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コンサート前日

ラルフローレン氏と非常に実のあるファッション談義に花を咲かせたあと、ランドリーからとっくに上がってきていたタキシードを受け取り、ドアマンには車をエントランスまで持ってきてもらう。


「ちょっと急がなきゃだね。」


車に乗り込んで、申し訳程度の後部座席に、シワにならないようタキシードを横たえる。


準備万端となったところでエンジンスタートのボタンを押すとランボルギーニにもフェラーリにも負けない、猛々しいエンジン音が響く。


運転席のパワーウィンドウを下ろして、ドアマンにチップを渡し、家路へ。


途中良さそうな食器屋さんを見つけたので寄りたいなとも思ったがグッと堪えて我が家へ。


運転しながらも頭の中は明日のコンサートのことでいっぱいだ。

脳みそに栄養が回り始めたのか、思考はクリアでどんどん楽しみになってきている。


家が見えてくると裏手に回り込んで、ガレージを開ける。

頭から突っ込んで、そのままリフトで地下へ。

明日は表玄関から出すつもりなので、表用のリフトの近くへ車を停めておく。

そこそこに広い敷地面積を誇る我が家だが、

その敷地面積の約半分と同じ広さの地下空間があると言えば

この地下ガレージという名の秘密基地の広さがわかるだろう。

私は十分な広さを持つ大邸宅だと思うが、あくまでもアメリカ基準だとそこそこな邸宅という広さらしい。

確かに近隣にはもっとすごい家がたくさんある。


今はないが、もう少ししてみんなが越してくると、ここに日本でも活躍していたG63が入ってくる。

私は車が好きなのでもっと増えそうだなぁ。



エンジンを切って、バッグとタキシードを持って玄関に向かう。

少し面倒だが、セキュリティと外界との遮断のために、地下ガレージ側にごくごく最近指紋認証のドアを一つつけてもらった。

施工には結構時間がかかるかも?と思ったが意外と2〜3日で付けてくれた。

もしかしたらそういう要望多いのかもね。


荷物はリビングに置いて、タキシードは脱衣所の隣のドレスルームにかけて準備しておく。


「よし、とりあえず準備完了か。」


ついでに洗面所の鏡でまじまじと自分の顔を確認する。


「うーん、クマも取れたし、げっそりした感じもだいぶなくなったか。」

ガサガサだった唇も血色がでて、病人感はかなり薄れた。


「よし、最後の練習と調整いこう。」


今日はチャンくんのオケも前日ゲネプロをしてるはずだ。

もらっている予定表にも書いてあった。


いつものベルルッティのバッグに荷物をガサガサと入れて車を出す。


コンサートの会場は大学からもほど近く、歴史のあるこぢんまりとした音楽ホールだ。

市民の憩いの場となっているらしい。


車を駐車場に停めて荷物を持って会場へ。


「お、やってるやってる」

少しだけど音が漏れ聞こえてきて、幸せな気分になる。

コンサートホールで聞こえる音楽ってなんでこんな幸せな気持ちになるんだろうね?

演者として行っても聴衆として行ってもコンサートホールって最高。


客席のドアを開けると音の奔流が私を襲い。

その中でチャンくんが棒を振っていた。

私は確信した。

このオケは良いオケだ。



チャンくんはすぐに私に気づいた。

キリのいいところで演奏を切り、私の方へ駆け寄ってくる。


「体調は、大丈夫なのか?」


「心配かけたね、申し訳ない。

今はむしろ前よりもパワーアップしてる感さえあるよ。」


「それは心強いけど…」


「今日は前日ゲネでしょ?

やろうよ、ピアコン。」


「…わかった。」


「言っちゃ悪いが私もプロだよ。

こんなことで演奏に悪い影響出すことはない。

しっかり見て聴いてくれ。」

まぁ楽しすぎて入れ込みすぎて体調崩すなんて

プロとして許されないんですけどね。


「よろしく頼む。」


オケとはすでに何度か合わせてはいる。

しかし病院にいて何度か予定を飛ばしてしまった部分もあるので申し訳なさで満たされてしまう。


ここはしっかりと力を見せつけて

完全復活をアピールせねば。



私はそのまま舞台に上がって、すでに用意されているスタインウェイのピアノの横に立つ。


「みなさん、ご心配おかけして申し訳ありません。

少し体調を崩しましたが今ではこの通り。

前よりもパワーアップしています。

かけた迷惑はしっかり演奏で返しますので私に負けないでくださいね?」


ジョークも交えつつ復帰の挨拶を団員の皆さんにする。

ちゃんと意図も伝わったようで一笑い起こすことができた。



私の準備も終わり、ピアノ椅子に座ったところでチャンくんが指揮台に上がる。


「それでは、フルメンバーが揃ったところで通そう。

第一楽章から通しで。」



チャンくんが指揮棒を構える。

空気が変わる。

私は音楽の世界に沈み込む。


〜〜〜〜〜

〜〜〜〜〜


ラフマニノフ終止を弾き切って、チャンくんが指揮棒を天に突き上げたところで意識が覚醒する。



かなり良かった。

自分の中でもかなりよく弾けたと思う。

なんか団員のみんなも良すぎて変な空気なってる。


変な無言になってホールの空調の音がすごく良く聞こえる。


どこからともなく拍手の音が。

ふと目をやると会場スタッフの人が呆然としながら拍手してた。


「え、かなり良くね?」


私がチャンくんに声をかけると

チャンくんもびっくりしながら


「いや、かなりいい。」

と答えた。


団員のみんなもだんだんとざわめいてきて、盛り上がってきた。

すると1人の団員がつぶやいた。


「これ逆に明日の本番が怖いんだけど。」


それはもっともな不安だ。

練習でこれだけ良いものが生まれてしまうと

本番はそれを超えられるのか?

あるあると言っても過言ではない。


しかし、この不安に対する答えは普遍である。

チャンくんは言う。

「これだけできたみんななら、まさか本番超えられないわけないよね?」


聴いてくださるお客様にさらなる感動をもたらすため、

私たちは寸暇を惜しんで少しでも磨き上げていくしかないのだ。


私たちはさっきの完成度が高い演奏をさらに磨き上げるために、もっともっと細かいところまで突き詰めていく。

時間はないのだ。



その後も私たちは数時間ほどピアコンの合わせ、部分練習、解釈のすり合わせ等々を行って、その場は解散となった。


帰り際、チャンくんが声をかけてくれた。

「ご飯いく?」


「行こ行こ。」


今日はチャンくんが私の車に同乗して、前に行ったいつもの馴染みの中華屋さん向かった。


店に着いて、奥の2人がけの席に座って注文する。


「おばちゃん、私回鍋肉定食お願いします。」


「俺は酢豚定食で。あと青菜の炒めも。」


「はいよ〜。」


あれ、ここ日本だっけ?

この後チャンくんとめちゃくちゃ語り合った。




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