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懲りねぇ理念は輪廻を通ず  作者: 時坂ケンタ
上谷祐介としての物語
12/37

12話 面白絵馬って、本当に結構面白い

 二人揃ってりんご飴をなめながら、祐介は隣りにいる奏に言った。


「こうなると、さっきのまであいつらが仕組んだんじゃないのって思えてくるんだけど」

「……一回目は違うと思う」

「そしたら、やっぱり今のは計画どおりってわけですか」

「……愚問」


 奏の断言に、祐介は今は亡き二人の姿が思い浮かぶ。サムズアップしていた。

 腕時計を見れば、花火大会まではまだ時間がある。立ち見のつもりなので場所取りの必要もないし、それまで勝手に過ごしとけ……いや。あいつらはそのまま告白しろっていてたわけだから、もうこのまま会う気ないはないのだろうか。


 四人がやっと合流した直後。

 二人は「わりぃ。俺ちょいとお手洗い行ってくるわ」「あ、それなら私も行きたいです」と言ってさっさと行ってしまい、戻ってこなかったのだ。

 もちろん、祐介は止めようとした。お手洗いと言った時点でそうなることは目に見えていたから。が、秋一は鼻血がだ―だ―出血多量だったので論外。……あぁ、そういえばあいつ女性恐怖症だったなー。最近いろいろあって、すっかり忘れてた。

 で、千春にはなんとなく顔を合わせづらくて、声をかけづらかったのだ。


 いや、これから千春にあれだけ言われたし。一応告白するつもりではあるので、その方が都合はいいのだけれど……なんというかさぁ……その、心の準備的な、ねぇ? 

 と、途端に祐介は体が強張るのを感じる。告白するのを意識したせいだ。どうにかするために、いかんいかんと首を振る。実行するのは花火が上がる時だ。今から緊張したって、どうするんだって話だ。


 ところで、サクラの報酬でもらったりんご飴は、ちゃんと奏の舌にあってくれたようだ。さっきから何かの小動物のように、ぺろぺろとなめてる姿が可愛らしい。

 ほんの少し緊張を残しながら、祐介はもう一度尋ねる。 


「で、どうする?」

「……境内」

「あぁ、如月さんも、秋一にそう言われてたんだ。子供の頃に待ち合わせするって決めた場所」

「……ん。でも、『妹のことやから、祭り楽しんでそーやな』って。ここらを探した」

「流石兄妹。でも、境内に行ったところで会えるとは思えないけど……。スマホ持ってないんだよね?」

 

 ダメもとで確認して見ると、なぜか彼女はにやりとして。


「……仕返しはしたけど」

「……あの鼻血はそういうことか」


 まぁ、自業自得なので、何とも思わないけど。

 それはともかく、奏の返答に祐介は少しだけ落胆する。

 ともかく、他に二人に目指すところはない。先ほども言ったが、花火大会まで時間もあるので適当に境内を目指しながら祭りを楽しむしかない、か。


 方針も決まり、二人はようやく歩き始める。

 当たりは相変わらずの人だかりだ。ここで「はぐれないように」とか言いながら手でもつなげればかっこいいのだが……。

 はぁ、と祐介は自分の手元を見て、小さくため息。無理だな―、とか、でも繋ぎたいなーとか。いやだも、コレから告白する訳だし、これくらいのステップは乗り越えないと……。

 が、緊張しているうちにて汗までかいてきた。流石にこれはないな、と諦める。

 っと。

 握られる感触。


「――!」


 驚いて振り向くと、彼女は小さな声で。


「……はぐれる」

「お、おう! そうですね。はい! ……でも、湿ってない?」

「……気にしない」


 何か気になる屋台でもあるのか、彼女はこちらに顔を向けず、素っ気なく言った。


 自分のよりも小さくて、柔らかで、少しひんやりしたその手。

 いつもよりもずっと近く彼女のことが感じられて。頭の中がそのことでいっぱいになって。

 胸が、どきどきする。


 ◆


 十五分ほどして、祐介と奏では境内に着いた。

 

 ここに来るまで、初めはガッチガチに緊張していた祐介であったが、幸いここはお祭り会場。話題には事欠かない。手つなぎにもだんだん慣れて、最後の方には不自然じゃない程度にはしゃべれた。

