大学入学
私の名前は藤原吉弘。
ただの多趣味な大学生だ。
あれなんだ、こいついきなり自分語り始めたぞとか言わないでください。
そういうことは言ってはなりません。
そういう仕様なのです。突っ込んだら負けです。
話を元に戻します。
そうです、私は多趣味なんです。
小さな頃からたくさんのことに挑戦してきました。
習い事の数も普通では考えられないほどのことをたくさん経験させてもらってきました。
やりたいことをなんでもやらせてくれた親には感謝してもしきれません。
どんな習い事を経験してきたかというと、まずゴルフ。おそらく一番最初に始めた習い事ですね。
なんでも、父がゆくゆくは私とゴルフをしたかったみたいで。
あ、ちなみに私には姉が一人います。
私がゴルフを始めた頃はすでに姉がゴルフを始めていました。姉は私とは違って、1つのことを一生極めるタイプです。だから今はもう大学を卒業してプロゴルファーをしています。
本気で戦ってみたことはありませんが、ゴルフでは姉に勝てる気がしません。
もちろん父も早々に姉に勝てなくなりました。
姉がゴルフを始めて7年くらいで父を超えました。
話がそれましたね。
私の最初の習い事はゴルフでした。
個人競技という性質が私に合っていたようで今でもゴルフは続けています。もう競技歴は15年くらいですかね。まぁそれなりにうまいとは自負しています。
そのあとは乗馬や英語、テニス、空手、少林寺、合気道、スキー、スノボ、フェンシング、水彩画、書道、そろばんなど気になったものはなんでも手を出してきました。
中でも書道は気持ちが落ち着くので長続きしましたし、練習の甲斐あって、高校生の時に通っていた書道教室で、その流派で取れる段の最高位の8段を取得しました。
字が綺麗だなとはだいたいどこでも言われます。
絵も人並み以上にはうまく書けるようにはなりました。
中学ではやったことないことに挑戦しようと思って吹奏楽部に入部しました。
なんというか、音楽は別の言語を使っているような気分がしてとても新鮮な気持ちでとても楽しかったです。周りは音楽経験者が多かったのですが、そこはこれまで培ってきた独自の練習メソッド「効率×膨大な練習量の物理で殴る作戦」を存分にぶつけて周りのみんなを追い越そうと頑張りました。
その甲斐あって、私の担当楽器はアルトサックスでしたので、顧問の先生の勧めで出場したアルトサックスのソロコンテストの全国大会で金賞をいただくことができました。
周りのみんながとても喜んでくれたので、それが金賞を受賞したことよりも嬉しかったのをよく覚えています。
高校でももちろん吹奏楽部に入部しました。
自分の中では中学の三年間ではまだまだ満足できるレベルになかったからです。
高校に入っても三年間全国大会に出続けて、金賞を取り続けました。
高校三年生の時はとても運がいいことに東京のとある交響楽団と共演を果たすことができました。
高校時代に私がのめり込んだことは他にもあります。
それは勉強です。
たまたま私と気があう先生に当たることが多く、とてもたくさんのことを学ぶことができました。
その甲斐あって関東の有名な英語が強い私立大学に通うことができています。学費は全額免除していただけました。
私の習い事遍歴を披露したところで、今日は大学の入学式。
地元を離れて都会に出てきた私は新しい趣味を探すことをとても楽しみにしています。
まぁ、なんでこんな話をしているのかというと、入学式の偉い人の話が長すぎるのです。
そろそろ寝てしまいそうです。
隣のやつはもう眠りこくっています。
舟を漕ぐなんてものじゃありません。爆睡しています。しかしいびきは全く聞こえないので、そういう技術を持っている方なんでしょう。
そうこうしているうちにやっと終わりました。
話を聞いているとどうやら学部ごとに集まって、ガイダンスというものを経て、解散するようです。
なんの授業をとるかまで教えてくれるようですのでしっかり参加することとしましょう。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
入学式が終わり、講堂を後にする学生たちの波に乗って藤原吉弘が講堂から出てきた。
吉弘は外国語学部に所属している。
小さな頃から続けている英会話をさらにブラッシュアップするための選択だ。
なんでも極めているというだけあって英語系の資格は軒並み持っており、特に、英語検定は一級、TOEICスコアは満点の990、ノリで受けた通訳案内士の資格も持っている。高校時代はアメリカに留学したりもした。
吉弘の通う大学の外国語学部は国立の某外国語大学と関東の双璧をなしており、名実ともに大学の看板学部だ。
合コンで大学名と学部名を晒せば瞬く間に人気者になれることだろう。
他の学部生とともにガイダンスに参加し、これからの授業を受ける方向性を決めた吉弘はキャンパス内のカフェで手帳と修学案内とパソコンを開いていた。
「とりあえず大学三年生で長めの留学をすることにしましょうかね…
受ける授業は高校の教員免許を取れるようにして……
他の学部の授業も受けてみるか…」
私は、これからの方針を決めている真っ最中だった。すると周りから声が聞こえてきた。
「1時間後から音楽研究会がコンサートします!
