第2話 「神とご同行」
「なんと!」
私はお尻をムチで叩かれたように跳びはねると、一散して神様のもとへ駆けつけました。それから、無作法にも神様の御前で恥知らずな天体観測に及んだことへの謝罪をしようと、一生懸命に頭を下げました。
「頭など下げんでもよろしい。表を上げなさい」
許しを得ることができなければ地獄に落されるのではないかと私はたいそう震えていましたが、神様はその尊大さを示すよう温和な心で私を許してくれたのでした。
私は言われた通りに顔を上げて、神様の顔を見つめました。
丸顔で目が細く、つぶれたような鼻が印象的、まさにコアラの赤ちゃんのような面容でした。年齢は三十歳ぐらいに見えます。思ったよりも神々しくなかったので、私は安堵して訊ねました。
「神様がどうしてここに?」
神様は「松本でいい」と私を促がすと、夜空を見上げて言いました。
「今宵は七夕だ。七夕では幾多の人間が笹の葉に、願いを込めて短冊を掛ける。それを私は一つ一つ見て回り、叶えてやっても良い願いには『可』を。叶えることができない願いには『不可』を付けてやらねばならんのだ」
髪を頭頂部で一括りに結わえ、タマネギのような頭をしている松本さんは、自分の頭皮を軽く掻きながら、愚痴のように言います。神様にとっては一筋縄ではいかない仕事なのかもしれませんが、誰かの願いを叶えてあげる仕事というのは、たいへん魅力があるように思えます。
私があまりにも期待と希望に満ちた顔をしていたので、松本さんは続けました。
「どれ、一緒に行くかね?」
直撃すれば地球が真っ二つになりかねない速度で何度もうなずきました。「好奇心旺盛だなあ」と松本さんが朗らかに笑うので照れてしまい、にやけ顔を呈してしまいました。他人の所望を承る仕事に付き添うことになるので、私は気を取り直して頬をぺちぺち叩きます。
「ならば、いざ行こう」
そう言って、松本さんは今から向かうであろう方向を指差しました。私は空間が捻じ曲がり、いつの間にか目的地にワープしたりするのかと、胸を躍らせていましたが、松本さんは平凡に歩いていきました。どうやら神がかりな移動手段は持ち合わせていないようです。