表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/166

ふつうのひ。



最近は車で大学に通い、車でバイト先に顔を出し、車でホテルに帰る生活が続いているのだが。



正直、ホテルが快適すぎて。

最初はとにかく逃げたくて怖くて駆け込んだホテルだったのだけど、落ち着いて考えたらめちゃくちゃ高級なホテルに逃げ込んでしまった。



ロビーに駆け込んできた私のただならぬ様子を見てコンシェルジュさんが落ち着いて話を聞いてくれて、部屋を用意してくれた。


後々話を聞いてみたら、コンシェルジュさんもかなり驚いたらしいが、今のホテルに勤める前はそういうこともあったので対応することができたとのこと。

そしてコンシェルジュさんも若い頃に似たような経験があり、その時に助けてくれたのが、このホテルの先代のコンシェルジュさんだったらしい。

男性に対するそういう被害って、目を向けられるようになったのはごく最近だから仕方がないのかもしれない。



両親と弁護士が、後始末をしてくれているので、東京でのケアは叔父さんが一手に引き受けてくれた。


毎日私の仕事があるわけではないが、毎日顔を合わせてくれている。


こういうことがあると、自分は周りの人にどれだけ支えられているのかということを再確認することができる。



「ホテルのご飯ってなんでこんなに美味しいんだろう…。」


今日は普通に授業があるので、ホテルのビュッフェレストランで朝ごはんを食べている。


「美味しいなぁ…。」





いつもどおり、普通に学校に行き、普通に学校のカリキュラムをこなして、普通にバーのバイト先に行く。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「おっきたきた。」


このバーに通い始めて数週間。

私はただのバーホッパーと呼ばれる、バーを梯子するのが好きな、バー好きおじさんだ。


そんな私が最近はあるバーに定住している。

週に1回絶対にこの店に腰を据えて、ひとときを楽しむ。


それにも一つ理由がある。


この店には年代物の古い大きなグランドピアノが置いてあり、1日2ステージのピアノ生演奏があるのだ。


別にピアノが取り立てて好きというわけでもなく、

音楽にこだわりがあるわけではない。


しかしこの年になると、ピアノの音色ってもんがどうも沁みて沁みて。



バーの雰囲気もいいし、ついつい長居しちゃって、

彼の演奏がある日は絶対に定時で仕事をあがって、最速で店に来て、閉店まで飲んでる。


嫁さんにはすこし文句も言われるが、一度連れてきてあげようと思う。



この店ではピアニストの気分と気まぐれで、リクエストを聴いてくれたりする。

常連の中ではリクエストを聞かれることは一つのステータスであり、それを目指してる奴もいる。



今日こそはリクエストするぞ!



今日の彼はポップスの気分らしい。


いつもはジャズやクラッシックが多いような気がするのだが、珍しい。

私のようなおじさんでも聴き覚えのある曲や、会社に入社したての頃、私をカラオケに連れ回した上司がよく歌ってた思い出の曲、高校生の頃の青春の曲など、いろんな思いがこみあげてきた。


おっ、きたきた…リクエストタイムだ。


このリクエストタイムは、ピアニストの彼から指名された人は、絶対に何か曲名を言わなくてはいけない。

そして彼は、絶対にその曲を演奏しなくてはいけない。

ある意味真剣勝負だ。


しかし、リクエストする側も、だれも知らないような曲をリクエストしたところで絶対に盛り上がらないのはだれがどう考えてもわかるため、そんな無粋なことはしない。


そうそう、昔上司に連れてこられたらしき、若い女の子が「ぞうさん」って言ってたのを見たことがある。


周りから失笑が漏れて女の子は恥ずかしそうにしていたけど、彼はそれを笑うこともせず、にっこりと微笑んで、すごくカッコよくアレンジして、そのリクエスト笑ったお客さんにやり返してたこともあったな。



私が今日リクエストする曲は決まっているのだ。

今日がポップスの日でよかった。



「では、そこのカウンターの右から2番目に座ってらっしゃる、いつもきていただいてる男性の方!」


私だ!

とうとう!

私の時代が来た!


「ありがとうございます!

実はどうしてもやっていただきたい曲が一つありまして。」


「こちらこそ、いつもありがとうございます!


是非、そのリクエストをお聞かせください。」


「ウタヒカルさんの、「花を君に」で、お願いします。」


「かしこまりました!


それでは聴いてください、ウタヒカルさんで、「花を君に」」



この曲は、あるニュース番組のエンディングテーマだった曲で、いつものように家でニュースを見てたらこの曲がエンディングになってて思わず聴き惚れてしまった。


次の日にはCDを買って、スマホに取り込んでいつも聴けるようにして、通勤の時に聴いている。


難しいことはわからないが、メロディーがすごく綺麗で、落ち着く。

そして彼のピアノの柔らかい音色がまた耳心地良い。

嫌なことがあった日も、仕事がうまくいかなかった日も彼のピアノを聴いていたい。

今日は生演奏で聴くことができてほんとうに良かった。


早くポイントカードを貯めて、好きな曲を彼に演奏してもらったCDを作ってもらいたい。

このポイントカードのすごいところは、ラジオ体操と同じで、店に落とした金額によってハンコの数が変わるのではなく、店に来た回数でハンコをもらえるのだ。


ハンコがいっぱいになったら、嫁の好きな曲でCDを作ってもらってプレゼントしてやろう。

ピアノ好きなあいつなら喜ぶはずだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