コンサート後は先輩たちが単位取得のアドバイスもしてくれますよー!!!」
どうやら音楽ホールでコンサートがあるらしい。
これでも3年間は日本のアマチュア学生の中でトップクラスを走り続けてきた自覚はある。
もちろん音楽も大好きだ。
私はキリが良いところで作業を切り上げ、迷わず行くことにした。
音楽ホールまでは割とすぐついた。
歩くと15分くらいだった。私の通う大学はとてつもなく広いのでもう少しかかるかと思ったが案外妥当なとこだろう。
ホールに着くとまずその大きさにびっくりした。
一大学の音楽ホールとは思えないほど大きく立派だった。そのホールの大きさに圧倒されて棒立ちになっていると
「こんにちは!新入生の方ですか!?」
そんな明るい声が隣から聞こえてきた。
「はい、そうです。さっきカフェで今からコンサートがあると聞いたので。」
「わぁ!ありがとうございます!じゃなかまでご案内しますね!」
先輩らしき人が田舎者に見兼ねて助け舟を出してくれてなかまで案内してくれることになった。
しかし、この先輩は背が低い。人混みの中に紛れ込むと見えなくなる。
「ごめんね、私背が低いから見つけにくいと思うけど、頑張ってついてきてね!」
心でも読まれたのだろうか…
「いえ、そんなことないですよ!
ちゃんとついていきます!」
「お世辞はいいよ。
だって149cmしかないのは自分でもわかってるから…
そういえば君名前教えてよ!」
「あ、あー、えーと
藤原吉弘って言います!外国語学部の一回生です!」
「困らせちゃってごめんね?
外国語学部なんだね!私と同じだよ!
私は三回生の柳井実季。気軽に実季さんとか実季先輩とか呼んでくれたまえ。」
「じゃあ実季先輩ですね!よろしくお願いします!」
「お?君もしかして吹奏楽部?」
「え、なんでわかったんですか?」
「高校卒業したばっかりの男の子で、女の先輩をなんのためらいもなく下の名前で呼べるのは吹奏楽部くらいしかいないよ。
女慣れしてるねぇー。」
実季先輩は悪い顔をしてニヤニヤと笑いながらいじってくる。
「あー、そういえばそうですね。
中高と吹奏楽部でアルトサックスやってました」
びっくりした。
まさか初見で部活を当てられるとは思わなかった。自分で言うのもなんだが、私は吹奏楽部らしくない見た目だ。小さい頃からスポーツ系の習い事をしていたため何処と無く体育会系の匂いがするらしい。
「背も高いし、筋肉質そうだけどゴツくはないから、なんかスマートなスポーツでもやってるのかな?とは思ったけどねー。もしかしてと思ったのが当たっちゃったね。」
そう言って実季先輩は笑っていた。
「私は小さい頃からピアノやってて、今は教育学部主催の音楽研究会でピアノ講習もうけてるんだよ。
ピアノにも興味があったら見においで
教育学部キャンパスの音楽棟には防音室がいっぱいあって、全部の部屋にピアノが置いてあるんだよ。学生ならどの学部の学生でも24時間弾き放題!国際的なコンクール出る人とかもいるから24時間オープンなのはありがたいよねー」
実季先輩はたくさんの話をしてくれて、私はその話の1つ1つを心のノートに刻み込んで行った。
先輩の話は、この大学のことを知らない私にとってとてもありがたい。
「ついたよ!
このホールの特性上、ここの席が一番よく聞こえると思うから、しっかり聞いててね!私は一番最後のプログラムのピアノソロで出るから!
後、これプログラム!
あ、ラインも交換しとこ!」
怒涛のようなスピードで大事なことを色々と言われた気がしたが、私の手元にはプログラムと実季先輩の連絡先が残った。
ほどなくするとホールが暗くなってざわめきが落ち着いてくる。
しーんと張り詰めたホールの空気が私は好きだ。
中学の時、吹奏楽部でホールの空気感というものを初めて感じた時から大好きだった。
これから何かが始まる期待と緊張。
演奏者と同じように聴衆も緊張している。
さぁ、これからどんな世界に行けるのだろうか。
私はワクワクしていた。