リサイクルショップ
制限時間30分。お題「誰かの博物館」
ある日曜日の午後、天気も良いのでぶらりと自転車でリサイクルショップへ行ってみた。
もう季節も11月となり、朝晩などはかなり冷え込む冬の兆しが近づいているが、日中は自転車を漕いでいるとほどよく汗をかかないぐらいに身体が温まる。
近所の民家の植木鉢に植わった、黄色い石蕗の花を横目にリサイクルショップへとペダルを押し込んだ。
リサイクルショップには様々なものが置いてある。家具を始め、釣竿、家電、自転車や服など多種多様である。
私は、その以前の所有者達をその物たちを通して見ることができるようで、リサイクルショップに行き、何も買うことなしで見ることが好きである。店の人には申し訳なく思うが。
ふと、いつものように棚の間の通路を歩きながら物色していると、綺麗にケースに収められたいくつかのコインが目に入った。
ある一定の年代以上の方には分かるであろうが、コイン収集とはとてもメジャーな趣味であった。今では若い人たちではとんと見かけず、理解されないであろうが、オリンピックや万博、在位何十年の記念など出来事のたびに記念コインを買ったものだった。
「そちらのコインは、つい最近、集められていた方が亡くなられたか施設に入られたかで、ご家族の方が持ち込まれたんですよ」
あまりにも長い間見ていたからであろう。よく顔を見るバイトの男の子が話しかけてくれた。
もうその方の家族には残念なことにコイン趣味は誰もいなかったのであろう。しかし、丁寧にシールに詳細が書かれ、貼られ、磨かれたコインケースは、赤の他人である私にもたしかに収集者の愛を感じるものがあった。
ここにある品物にはコインケースだけではなく、どの品物にも歴史があり、その人にとっては思い出深いものもあるであろう。そのことに私は自分が博物館の中にいるように錯覚するかのようであった。
リサイクルショップを出ると、日は傾き始め、少し肌寒くなっていた。
勢いよく自転車のスタンドを上げ、ペダルを漕ぎだす私のリュックサックには袋に包まれたコインケースが入っていた。
一陣の風が撫でるかのようにイチョウの葉を揺らした。