6話 ファンタジック人生ゲーム
祐介は問うた。
「ソモサン。何で僕に連絡もなく、家に皆さんが押し掛けて来ることになったのでしょうか?」
「セッパ。ほら、ドッキリの方がええかなって思て」
「これっぽっちもよくねぇから!」
祐介は悪びれもなく堂々と言い切る秋一に、思いっきり突っ込んでやった。
現在四人がいるのは彼が言った通り、上谷家祐介の部屋だ。
秋一を送り出し、帰ってこないまま練習は終わったのだが、まぁいっかと祐介は家に帰った。そしてその数分後、このように彼等が突然、家に押しかけて来たのである。……うん、なんと言うか、普通に迷惑ですね。
「あぁ、お母さんには許可もらっとるから、遠慮せんでええで」とは言われたけど。……あれ? 僕の迷惑は?
テーブルなんて都合のいいものなど無いため、四人で円で描くように地べたに座っている。
秋一に絡んでいたせいか、千春もまた面白そうに絡んでくる。
「まぁまぁ、いいじゃないですか別に。それとも祐介さんにはー、女友達に部屋に入られたくない理由でもあるのですかー? 女友達に?」
「何故そこを強調する!」
「分かってるくせにー」
千春はニヤニヤとした視線をこちらに向けて来る。ニヤニヤとしながら視線を送るのではない。視線が二ヤついているのだ。実に腹立たしい。
大事なことだから言っておくが、この部屋にそんなものは何一つない。本などとお金を払い、店員さんの視線に耐えながら買う時代はもう古いのだ。パソコンで動画を見る、これが正しい。強いて言うのならゴミ箱の中にちょっとアレなティッシュペーパーがあるくらい……。
「……何か、ゴミ箱の方から変なにおいがする」
「何ぃぃぃぃいいいいいい!?」
「……嘘だけど?」
「…………頼むからその視線やめてくれませんか。死にたくなります」
ニヤニヤとした視線も嫌だが、ジト目も普通に嫌である。人によっては御褒美であったとしても、今のところ彼にそんな趣味はない。絶対に、とは言えないとこがアレな気がするが。
祐介は自分自身に何でこうなったと問う。瞬時に答えは出た。秋一何かに任せたからだ、と。
けれど、このままでは納得も理解もできない。
彼は秋一の首根っこを掴んで、部屋ヲ出て廊下へ連れ去り、耳打ちする。
「おい、てめぇ。一体これはどういうつもりだ。ドッキリとかしょうもないこと言ってないで、しっかりとハッキリと単純明快に分かりやすく答えろ。」
「面白そうだから、です☆」
「くたばれ」
祐介は彼の首元を思いっきり締め上げてやった。
「お……うぇ……死ぬ……」
「仕方ない、これくらいで許してやろう」
「ごっほ……うぇ、苦しい」
「好きな女の子に変なにおいって言われたんだ。八つ当たりするには十分な理由だろ」
「……それもそうか」
秋一はそれを聞くと、本日初めて申し訳なさそうに謝った。
けれど、そんな表情はすぐに引っ込めて、今度は真面目な表情で言う。
「けどな、これは半分は善意でやったこと何や」
「もう半分が何なのか気になるところだし、言わずもがな大体察しが付くけど、その善意に免じて黙っておいてやる」
「あんな、俺は真面目に考えたんや。奏があのシーンを上手く出来るようにしてやるためには、どうしたらええんかを」
「お、おう」
意外とこいつ、元の目的をしっかり覚えていたのかと祐介は驚かされた。けれど、それがどうしてこんな結論になったかなど想像もつかないし……正直、嫌な予感しかしない。
「すっごく真剣に考えた。そしたらすぐに思いついた。答えは簡単だったんや」
「ところで、単純であるからこそ、それは圧倒的に難しいってよく言わない?」
「つまりお前らが恋人同士になればいい」
「…………」
「無言で首を絞めるな強い強い死ぬ!」
秋一が思ったよりも本格的に抵抗してきたので、祐介は仕方なく力を弱めた。けれど、脅しのために手は離さない。
「……あんな、お前俺がふざけてる思ってんのかもしれんけど、言うてまぁまぁマジの話やからな」
「何故に」
「だってホンマにこれで全部解決やんか。お前らがそう言う関係になれば、あいつや手恥ずかしげなくあのシーン完遂できるやろ? お前の長年の方思いも成就し、見事ハッピーエンドやな」
「それはまぁ、そうだけど」
「恥ずかしいとか言ってる場合やあらへんで。心配せんと、あいつ百パーお前に脈あるから。何でくっつかんのって、見ててこっちが腹立たしいくらい」
本当に、そうであろうか。
祐介は自問する。奏とは、まぁそれなりにちゃんと仲良く出来ていると思う。一緒にしゃべることもしょっちゅうだし、特に嫌われているとか、そういうのは感じない。
けど、同時に異性として好かれているとか、そういうのも全く感じないのだ。あれだけ美人だし、いくらか男たちが挑戦し、撃沈したという話を聞く。自分は大丈夫、なんてそんな根拠のない自信など、どうして持てようか。
