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chapter ⅰ ;銃を向ける|誰そ彼(たそがれ)

人が彼らを見てなんと言うであろうか。

恐らく、「美しい」の一点張りとなろう。

鍛えられた胸板に良く似合う軍服、統一された黒塗りのライフルを抱えるそれらが均等に立ち並ぶ姿はもはや芸術とすら言える。

 では人が彼らを見てなんと言おうか。

体格も背丈もばらばらで、服装も違えば武器も違う。

「・・・面倒だ」戦勝を祝う記念式典において、壇上で演説(スピーチ)を行う総統を眠そうに睨みつけながら、一人斜め立ちするAは呟いた。

誰が見ても「態度が悪い」「だらしがない」と形容するであろう彼を注意するものは居ない。

諦められているのだ。

Aが国軍に籍を置いてから既に二回の戦場を、期間で言えば数カ月を経ていた。

今に始まったことではなく、また矯正は不可能だと割りきられていた(まあ疎まれてはいたが)。

いまやAが座りこもうと気にかけるものは居ない。

監視・警護委員ですら、彼の動向には文字通り見向きもしなかった。

「アネーロ」Aは目前の背中をつついた。

しゃんと立っていたその人は鬱陶しそうに肩をよじらせると、またしゃんとした直立に戻った。

「おい、アネーロ」Aはもう一度その背中をつつく。

「じっとしてろ」青年は鬱陶しそうに振り向いた。

「やだ」Aは眠そうな目を一層細める。

「なんだよ」アネーロと呼ばれた青年は小声でたずねる。

「コレ、いつ終わんの?」Aの問いかけにアネーロは白々しくため息を吐いた。

「…話聞いてたら終わるよ」そういってアネーロはまた前を向きしゃんと立ちなおした。

「…聞きたくないんだがなあ」Aもため息を吐くと重心を反対の足に寄せ腕を組んだ。

総統は相変わらず美しい言葉を紡いでは兵士たちの心を絡めていく。

そういう『きれいごと』がなんとなく嫌いで、Aはこういったスピーチに耳を貸さないようにしていた。

大体戦って勝っただけでどうして長い話を聞く必要があるのか。

相手は無論殺しているのだ。何が記念になろう。

Aは仰々しく溜息を吐くとトランクを足元に立て、突き立てた刀の鞘に絡みつく様に身を寄せた。

どうしてこれほど規律というものに真っ向から相対する人物が軍人となれたか、恐らく誰もが疑問に思うであろう。

…人員不足なのだ。

この時世、軍事国家でありながら軍人のカリスマは地に堕ちていた。

なぜか?

主には、国民性との食い違いにあった。

『民族のランチビュッフェ』とまで呼ばれるほど多数の民族が寄り添って成立する当国では、好戦的なものはごく一部で、多くは他民族との「共和」を望む。

その中で現在政権を独占している国軍は他国への征圧を推し進めようとしていた。

生憎と選挙体制がないため国軍の独占状態は揺るがない。

そのため統制がとれておらず、軍事面では安全だが、治安などを始めとした政治面においては致命傷と言わざるを得なかった。

現に当国の至るところではレジスタンスが組まれ、政府に対するデモンストレーションが絶えない。

軍は『治安維持』と称すこれらの鎮圧に追われていた。

伝達手段は手紙や鳩といった原始的なものしかなく、各地の反乱軍がつながりを持っていないのが唯一の救いであろうか。

軍事教育すらままならない当国で兵役を科せばこれどころでないデモンストレーションが起こり、間違いなく政府は新勢力にとって代わるだろう。

よって国軍は「高度かつ文化的な生活環境の提供」を武器に志願制として軍事を進めてきたが、これまでの鎮圧活動などがたたってか、入軍志願者はなかなか少ないものであった。

・・・否、厳密には足りている。

当国軍は五部十三隊で構成されており、政治活動本部一隊、兵装開発部一隊、直接軍事活動部九隊、医療開発部一隊それとAの属する直接軍事活動支援別動部が一隊で構成されている。

政治活動部は現総統が首脳陣となるものを選択し引き込んでいる。常に最高レベルの人材が必要最低限動いている、つまり人員の欠乏は有り得ない。

兵装開発部、医療開発部はそれぞれの専門学生を引き込むので心配はいらない。

直接軍事活動部、通称本隊は最前線で戦うことが多いため人員の入れ替わりが最も多いが死の危険が一番高いが為生活環境は優遇されている(まあ国の首脳で構成される政治活動本部ほどではないが。)、即ち入軍するならここ、と決めるものも多く、したがって人員の不足はほぼない。

・・・で、肝心の当部隊である。

総数六名で構成されるこの直接軍事活動支援別動隊、通称特殊部隊は工作、本隊支援、本隊のベースキャンプ地確保などを主として活動しており、その仕事内容からマイナーで、あまり良い顔もされず、また死亡率も低いのであまり優遇もされない、と三重苦を受けており、志願者がいれば喜んで歓迎している。

Aの場合は特例であり、本来本隊志望のところが能力不足で落第したところを特殊部隊で引き取っている。

ということでそもそも軍人にすら成りえない能力のAが特殊部隊員として採用された訳であるが、指導員の献身的な指導により、現在は妥当と言える程度の能力を身に着けていた。

そんなAが入隊した理由は不明であった。

「…長い…」Aはただけだるそうに眠そうに壇上でスピーチを続ける総統を睨みつけていた。


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