表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/166

弓削幸祐里という女。


私は弓削幸祐里。


自分で言うのもなんだが、顔立ちが整っている。

客観的に見てプロポーションも優れている方だと思う。



男の子から告白されたことも一度や二度ではない。

モデルや女優のスカウトだって経験がある。


でも彼氏いない歴イコール年齢だ。

まぁまだ19だし、今年ハタチだし、手遅れではないはず。


大学には浪人して入った。

昔からこの大学に憧れていたが、現役時代は力及ばず。

2回目にして無事入学したと言うわけだ。


馴染めるかどうか不安だったけど、友達もできた。



深夜番組の話で盛り上がった男の子で、パッと見どちらの性別がわからないほど整った顔をしていた。

いや、それは盛りすぎた。

でも女装したら相当映えそうな顔立ちでイケメンであることには変わりない。

そして背が高く、英語がネイティブ並みにうまい。


私だって英語にはそれなりの自信があった。

高校時代には英語スピーチコンテストで全国大会に出たりなんかもした。

センター試験での英語は2回とも満点だった。

それ以外の点数は言えないけど。


そんな私が手も足も出ないほどうまい。

言い回しも洒落てて、私なんかじゃ思いもつかない。

外国人の先生がみんな腹を抱えて笑っているのを初めて見た。

一人の先生が、大使館でスピーチをすることになり、その中のジョークが思いつかなかったので、彼に頼んだと言う話は、嘘か本当かわからないが多分本当だと思う。



そんな彼がある日突然必修の科目を休んだ。

その次の週も休んだ。

仕方がないので彼の分までとって置いてあげたが連絡してみても返事がない。


この私にそんなことをさせるなんて不届きにもほどがある。

これは会ってどやしつけてやる必要がある。



いや、別に会いたいわけじゃないし。

寂しかったとかそんなわけねーし。

ちゃんと教えてやる必要があるだけだし。



ピアノ練習室にいると言うので行ってみた。



そこで彼の趣味の一つであるピアノを弾いている姿を初めて見た。


圧巻。感動。美しい。心を揺さぶる。

そんな言葉が心を揺さぶるが、次の瞬間には、その言葉が全て陳腐に思えるほどに素晴らしい演奏だった。

彼の瞬間芸術に魅せられた瞬間だった。


気づけば私は涙を流し、彼の演奏の素晴らしさを彼に説くという、謎の構図が出来上がっていた。

おそらく彼のピアノのファン第1号は私だろう。

あくまで。彼のピアノの。ファンだから。

そう、音楽が好きなの。彼の音楽が。



そんな彼が何やら浴衣デーに舞台に立つらしい。



これは行く必要がある。

あくまでもファン第1号としてね。



コンサートホール二階の真ん中に陣取り、彼の音楽を今か今かと待ちわびる。



すると彼はアルトサックスを抱えて出てきた。



私は混乱した。

サックス???



吹き始めた曲はみんなが知ってるようなジャズのスタンダードナンバー、take5。


あっという間に会場全体を飲み込む彼の音。

聴衆が一体化した気がする。

そこからジャズの名曲と言われる曲やジャズアレンジしたポップスも数曲吹いてくれた。


最後は正統派なクラシックで締めた。



聴衆の万雷の拍手で演奏が締められ、彼は我に帰ったのだろう。

一瞬キョロキョロとして、深くお辞儀をして袖にはけていった。


キョロキョロしたところで胸がキュンとした気がするが気のせいだろう。

不整脈かもしれない。



大学の春学期のテストも終わり、ちょこちょこアルバイトをしながら暇な毎日を過ごしていた。

サークルには入っていたが、辞めた。

男の先輩が告白してきて、断ったので、気まずくなったのだ。

外面を取り繕っているとこういう輩が湧いてくるので面倒極まりない。



その点彼の前では、私は素のままでいられる。

居心地が良い。

彼みたいな人が旦那さんだったら素敵だろうな。

いや、別に好きっていうわけじゃないし。

ただ楽っていうだけだし。



実家でゴロゴロしていると、そんな彼から電話がかかってきた。


話から察するに、海外旅行に誘われているようだ。

金とパスポートだけもってこいなど、とんでもない誘い方をする男だ。

しかも来週。


例の深夜番組を彷彿とさせる。


「おかぁさーん、来週から2週間海外行ってくる〜。」


「えっ!?!?」


「いいでしょ?」


「まぁいいけど気をつけていくのよ?」


「はーい。」



そしてやってきた海外。

行き先はウィーンだった。

ヨーロッパかよ!!!!!

アジア程度の距離かと思った。


道中ではどんなボケも拾ってくれたし、彼のどんなボケも拾ってあげられたはずだ。



ホテルに着いてみてびっくり。

ウィーンの一等地に佇む高級ホテル。

一階はおしゃれなカフェ。

ロビーにはグランドピアノ。


そして部屋はスイート!!!!

部屋にもグランドピアノが!!!!

寝るのどうしよと思ってたけど寝室にはちゃんとキングサイズのベッドが二つあった。

ちょっと期待してたぶん残念かも。

いや、何を期待するんだってね。

何も期待してねーよ。

落ち着け私。



気合い入れなきゃと思ってシャワーも浴びてメイクをする。


するとどうやら彼もシャワーを浴びるらしい。


風呂上がりは裸にバスローブで出てきた。

頭がショートするかと思った。


あれあれ?????私食べられちゃいます?

むしろいただきますしていいですか!?!?

誘ってんの!?!?

ねぇ!!!!

誘われてるの私!?!?!?



と思ったら着替え忘れただけらしい。

人騒がせな…。

でも体つきは締まってて、意外と男らしい体つきだった。

やば。よだれ出る。


ん?


いや、今私なんて言った?

いや言ってはないけど。

もしかして、私この人好きなのか?

今初めてわかったけど、いや、もうなかばわかってたけどさ。

待て待て待て待て。

いや、いや。

いや、そりゃ顔はかっこいいよ?

気遣いもできてさ。優しくて。

ピアノなんかプロ級だし。

背も高くて、体つきもかっこいいし。

頭も良くて。

彼と一緒の時だけは私も素でいられるし。



あれ、私彼のこと大好きじゃん。

えっえっ。

えっどうしよう。

私大好きな彼と2週間一緒に過ごすの?

自覚したらどんどん恥ずかしくなってきた。




えっ。

えっ?

ご褒美ですか?

これご褒美ですか神さま。

浪人一年頑張った私へのご褒美ですか?



やば。

生きててよかった。


絶対惚れさせてみせる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