↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR

出戻り異母姉が私の婚約者を狙っているようですが

掲載日:2026/09/08

 このままでは、絶対に何かしら問題を起こす。


 セレスティナは婚約者であるレオンハルトとの茶会へと向かう途中で足を止めた。目の前に広がるのは、先に東屋で待っていたレオンハルトと、つい先日離縁して出戻ってきた異母姉アデライードの二人のお茶会だった。


 そう、お茶会。


 レオンハルトは指定された東屋で待っていた。これはいい。王女であるセレスティナを待つのは彼の喜びだ。問題はセレスティナが到着する前になぜかお茶会が始まっていること。しかも、彼の隣にべったりとへばりついているのはアデライードだ。お茶会というよりも何かの怪しげな接待にしか見えない。


「……頭にカビでも生えているのかしら?」

「殿下、心の声がダダ洩れです」


 付き従っていた侍女のアンナがスンとした顔で注意をしてくる。


「いいじゃない。ここにはアンナしかいないんだから」

「ですが注意をするのが私の仕事なので。それで、どういたしますか? そろそろレオンハルト様が吐きそうです」


 真っ青になっているレオンハルトを見て、セレスティナは意地悪な笑みを浮かべる。


「まだ平気でしょ? 顔色が白くなっていないし。でも、どうしようかしら? ここは、演劇仕立てで泣いて見せようかしら?」

「やめてあげてください。レオンハルト様の絶望は面倒くさい、と彼の従者から言われています」


 ちらりとアンナを見れば、いつもと変わらず無表情。セレスティナは肩をすくめた。


「わかったわ。じゃあ、救済に向かうわね」


 セレスティナは背筋を伸ばすと、颯爽と二人の元へと歩いた。


「セレス! ああ、会いたかった!」


 レオンハルトが目ざとくセレスティナを見つけると、勢いよく立ち上がってそのまま突撃してきた。


「止まって」


 抱きしめようと腕を伸ばしてきたところで、持っていた扇子で彼の動きを止める。


「……セレス?」


 レオンハルトの顔にはなんで? という疑問が浮かんでいる。セレスティナはそんな彼に一度だけ優しい目を向けてから、呆気に取られているアデライードを見つめる。


「ごきげんよう、お姉様。今日はどうしてこちらにいらっしゃったの? ここは私とレオンハルトとの約束の場所でしたのよ?」


 にっこりと微笑めば、アデライードがふんわりと笑った。


「あら、セレスティナ。遅かったじゃない。彼、一人で退屈そうだったから、お相手してあげたの。ここに用意していたお菓子、美味しいわよ。あなたもどう?」


 どう、と勧められてテーブルの上に給仕されている菓子のスタンドを見た。


「――お姉様、それ、食べてしまったの?」

「え? ええ。だって用意してあったんですもの。食べていいってことでしょう?」


 そういうことではない。


(噂には聞いていたけど、悪気がないんだわね。こういう人だったの、お姉様って。そりゃあ、みんな嫁いでいって、ほっとするわね)


 セレスティナは瞬時に彼女の性格を把握した。王家には三人の子供がいる。その一人が異母姉だ。彼女だけが前王妃の娘で、王太子とセレスティナは現王妃の子供。ちなみに現王妃は隣国から嫁いできた王女だ。そのため、異母姉とは七歳ほど年が離れていて、いま彼女は二十五歳だ。一緒に暮らしたこともなく、大きな式典で顔を合わせる程度。アデライードの性格を今まで知る機会がなかった。


「まあ、いいですわ。そのお菓子、お母様からの差し入れだったのだけど」

「そうだったの。それよりも、レオン様には……そのセレスティナでは物足りないのではなくて?」

「物足りないの?」


 不思議に思って、レオンハルトに聞けば彼は首を大きく左右に振る。今にも泣きだしてしまいそうな琥珀色の目をしていた。しかも、若干顔色がさっきよりも白い。


(レオンハルト、完全にお姉様に拒絶反応を出している……)


「問題ないみたい。そもそも、お姉様は何に対して物足りないと思っているの?」

「えっと。だから、その女性としての魅力? ほら、私の方が彼と年が近いし」


 もじもじと言いにくそうにしながら、頬を染めてレオンハルトを見つめる。レオンハルトがびくっと体を揺らし、ざっと蕁麻疹を出した。


(お姉様、レオンハルトの年齢をいくつだと思っているのかしら? 彼、二十歳だから私の方が近いのに)


 不思議な言い回しをするものだと思いつつ、首を傾げる。


「まあ、お姉様ったら。いつから淑女をおやめになったの? それとも嫁ぎ先でもそうやって男を誘惑していらしたの?」


 その言い方が気に障ったのだろう、アデライードがむっとした表情になる。


「それは誤解よ! 確かに少し距離が近かったかもしれないけど。誘惑だなんて大げさな。男の人って、そういう距離、好きでしょう? 私だって一生懸命家のためにやっていたのに」