「ったく、何を迷ってんだか」
「お前が血迷ってんだよ」
「上手いこと言ってる場合か。座布団一枚やるけど」
「ここ僕んちだけどな」
細かいと分かりつつ、祐介は一応突っ込んでおく。
「今日は俺も千春も最大限協力したるから。えぇ感じのムードを作ったるで。ちょうど花火大会もちょうどあるし」
「え、あー……そういえばそうだっけ」
秋一に言われて、祐介は完全にそのことを忘却していた事に気づく。
毎年このよく分からない中途半端な時期に、彼の家の近くにある河原で花火大会をやるのだ。高校生にもなってあまり行く気もないが、祭りもその辺りでやっている。
ちょうどいい具合に彼の家のベランダから花火が綺麗に見えるので、昔から祭りの日はちょいちょい友人を招いて遊ぶことがあった。
そんなことを思い返していると、部屋のドアが開いて千春が顔を覗かせる。
「あのー、そろそろ戻って来てもいい頃なんじゃないですかー。私的にはそのまま二人でいつまでも仲良くしてもらってもいいんですけどー。ご飯もはかどりますし。……今日は協力するってことになっちゃってますし」
「お、すまんな」
彼女は最後の方だけ声を抑えて言った。本当に今日は二人揃ってそういう日ににしようとしているようである。
祐介はいろいろと納得がいかないけれど、とりあえず千春を軽く睨みつける程度にとどめて部屋に戻った。睨みに関しては、ウインクで返されたけど。女じゃなかったら、ぶん殴ってるところだった。
「んでさ、来てもらって悪いけど家、遊び道具とかあんまりないよ。持ってるゲームも一人利用ばっかりだし。花火大会まで結構あるし、何するつもりなのさ」
「それならもちろん考えてありますよ。何かないかなーってドンキをふらふらしてたら、ちょうどいいものがあったんです。少々お待ちをー」
千春はそう言って自分のバックをごそごそと漁った。そうして出て来るのはかなりの大きさの直方体。
「てってれー。ファンタジック人生ゲームー」
「……もしかしてドラえもん?」
「いえ、違います」
絶対にそうだろう、と祐介は心の中で突っ込む。ノリで言ってしまっただけで、全然面白くないからないのを自覚して無かったことにしたいのだろう。祐介も幾度か経験があるので、今回はそれ以上の追及をよしてあげる。
それはともかく、その人生ゲーム。パッケージは四人の男女がドラゴンと挑んでいるシーンで、なかなかにかっこいいものだ。四人の職業は服装からすると、勇者、聖女、格闘家に魔導師だろうか。人生ゲームなのに協力プレイなのかと少し疑問に思う。
「パッケージによるとですねー。『これはあなたが死んで、異世界に転生した様子を描いた物語。サイコロの目に従った職業を選択し、幾度となく現れる敵を倒し、時には仲間と協力しながら最高の人生を体験しましょう!』とのことです」
「へー、面白そう」
「ちなみにこの会社、既に潰れちゃってるんですけどね」
「……なんか、急につまんなそうな気がしてきたんだけど」
「ま、定価の一割で変えましたしね」
「引きじゃなくて!?」
「……私は面白そうと思うけど」
「ま、どうせ花火大会までやること無いし、これでいっか」
「手のひらを返した様とのはまさにこのことやな……」
隣で秋一が何か言ってるような気がしたけれど、まぁどうでもいいかと聞き流す。
それから早速パッケージを開いて、中身を取り出した。まぁまぁ大きめのマップに、小さな人形が五体ほど。山のステージや町、海のステージがあるようだ。そのほか三〇〇枚を超えそうなカードなんてものもある。
「これの使い方は後々説明書を見るとして……せっかくなら何か賭けとかしましょうよ」
「賭け? 負けたら地下帝国で重労働とか?」
「そんな藤原竜也が主演をしてそうなギャンブルゲームではなくてですね」
さらっと流された。
「例えば普通に、一位の人は、みんなに一つだけ命令できるとか。あ、エッチなのは同性間だけですよ」
「同性間でも禁止だろ」
「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
「無理なもんは無理や!」
千春の異様なまでのダダに、祐介に代わって秋一がしっかりと止めてくれた。
会話が一瞬途切れたところに、奏がぽつりと言う。
「……でも、その案はありかも」
「というと?」
「……ん……何でも命令は危ないから……何かお願いできる、くらいにして」
「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー……まぁ、いいですけど」
「さっきよりも溜めが長かったのですが」
祐介のつぶやきは無視され、ともかく、四人は人生ゲームを始めた。