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柳井実季という女。



私は柳井実季。

都内にある有名私立大学に通う三回生。


背が低いのが悩みだが、もう諦めた。


最近面白い子を見つけた。

今年入学してきた子なんだけど、背が高い。

180くらいはあるかな?



そんな子がコンサート行きたそうだったので、捕まえて連れてった。

その時世間話で吹奏出身と聞いた。

全然ぽくないけど、話し方とか性格は吹奏ぽい。

後輩感がすごいもん。



演奏会が終わったあとに、携帯を開くと彼からラインが来ていた。

最高でした。

としか書いてなかったけど。

そういうところが吹奏楽部ぽい。



そこから何日が経つと変な噂が音研を中心に流れ始めた。

その噂は教育学部全体まで広がり、他学部までも巻き込んでいるらしい。



放課後のピアニストの噂。



なんじゃそりゃ。

と思ったが、かっこいい男の子が音楽練習室でピアノを弾いているらしい。

音研の生徒曰く、音がパワフルで、技巧派。

かなりうまいとのこと。


せっかく暇なので一人で行ってみた。



「おー、確かにうまい。学生でこれだけうまけりゃ…」


あれ、今まだ練習室棟に入っただけだよ。

なんでこんなに音聞こえるのかな。

ドア開いてる?


いや、ピアノがめちゃくちゃ響いてるんだ。

しかも力任せに叩いて音が大きいんじゃなくて、楽器を最大限に響かせてるんだ。



この放課後のピアニストが練習しているであろう練習室に行ってみると見知った顔があった。


あれ、吉弘くんじゃん。

うまっ!


思わず部屋に乱入して話を聞いてみると、まだまだ初心者だという。

しかも楽譜すら持っておらず、ネットの無料配布の楽譜で楽しんでいるのだとか。



この才能を埋もれさせてはいけない。

そんな使命感に駆られたので、その日の夜には楽譜をメールして、紙の楽譜も用意して次の日に練習室に届けてあげた。

彼の成長が楽しみで仕方ない。



私たち、音研は毎年大学で開催される浴衣デーにコンサートをやっている。

しかし、今年は問題が起きた。

ソロの一人が急遽出られなくなってしまったのだ。


いろいろと走り回ったが、30分だけどうやっても繋がらず、万策尽きたと思われたが、ふと思いだした。


吉弘くんだ。

もともと吹奏楽部でアルトサックス。

ソロコン出てましたって話は本人から聞いたことがある。



連絡してみるとなんとか受けてくれた。

怖いことを言われたがもう背に腹は変えられない。



吉弘くんはすぐに動いてくれて、タクシーでコンサートホールにやってきた。

手にはセルマーのアルトサックスが抱えられており、これだけで少し期待が増す。



結局選曲も楽器も全部彼におんぶに抱っこになってしまった。

九兵衛のお寿司っていくらするんだろう…。



音出しで彼の音を聞きたかったが、それは却下された。


でもそんな心配とか、不安とかは意味のないことで。

結局、結論から言うと彼のサックスはすごかった。

色気があって、泣きがあって、伸びがあって。

この間まで高校生だったような子がどうしてこんな音を出せるのだろうと不思議に思った。

それは音研のみんなも同じだったみたいで、みんな彼が何者か知りたがった。



すると音研の新一年生のサックスの女の子が彼のことを知っていた。



「もしかしてなんですけど、彼って藤原吉弘さんですか?」


「そうだよ??知ってるの?」


「知ってるもなにも!!!!」


「有名なの?」


「私たちの代の高校生の中で一番うまいサックス奏者です。」


「「「「えっ!!!!」」」」


「多分私たちの代で吹奏楽やってた人で知らない人いないですよ。

高校三年間全国金賞で、三年のソロコン全国が終わった後、都響と共演した男子高校生って知りません?」


「あぁ、なんか聞いたことあるかも。」


「それが彼です。」


「「「「えぇー!!!!!!」」」」


「プロにならなかったの?」


「噂だと有力私立音大からは軒並み推薦来たらしいですけど全部蹴ったらしいですよ。」


「そうなんだろうねぇ。

だってうちにいるんだもん。」


「でも私たちの代のサックス吹きの中では憧れの方ですよ…。

まさかまた藤原さんのサックスが聞けるとは…。」



「でも同級生なんだから友達になればいいじゃん。」



「そんなの恐れ多くてできませんよ!!!!!!」


「そ、そうなんだ…。」


「高校の時の部活のメンバーに教えてあげなきゃ!!!」


余談だが、その翌年は新入生の音研のメンバーが爆増したのだが、無関係ではないだろう。


私はそんな音研メンバーの話もどこか上の空で聞いていた。

その時の彼の素晴らしい演奏に心を奪われてしまったのかもしれない。

その日から暇さえあると彼のことばかり思い出す。

彼の音は私の心の奥深くに突き刺さった。



なんか変に意識してしまって、彼のところに気軽にいけなくなってからしばらく経つ。

すると突然スマホが鳴った。

吉弘くんだ。


心臓が跳ねた。

なんとか平常心で電話越しに会話ができている。



そしたら旅行に誘われた。


もう落としにきてますやん。

あんさん、もう私を落としにきてますやん。


しかも来週。

しかもウィーン。

めーっちゃいきたい。



でも演奏旅行と日程だだ被り。

悔しい。

悔しい。



そしたらなんか他の女誘うとか。



なんで!?

もう、なんでなん!?!?

なんでうちじゃなくて他の女なん!?!?

来いって言ってくれたら行くのに!!!


演奏旅行ほっぽり出していくのに!!!!


いやそれダメか。


今回は仕方ないな。

その他の女とやらに吉弘くんを譲ってあげよう。

次回は絶対譲らないからね。


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― 新着の感想 ―
[一言] 実希さん後で藁人形だけはよしましょう! 実際生霊飛ぶよ?その間に変なの憑くから! 似たもの呼ぶので?
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