1時間目
ループ。
くるくるくると、ずっと同じように繰り返される。止める術はなく、逃げ出すこともできない。
一度で終わりじゃない、二度、三度。何度も続く物語。きっとこれは、ゲームの世界と同じで。誰かがニューゲームとロードを繰り返しているのだと思い至ったのは、私が二回目の死を経験した後だった。
亀裂が入った隙間を縫って、漏れ出す覚えのない記憶たちが全て繋がった瞬間を私はきっと忘れない。『記憶』の濁流に溺れたあのとき。
視界が狭まって世界が遠く見えた。体を流れる血液が、一瞬で沸騰したような痛みがぶり返した気がして。
「あーぁ…。なんでこうなっちゃったのかなあ」
錯覚にすら怯える自分に空っぽの笑みが漏れる。ファンタジー学園物のくせに、なんでこうも死んではリセットされることになっているのか。
もしもし、誰か。
このループし続ける世界の恐ろしさに気づいてはいませんか。
死んでは入学式へとリセットされるループの輪の中で私はまた、鏡に映り込んだ『私』に手を伸ばした。
舞台は白鳥学園。
小学部から高等部まで一貫して魔法に関する教育を主として受けられる白鳥学園は、格式も学費も高嶺の花扱いされている。特徴として挙げられるのは高等部から任意選択式の講義に移行するシステムであろう。
また持ち上がりの内部生が大半を占めていた中、高等部にもなると流石に成績が優秀な外部生を特待生として採用していたが圧倒的にその数は少なかった。
そして、その数少ない外部生であるのが平井加奈こと私である。魔力が少なかったこともあって入学を半ば諦めていたのだが入学許可通知が届いた瞬間、家族と奇声を上げるほど喜んだ。
影の薄さには定評があった加奈も入学式を迎えて一週間、少ないながらも同じ外部生の知り合いも作り楽しく日常を過ごすことができていた。
あの時は、まだ。
平凡な加奈の日常が崩れて行ったのはきっと『主人公』が編入してきたあの五月からだと思った。
そして平凡だった自分が実は、主人公のための捨て石に過ぎないのだと気づいたのも。