 最初は何故かそっぽを向き続けていた奏も、段々とノッて、楽しそうにしていたし、及第点と言えるだろう。

 屋台による余裕まではなく、ここまで一直線に来たのは減点であるけれど。


 ざっと辺りを見渡して、祐介が呟く。


「日原兄妹、やっぱりいないね」

「……ん」

「どうする? 来た道戻って屋台に寄るか……おみくじとかやる?」

「……絵馬見たい」

「書きたいのでなく?」

「……見る」

「……まぁ、分からんでもないけど」


 人の願いを盗み見る、なんて罰が当たりそうと思うのは、祐介だけだろうか。いや、わざわざ人に見えるように飾られているので、別にいいとは思うけど。

 実際、大概は真面目な願いが書かれているが、一部、面白いものもある。昔ネットで超ハイクオリティーアニメキャラの絵が描かれて笑ったものだ。

 奏の目当てもきっとそれだろう。いや、超ハイクオリティーアニメキャラじゃなくて、面白絵馬という意味で。


 二人は絵馬が飾られるコーナーに近づき、ざっと見渡す。

 『絶対合格』『純ちゃんと結婚できますように』『全ての願いよ、叶えぇぇえええええ!』などなど……最後の意味わからん。

 唐突に隣りで奏が身体を震わせる。爆笑しているらしい。


「そんなに面白いの?」

「……ククク。……これ」


 震える指先にあったのは、『そろそろ流石にお願いします((+_+))』


「ぷっ! くくく……これは……なかなか大変だったんだよね、きっと……くく」

「……ん……きっと何年も頼み続けた」


 なるほど。

 奏がさっきあれだけテンションを上げた理由が分かった。これは中々……いや、相当面白い。

 今度は自分の番だと思い、祐介はもう一度ぐるっと見渡す。

 『勉強が出来ますように』は普通過ぎる。プフっ! 『脱ロリコン』はダメだろ……面白すぎるけど、奏に見せるにはアレだ。そっと奥の方に隠す。他には……。


「……あ、こういうの好き」



 奏が言うので、覗いてみると『核と戦争と赤点がなくなりますように』『←俺もお願いします』。


「核と戦争なめてない?」

「……赤点回避を願う謙虚さがポイント」

「うーん、そう言われると分からなくもないけど……」


 とりあえず核と戦争って書いている部分が、余計馬鹿らしさを演出している気がした。個人的には、俺もお願いしますの方がポイント高い。

 段々と彼も本格的にハマって来たので、めくってでも面白絵馬を探そうか。けど、流石にそこまでやるのは罰あたりかーとか思っていると、いつの間にか手が繋がれていないことに気付く。多分、どれかの絵馬で爆笑している間につい離してしまったのだろう。若干……いや、かなりさびしく思うものの、流石に仕方がないと割り切る。

 そんな折、ふと視界の端にきょろきょろと不安そうに周りを見回す女の子を発見した。


「ねぇ、如月さん。あれって迷子かな?」

「……んー……そうかも」


 声をかけてみる? そう祐介が言い放つ前に、奏はさっさと女の子の元に行く。即断即決だ。彼は一瞬呆けて、すぐに流石だなと感心しながらあとを追った。

 奏は女の子の元で膝を折り、目線の高さを合わせる。そして、滅多に聞かない程の優しいトーンで話しかけた。 


「……どうかしたの? お父さんかお母さんは?」

「えぇっと…………う……うぅぅ……」


 すると、女の子は急に泣き出した。綺麗なお姉さんに話しかけられて安心したためと思うが、奏側からしたら困った話だ。どうすればいいか分からずに、おろおろする。

 個人的にはそんな彼女も可愛いのだが、こちらにヘルプ的な視線を送られては無視するわけにもいかない。ちょいまち、と口を動かしてから、少々仕込みをする。

 十円玉を取り出して。


「ここにご覧あらざりますはぁ、十円玉にございます」

「……ん?」

「うぅ……ぇ?」

「このように右手にしっかりと握ると……消えてしまいました。さてさて、どこに行ったのか。それは……おぉ、こんなところに」


 左手で女の子のポケットに手を入れると、そこから十円玉が出てきた。


「おー! すごぉい!」

「せっかくだから、プレゼントしてあげるよ」


 ほんと? と女の子は物珍しそうに十円玉を見つめる。さっきまでの不安はどこへやら、いまは手品への興味でいっぱいだ。

 練習したかいがあったなと満足していると、とんとんと奏につつかれる。


「……そんなこと出来たのね」

「ウェブ小説で主人公がおんなじようなことやっててね。かっこいいからちょっと前練習したんだ。本家はギザ十だけど」

「……へー」


 出来れば祐介もギザ十でやりたいのだが、これはコインを二枚用意する、手品としてはワンランク下がるものなのだ。そこまで持ち合わせがない。


「良かったら如月さんにも、後でやってあげようか」

「……私のどこに手を入れるつもり?」

「えと……」


 今の彼女は浴衣姿だ。女の子と違ってポケットなどない。いや、もしかしたら最近のはあるのかもしれないけれど、祐介の視線は自然に懐の方に行ってしまって。


「……へんたい」

「すいませんでした」


 謝ってすぐに一瞬、『あれ? 今、誘導されなかった?』的な疑問が浮かんだものの、そんな事を言う勇気はないので、素直に口噤んでおくことにした。

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