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努力型の天才ピアニストは白と黒の世界で生きていく。(旧題:放課後のピアニスト)  作者: 黒鍵


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ある審査員の話。


「次は例の子ですよ…。」


「おぉ、例の…。」


周りでは他の審査員がざわめいている。

彼の留学審査はほぼほぼ通過していると言っても過言ではない。

現に、水面下では教員同士で密約すら交わされていると言う話も聞く。


彼の才能、いや、この場合は努力と言ったほうが正しいか。


彼の努力はそれだけの輝きを持っている。


きっとこのまま彼を伸ばすことができればコンクールだって好きな賞を好きなだけとることができるだろう。

実際、彼の演奏を聴いて目の色を変えた教授陣も山ほどいた。

お手軽な自分の成績ブースターになりうる金の卵なのだから。


まぁ、今更になって有象無象が騒いだところで意味はない。

最初アマネに彼の存在の話を聞いたときにわかには信じ難かった。

しかし彼の音色は本物だった。

そしてそれは才能によって生まれた時から与えられているものではなく、彼自身の手によって生み出されたものということも納得できた。


全くどんな爆弾をジュリアードに投げ込むのかと思ったら、私の予想を超える特大の爆弾だったよ。


今まさに音を奏でようとしているその彼がウチにきたいと言っていると彼女から相談を受けたときに、まず彼女の弟子だったマリアに話を通して、アメリカでの盾になることを約束した。

権謀術数うずまくジュリアードの有象無象どもから彼のかがやく未来を守り抜く。

それが音楽に魂を売った者の使命だ。


さて、聴かしておくれ。

君はどこまで成長したんだい?




彼の演奏を聴き終えて、私が抱いた感想は、まさに脱帽の一言だ。

雨だれを演奏し始めたときには正気を疑ったが、どうやら彼は音楽を映画にする力を持っているらしい。

強制共感覚というのだろうか。

彼の演奏には明確に色がついている。

そして情景が浮かび上がる。

ショパンが見てきた景色、ショパンが感じた空気、そのすべてを我々に見せてくれる。

彼の基本に忠実な演奏が、まさに作曲者の演奏そのものなのだろう。

作曲者が作ったように弾く。

究極の楽譜通りの演奏だ。



二曲目はペトルーシュカ。

このとんでもない難曲を易々と引きこなすとは恐れいったよ。

しかも、演奏をただひたすらに練習してきただけではない凄みすら感じる。

ロシアにでも行ってきたか?

まさか。

このオーディションのためだけにそんなことをするわけがない。

ペトルーシュカも雨だれと同じように、バレエの一場面が浮かび上がる、まさに真に迫る演奏だった。

彼ほどのペトルーシュカが弾ける生徒がジュリアードにどれほどいるだろうか。

講師を含めたとしてもきっと片手で収まるだろう。


とんでもない生徒が入ってくるぞ。


今年のジュリアードには嵐が吹くと感じ身震いをした。



彼の審査結果は満場一致の合格。

水面下での取り合いに敗れた教授陣が何人か反対するかとも思ったが、いくら権力争いに溺れてるとはいえ、音楽に人生を捧げた者としての矜持か、誰一人として反対できなかった。


どうやらこの老害どもの話し合いでは、最大派閥のコッペンハウアーが獲得することで話がついたらしい。

いざゼミ選択で蹴られると知った時の顔が見ものだな。

それまでは彼を、蝶よ華よと可愛がってご機嫌とりでもしてやってくれ。



〜〜〜〜〜〜〜〜side 柳井実季



うん、完璧。

彼の演奏には一分の隙もなかったわ。

他の候補者には申し訳ないけど、彼と同じときにオーディションを受けたことを呪うしかないわね。


たぶん、例年より今年はみんな上手いはず。

でも相手が悪かった。

私でさえも彼の演奏を初めて聴いた時に負けを悟ったわ。


あ、彼が出てきた。


「お疲れ様。」


「あ、先輩お疲れ様です。

演奏どうでした?」


「うーん、私としてはまぁまぁといったところかしら。」


「やっぱり先輩の耳はごまかせないですね。」

彼はそのあと、どこが良かったか、どこが悪かったか1人でずっとぶつぶつ呟いてた。

こういうところを見ると、努力の天才なんだなって素直に納得できる。

自分は全然上手くないっていってたけど、そのハングリー精神が彼の成長の源なのね。

ほんとに恐れ入るわ。


吉弘くんと合流したあと、彼の車で広尾のフレンチに行った。

最終オーディションに限って、選考結果は郵送だけど、正直落ちるわけがないと思っている。

なのでその前祝いを兼ねて、お疲れ様会をすることにしたの。


私の奢りだから、どれだけ食べられるか怖くて仕方ないけど、祝い事だから、ね?

パパも許してくれるはずということで、滅多に使うことがないパパの家族用のクレジットカードを使わせてもらう。

友達からドン引きされるので見せるなと、きつく言われている黒いカード。

家賃も何もかもこのカードから引き落としになってるから限度額がまだあるかどうか怖いけど、大丈夫なはず…。

パパは何かあった時に使えっていってたからきっと…これで使えなかったら許さないからね…!!!



さすが、広尾のフレンチにというだけあったわ…

フルコースなんて久々だったけど、マナーもなんとか体が覚えてたわね…。

店の雰囲気に飲まれて挙動不審な吉弘くんをみれただけでもその価値はあったわ…。


宴も酣とと言ったところで、席を立つ。


こっそり先にお会計を済ませとかなきゃ。


「こちらお会計、二名様でサービス料含めましてこちらでございます。」


「…ッ!」

息を飲むような金額を提示されてしまった。

店員さんのこちらを心配している目が怖い。

「…カードで…。」


そう言っておずおずと黒いカードを出す。


「ッ!?!?」

何故か店員さんも息を飲んだ。

もしかしてすごいカード…?


「あの、このカードってなんかすごいんですか…?」


「いえ、そのようなことは…。

大変、ステータスが高いことは存じ上げておりますが…。」


「ステータスが高い?」


「?」

店員さんもポカンとしていた。


「すみません、私このカード父から持たされてるだけなので全然わからなくて…。

もし何かあるんでしたら教えてくださいませんか?」


「さようでございましたか…。

あまり私の口から申し上げるのもよろしくないのですが…。」


「お願いできませんか?」


「は、はい。

実はこちらのカードは家族カードのブラックカードと呼ばれる物でして…。」


「つまり?」


「おそらく限度額無制限と言われるようなカードかと…。」


「な、なるほど…。」

パパ…なんてものを娘に持たせるのよ…。


無事会計できたので、お手洗いに行ってお化粧を直して先に戻る。


「よし、じゃあ出ましょうか。」


「あれ?お会計は?」


「お祝いなんだからそんな野暮なことは言いなさんな。」


「あざっす!

ごちそうさまです!」

こういう時は無駄なことを聞かず、素直に奢られるという、そんな奢られ上手なところはどこで勉強したのかしら。


私は嗜む程度に飲んだけど彼は未成年なのでまだ飲めない。

だからちゃんと車で来ることができるのはほんとにメリットしかないと思う。


バレエパーキングをやってるお店なので、店を出る時にはキチッと車がエントランスの車止めに待機している。


次回来る機会があればいいが、ぜひまた来たいと思った。

あ、次はパパに連れてきてもらおう。





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