 アデライードの言い訳を聞いて、セレスティナはため息をついた。


「そうでしたの。でも一般的にはそういうのは、はしたないと言われてしまいますわ。他にもう少し役に立つ能力を身に付けたらよかったですわね」

「殿下、そろそろ……」


 セレスティナが言葉を切ったタイミングで、アンナが声をかけた。セレスティナは何度か瞬きをしてから、レオンハルトを見る。瞳孔が開ききっていて、限界を超えそうだ。


「では、お姉様、ごきげんよう。レオンハルト、行きますわよ」

「ああ!」


 声をかけた途端に、顔色が良くなった。そしてアデライードが何かを言う前に、セレスティナを抱き上げると、そのまま足早に歩きだす。セレスティナは慣れた様子で彼の首に腕を回した。


「お姉様、レオンハルトに目を付けたみたいね」

「勘弁してくれ……俺はセレスだけがいればいいんだ。今日だって結婚式についての話をしたかったのに」

「ふふ、そうだったわね」


 優しく目の前にいるレオンハルトの頬に触れた。それだけで、彼の目はとろりと甘く溶ける。

 その変化を嬉しく見つめながら、心では別のことを考えていた。


(さて、どうしようかしら。あれは放置してもいいことはないわ。お兄様に相談ね)


 レオンハルトを手放すつもりも、社交界を荒立てるつもりもない。セレスティナは楽しそうに目を細めた。




 レオンハルトとのお茶会を改めて終えた後、セレスティナは兄の王太子の元へ先触れを送った。すぐに面会できるとのことで、さっそくアンナを連れて王太子の執務室へと向かう。


「やあ、セレスティナ。この時間に面会を求めるなんて珍しい」

「ごきげんよう、お兄様。時間を取ってくれてありがとう」


 王太子に促されて、ソファに腰を下ろす。彼も執務机から離れ、侍従にお茶を用意するように指示をしてからセレスティナの向かいの席に座った。


「それで、どうしたんだい?」

「お姉様を排除したいの。どんな方法が一番穏便かしら?」

「……また随分とそのままだね」


 王太子が呆気にとられた顔でセレスティナを見つめる。セレスティナは肩をすくめた。


「だって、仕方がないわ。レオンハルトに色目を使うんですもの。年が近いから私よりも魅力的でしょうって言っていたわ」

「はあ? レオンハルトなんて無理だろ。あれの執着を甘く見るな。お前と引き離した日には、公爵家の私兵を引き連れて王都を攻めに来るぞ。私はまだ命は惜しい」

「そう思うのなら、協力して頂戴」


 セレスティナはお茶へと手を伸ばした。王太子はうーんと唸る。


「協力したいのは山々だけど、父上がな。離縁されて可哀想という感じだから」

「まあ、本気ですの? お姉様、随分と勘違いした社交をしていらっしゃったみたいなのに」


 先ほど見たアデライードの性質を思い出しつつ、お茶を一口飲む。


「勘違い?」

「ええ。男性にちょっと寄りかかるような感じにすることが家のためになると本気で思っていそうでしたわ。現に、レオンハルトもにべったりと寄りかかっていましたから」


 王太子が目を見開いた。


「はあ? 王女が家の社交としてそれを?」

「そうなの。どういう教育をしたらああなるのかしら。不思議ね」


 王族の教育はとても厳しい。特に異性として勘違いされるような態度など許されるわけがない。それを気にせずやるということに違和感を持った。


「そのあたりは、父上に聞くか」


 王太子もしばらく考えてから、そう結論付けた。


「そうね。どちらにしろ、今さら矯正できないでしょうから」

「まったくだ。でも、それなら放置していてもそのうち自分で落ちていくんじゃないのか?」


 セレスティナは眉根を寄せた。


「その間、犠牲になるのはレオンハルトなんですけど」

「そうだけど、手っ取り早い。どうせ、公爵令息で自分と年の近い二十歳、ということで目を付けたんだろう。他の男を侍らせても無理だと思うぞ」


 全くその通りだ。

 セレスティナは兄の提案を突っぱねることができなかった。しばらく考えてから、ため息をついた。


「わかったわ。レオンハルトにお願いしてみる」

「穏便にな。私は姉上が気持ちよく生活できる場所を見つけておくから」

「あら、修道院に入れませんの?」


 王族の厄介払いといえば修道院だ。そう聞いてみれば、王太子は首を左右に振った。


「修道院に迷惑だろう。そのために、寄付を積むのもバカらしい。もっと自然豊かな場所でのびのびと過ごしてもらったほうがいい」

「のびのびと、ね」


 王太子がどうするつもりかなんとなく理解した。




 セレスティナはレオンハルトとアデライードと少し離れた場所で貴族夫人たちと話をしていた。今日は王家主催の茶会だ。広い庭に招待された貴族たちがいくつもの輪を作って様々な話に花を咲かせている。


