雨の日に馬鹿は彷徨う
おや、こんなどしゃ降りの中傘も差さずに走っているなんて、君も物好きだねぇ。
え? お前に言われたくないって? はは、ま、そのとおりだよね。
傘? 持ってたのなんで知ってるの? へぇ、一回すれ違ったんだ。全然気づかなかったよ。
ん、あの子? いやいや、彼女じゃないよ。ただの幼なじみ。恋愛対象として見たことはないなぁ。
彼女にとって、僕は天災だからね。あ、災いの方ね?
でも僕からしたって彼女は天災なんだよ。こっちももちろん災いの方だよ。
失礼なのは重々承知さ。でも、雨に当たるのが大好きな僕に傘をプレゼントするなんてナンセンスとしか言い様がないと思うよ。
だから、傘を必要としているようでしていない別の子に貸して来ちゃった。てへぺろ☆
おお、それは名案だね。長い咄になるなら屋根の下に避難、と。ま、二人とも既にびしょ濡れだけど。
で、君はきょろきょろしながらなんで走ってたの? 探し人かな?
うん? 傘の代わりにフードを被った男の子?
わお! とても僕と気の合いそうな子じゃない。一緒に探すよ。
……っていうか、たぶんその子僕の知り合い。その子ね、色々事情があって学校行けなくなっちゃって、放浪するのが趣味なんだ。
なんでそんなこと知ってるかって? まあ、そこそこに付き合い長いからねぇ。
それでも[友達]って呼ばないのは……
あっちがそう思ってなかったら、悲しいでしょう?
僕はね、悲しいことと虚しいことは嫌いなんだ。
ん? 雨にただ当たるのは虚しくないのかって?
僕にとって、雨に当たることは無意味じゃないんだよ。
と、僕の咄ばかりしていても仕方ないか。一緒にあの子を探そう。
実は場所のあたりはついているんだよね。
とりあえず、歩こうか。
結構長く歩くことになるけど大丈夫?
遠いんだよ。彼、普段から放浪者だからべらぼうに体力があってさ。どこまででも走ってっちゃうんだよね。
そ。歩くんじゃないの。走るの。
子どもは風の子ってwwまた随分とポップなフレーズをww
子どもっていうけど、僕らと同い年だからね。
まあ、僕らだってまだまだ子どもと言って差し支えない年齢だけど。
彼はいっつも、走ってるんだよ。まるで何かに飛び込むように。あるいは……
何かから逃げるように。
とても彼は弱くて脆いんだ。まあ、成長して、だいぶ逞しくなったけどさ。
すごく稀にふっつり切れるんだよ。何かの拍子にね。
今日走ってたのも、たぶんそれだと思うな。
ほうほう。
妹さんが会ったのね。いい兄ちゃんだねぇ、代わりに雨の中をって。
いやいや、別に馬鹿にしているわけじゃないよ。からかっているだけで。
ほぼ同義? ……くっ、バレたか。
でも、いい兄ちゃんじゃん。
お、そろそろじゃないかな。たぶん、あの路地裏だね。水溜まりに人影が……二つ?
何してんの? 君。