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冬の空、君の瞳

 思えばいつのことだろうね。その目が気になりだしたのは。

 私と君は幼馴染と言う奴だけど、単純に人にそう言えるわけじゃない力関係の中にいたよね。

 私は鈍いから気付かなかったけど、君はとっくに知ってたんだと思う。君は特別な存在で、私なんかでは到底手の届かない存在だったのに。


 君は本当に特別。皆が知ってるし、知らない人は私くらいだった物ね。

 君が私と一緒にいてくれたのは、思えばその所為だったのかな。君はきっと、特別さに疲れていたんだね。

 だから、きっと、こうしていなくなってしまったんだろうね。

 町にいることは、苦痛だったでしょ?

 私でもそうなんだから、君が苦痛に思わないはずないよ。

 君は特別なんだって。

 私もね、ちょっとは人と違うな、とは思ってたんだよ。おもってたけど、それが何かなんて知るはずもなくて。

 初めて知ったのは、私が十四歳の時。誕生日になって、君がお祝いしてくれたよね。冬なのに、町の外の丘に、苦もなく連れていってくれたよね。

 冬なのに、君は丘の上の世界樹の花を魔法みたいに咲かせてくれた。…あれは、本当に魔法だったんでしょう?

 いくら私だって、あのときになったら君がひたすら特別なんだって、気付いちゃうよ。

 君が町一番の貴族様の屋敷に住んでいたのだって、それが関係してたんだもんね。私、知らないことばかりだったんだ。

 君は貴族の家の子供なんだと思ってたけど、違うって言っていても実はそう何だと思ってたけど、本当に違ったんだね。

 君は龍の子だったんだね。

 皆知ってたって言う。この町は、私ほどの子供なら皆、それを教わるんだって。私は孤児だから、知らなかったけどね。

 皆は家の人に、お母さんとか、お父さんとか、そういう人に聞いてしまうんだって。

 貴族様のお屋敷にいたのは、君の御両親の龍とお友達の、領主様の長男であられる御子息様が、預かったからなんだってね。君は本当はもう五十歳を越えていて、人間の世界を勉強するためにあそこにいたんだってね。

 それならそう言って、勉強してくれても良かったのに。私と一緒に遊んでばかりで、よかったの? 皆、面白くなさそうな顔していたのは、その所為だったのかな。

 龍の谷に君が帰るって聞いた時は、私驚いちゃった。だって、それまで特別って事に気付いても、龍だなんて知らなかったもの。君は何でそんなに沢山秘密を持ってたんだろう。

 私のこと、覚えていてくれるかな。あの誕生日の日の、輝く世界樹の花の舞った空を覚えてる? この先もずっと。

 私は絶対に忘れないよ。君が見せてくれた物も、君と過ごした時間も。絶対絶対忘れない。大切に大切に、君が若い姿のままで、私がお婆さんになっちゃっても、絶対に忘れない。

 君の特別なその瞳も、絶対に忘れないよ。それは、特別の人しか見ることの出来ない、龍の魔法の目なんだってね。私って特別だったの?

 だとすれば、嬉しいけどね。私はすごく好きだから、その目。

 分かるかな。今私が何に励んでいるのか。

 君が教えてくれた、私の魔法の才能を伸ばそうと必死になってるんだよ。君の御両親とお友達の貴族の御子息様、レンダート様に教えてもらってるんだから。

 君と会わせてくれるってレンダート様は仰ったけど、私はまだ会うつもりがないの。だって、私まだまだ半人前で、君の御両親にまで会える気がしないもの。会いに来てくれるなら別だけど、君も忙しいって聞いたよ。

 私が一人前になるのなんて、君の時間ではあっという間だから、ちょっとの間待ってて。そうね、あと、三年くらい。私優秀だから。




 その手紙を読み終えて、まだ少年とも言える容貌の彼はくすくすと笑った。

「どうしたんだ?」

 彼の両親、もちろん彼自身とも友人である魔法使いが、不思議そうにそう尋ねる。

「うん。ティオナはあのままなんだなぁ、と思って、嬉しくなった」

 少年は笑顔でそう言って、手紙の礼を彼に言った。

「ねぇ、ティオナって後三年後には、本当に魔法使いになってる?」

 少年の質問に、魔法使いはちょっと考えてから、こう言った。

「あの子がそう言ったのなら、なってると思うよ。とても、頑固で一途だから」

 魔法使いの答えに、少年は満足そうに頷いた。だが、すぐに憂鬱そうにうつむく。

「でも、それって僕も三年で、一人前にならなきゃってことだよね…」

 そんな少年の言葉に、魔法使いはひどく面白そうに目を輝かせて、声に出して軽く笑った。こんなふうに、龍の前でも臆面なく笑える者は、あまりいない。そんなところが、少年の両親に気にいられた理由だった。

「まぁ、いいじゃないか。君も優秀だからね。その魔眼をきちんと使いこなせるようになるだけじゃないか。それに、去年のティオナの誕生日には、しっかりと使ったんだろう? 大丈夫さ」

 魔法使いの言葉に、少年は頷いた。

「手紙をありがとう」

「いや。ついでだからね」

「レンダート、エレイオン、お茶にしましょう」

 人間を向かえるための人間の作りをした家の中から、龍の婦人の声が聞こえた。

 二人は微笑んで、それぞれにティオナを思い出しながら、家の中に入って行った。


 それから二年半の後、ここにティオナと言う名の魔法使いが、エレイオンと言う龍族の少年を尋ねてやってくることになるのだが、それはまたずっと後のお話である。

以前自分のサイトに掲載していた短編より。

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