幸せ。
2022.2.1
ご指摘いただきました言葉足らずの点を書き足しました。
ご指摘ありがとうございました。
ザッハトルテを食べた後。
「美味しかったね。」
「めちゃくちゃ美味しかった。」
「じゃあちょっとぶらついて帰りますか。」
「そっす…あれ、どっかからピアノ聞こえない?」
私の耳はどこからか流れるピアノの音をキャッチした。
「ん?するかも。」
「こっち!」
なんかテンションが上がってきて、幸祐里の手をとって走り出した。
なんか後ろでもごもご聞こえるが気のせいだろう。
数分ほど走り出すと、地域の人が植えたのであろう鉢植えの花に囲まれたストリートピアノが置いてあった。
そこでは一人の男性が、気持ちよさそうに笑顔の人に囲まれてストリートピアノを弾いていた。
「すごい!」
思わず感嘆の声が漏れる。
「いい光景だね。」
持ってきているとは知らなかったが、幸祐里が一眼レフを取り出して写真を撮り始める。
その男性は、ピアノを囲む聴衆とまるで世間話をするように自然に弾く。
そんなつもりは全くないが、自分のピアノが傲慢に思えた。
彼の弾くピアノの曲調が変わった。
思わず体が動き出すような、アップテンポな曲だ。
それを聴いている人々も、誰からともなく踊り始めた。
すると、プラチナブロンドで青い目をした、天使のような、小さな女の子がトコトコとやってきて、踊ろうと言ってくれた。
そんなことってあるの!?
と思いつつ、小さなレディが差し出す手を取り踊り始める。
踊りは得意な方ではないが、人並みには踊れる。
むしろ、これくらい小さなレディの方が、変な気を使わない分丁度いいかもしれない。
気づいたら曲が終わっていた。
レディはまんぞくげに踏ん反り返って、手の甲を差し出した。
キスしろってことか!?
と思いつつ保護者を探すと、近くにいたお母さんが困った顔で笑いながらぺこりと頭を下げた。
仕方がないので、軽く、騎士が女王にするように口づけをした。
女の子もまさかしてくれると思わなかったのだろう。顔を真っ赤にしてお母さんの後ろに隠れてしまった。
お母さんとレディの二人はその場を去ったが、お母さんだけが、去り際にこちらにウインクをしてくれた。
怒られなくてよかった。
そう思いつつ幸祐里の元に戻ると、なんかふてくされた顔をしていた。
「どうした?」
「別に!」
「怒るなよ。」
「でもいい写真はたくさん撮れた。」
事実、幸祐里が撮った写真の中のみんなはとてもいい笑顔で、最高の写真ばかりだった。
とくに、最後の一枚の、私がレディの手の甲にキスしてる写真は、女の子の顔が真っ赤なのがよく写っており、コミカルでとても心温まる写真だった。
「吉弘くん、収穫はありましたか?」
「うん、表現にはこう言うものもあるんだなって。」
「よかったよ。」
「付き合ってくれてありがとうね。」
さゆりにもちゃんとお礼を言う。
「こちらこそ。」
side幸祐里
途中、吉弘くんが私の手をとって走り始めたときは何事かと思った。
えっえっ、と口に出したつもりはないが、多分出ていた。
恥ずかしいったらありゃしない。
でも、吉弘くんに連れられて、私が見た光景は、幸せそのものだった。
音楽が人々を幸せにするその瞬間を私たち二人は見ていた。
ピアノが歌う。とはまさにこのことだと思う。
旅行客も地元の人も、足を止めて、一緒になって音を楽しんでた。
吉弘くんも光景に目も耳も奪われていたようだった。
しばらくすると曲調が変わり、おもわず踊りたくなるような曲に変わった。
私はその光景を誰かにも見て欲しくて、シャッターを切りまくった。
いろんな方向にカメラを向け、シャッターを押す。
すると私はある光景からピントを外すことができなくなった。
ブロンドの少女に踊りを申し込んでいる吉弘くんの姿だ。
後から聞くと、あくまで踊りを申し込まれたとは言っていたが、私からすると踊りを申し込んでいるように見えたし、その方がなんというか、エモい。
だって王子様とお姫様じゃん。
一見コミカルなのに、女の子は大真面目。
吉弘くんもなんとなく厳かな顔をしている。
それがなんかとても心が温まる感じがして。
それをみていた周りの人も笑顔で、囃し立てるおじさんもいた。
幸せってこういうことか。
私はよく幸せについて考えるが、今腑に落ちた。
でも踊った後に手の甲にキスをするのはいただけませんな。
吉弘くんが帰ってきて、何怒ってるんだよとかいってたけど無視無視。
でも怒ったふりって長くは続けられないね。
あえなく陥落して、すぐに元どおりになってしまった。
だって、吉弘くんと、この幸せな空気を共有できた事こそが幸せすぎるから。




