃうんじゃないですか?」


同じ組の人がそんなことを言う。


「まさか、まさか。

皆さんお上手ですから…。」


前半を終えてスコアは33。

後半を規定打数通りで上がるとトータル69で、規定打数より-3となる。

一番ゴルフをやってたときと同じくらいのスコアで回れそうだ。

前回のコンペとあまり変わらないのでまぁまぁと言ったところか。自己ベスト、出たらいいなぁ。


「お疲れ様、ヨシ。」


「お疲れ様です〜。」


「随分調子いいみてぇだな。」


「まぁ、それなりに…。」


「でも、前半、お前2位だぞ。」


「はっ!?!?

一位誰!?」


「大平プロ。」


「大平先生かぁ〜。

まぁツアープロだったしねぇ。」


「ちなみにお前と一打差の32。」


「ふ、ふぅーん。

まぁ後半も頑張るよ。」


「おう。」


私は心の中の闘志が燃えるのを感じた。

絶対勝ってやる。そう思った。


後半のホールは、前半よりも攻めた。

若さ溢れる攻めのゴルフでスコアを重ねる。

ドライバーでかっ飛ばして、一発で寄せて、ワンパットというメジャープロみたいなゴルフがこれまた今日の調子とうまくマッチ。

蓋を開けてみると後半は30というハーフの自己ベストタイ。

トータルスコアは63で、9アンダーというとんでもないスコアが出てしまった。

大平プロの結果が気になったところで、みなさんホールアウトしたので、風呂に入ったりなんだりかんだりして、銀座店でお疲れ様パーティーだ。

結果発表はそこでおこなうことになってる。




銀座店に着いて、私以外の講師、生徒は皆成人してるので、飲めや歌えやの大騒ぎ。

いい感じに場が温まったところでいよいよ結果発表。


「それでは、結果発表です!!

3位!生徒さん!二子玉川店の吉武未奈さん!

5アンダーです!」


レディスはハンディがあるとはいえ、とんでもないスコアだ。

ちょっと前、プロテスト受ける予定のとんでもない生徒がいるって噂になってたけどこの人か。

ちなみに、二子玉川店はプロテストコースがある、最近できた店舗だ。

3位以下はほとんど二子玉川の生徒が占めていたらしい。


そんな二子玉川店のエース吉武さんが皆さんから拍手を受けてはにかんでる。

かわいい。

これは日本ツアーを彼女が回る日も近いかもしれない。


「2位!惜しかったですね。

丸の内店 講師 大平智治プロ!

7アンダーです」


悔しそうな顔をしているが、楽しそうな笑顔を抑え切れていない大平プロ。

握手を求められたので素直に応じる。


「そして堂々の1位!

銀座店 講師 藤原吉弘!

9アンダー!

イカサマでもしたのかこの野郎!」


さらに大きな拍手がわっと沸く。


優勝者コメントを求められたのでマイクを持つ。

「どうも、不動のチャンピオン、藤原でごさいます。

私は今回のコンペで講師を辞めますが、どうか、私のスコアが誰かに越されることを願っています。

生徒の皆さんはぜひ練習してください。

もし、私のスコアを超える生徒が現れたら、その時はまた私が相手になりましょう。

本日はありがとうございました!」


大きな拍手で、結果発表が締めくくられる。

このあとプロ入りを熱心に誘われるがいつものことなので華麗にスルー。


やっぱゴルフは楽しいな!!

家に帰ってまた猛練習した。ピアノを。




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