「セレスティナ殿下、よろしいのですか?」


 アデライードがレオンハルトにべたべたとまとわりついているのを見て、眉をひそめた。セレスティナはちらりとそちらに目をやる。


「少しの間、彼には我慢してもらっていますの」

「まあ、それで。ですが、レオンハルト様、随分と……そのどす黒い顔色になっていますわ」

「ええ、そうね。多分、誉め言葉をひねり出せなくて苦しんでいるのかもしれないわ」


 レオンハルトにはアデライードを褒めるようにお願いしている。


「誉め言葉、ですか?」

「ええ。お姉様は離縁したばかりで傷心のようなの。だから、ごく社交的な礼義の範囲で褒めて差し上げてとお願いしたのよ」

「……顔色がその社交の礼儀を取り払っているようですが」

「それは、仕方がないわ。レオンハルトですもの」


 そう言いつつも、やはり心配だ。このままだと、アデライードを見たまま気絶しそうでもある。仕方がなく、少し彼らの方へ近寄ることにした。


「少しあちらに行こうと思うの。付き合ってくれないかしら? お姉様に威嚇したと思われても嫌だから」

「わかりました。では、紹介をしていただきとう存じます」


 貴族夫人たちは頷いて、セレスティナの後に続く。近づくにつれて、レオンハルトの声が聞こえてきた。


「あなたの、その……カエルのような緑と土の混ざった色の目が……とても……独特で」


 誉め言葉なのだろう。思わず足が止まった。後ろに付き従う貴族夫人たちの戸惑いを肌で感じる。


(お姉様は確かに緑の目だけど……何故、カエルの色にたとえたの?)


 確かに褒めてほしいとは言った。だがその言葉の選択がいまいちすぎる。しかも顔色も悪く、唇が真っ青だ。


「そして……そのはちみつを煮詰めて焦がしてしまったような髪は触れるのも躊躇われ」


 レオンハルトの声が震えている。


(やっぱり、表現がおかしい。お姉様と私の髪の色ってそんなに違わないのに。あれ? いつもはもっと滑らかに誉め言葉が出てくるわよね)


 普段のレオンハルトはだだ甘い。髪もいつまでも触れていたいほど滑らかで艶やかで目がつぶれそうなほど神々しいと言っている。


「あれは褒めていますの? 新手の悪口では?」


 そんな呟きを貴族夫人のひとりが漏らした。


(大いに同意するわ。これ以上、レオンハルトに頑張ってもらうのは無理ね)


 セレスティナは息を整えると、明るい顔で声をかけた。


「レオンハルト、ここにいたのね。お姉様も」

「あら、セレスティナ。ねえ、レオンったら私のことをすごく褒めてくださるのよ。やっぱり結婚するなら私の方がいいんじゃないかしら? 出会いが遅かったのは仕方がないとしても、まだレオンは独身者だから」


 いつの間にか運命の出会いと言い出しそうなアデライードに、セレスティナは静かに切れた。


「お姉様、こういう公の場で恥知らずなことを言わないでくださいませ。さすがに、必死すぎてみっともないですわ」

「必死だなんて。私はただ、レオンの幸せを思って」


 初めてアデライードの顔から笑みが消えた。それを見て、セレスティナは目を細める。


(なるほど、お姉様も計算してやっていたのね。納得)


 そうわかれば、遠慮することなどない。大いに悲しげな表情を作る。レオンハルトが目を大きく見開いた。今にも涙が零れそうだ。


「お姉様はそう思うのね。でも、私の婚約者の愛称を呼んだり、距離が近かったり。妹である私を悲しませるとは思いもしないのね。やっぱり、母親が違う妹なんて憎らしい存在なのかしら」

「え、そんなことは」


 ほろりと涙が一粒、セレスティナの頬を転がる。視界の片隅にはいるレオンハルトの顔がひどいことになってきた。でも今は声をかけるところじゃない。


「でも……やっぱり疎ましいのでしょう? こんなにひどいことができるんですもの」

「あ、それは」


 言い訳をしようとしているが、アデライードは口をパクパクするばかりだ。そして助けを求めるようにレオンハルトにアデライードは手を伸ばした。だが、彼はその手を振り払い、セレスティナをぎゅうぎゅうに抱きしめた。


「レオンは愛称じゃない! その呼び方は祖父のものだ。セレスが悲しむ必要なんて少しもないんだ!」


(知っているわよ)


 だがそれを言っては台無しだ。アデライードは呆気にとられた顔になった。


「え? レオンが愛称じゃないの? レオンハルトと呼んでいるセレスティナとはあまり仲が良くないのかと思ったのに」

「お姉様、ご存じなかったの? レオンハルトの名前は祖父から頂いたんですって。だから、『レオン』といえば、彼の祖父を指すのよ」


 そう説明してやれば、アデライードは顔色を変えた。


(ふふ、面白い。ようやく本当の顔を出したわね)


「嘘、じゃあ……」

「少し情報収集が苦手のようですわね。とはいえ、お姉様がいくらレオン様を慕っていても、彼のお祖父様の後妻として嫁がせることは難しいでしょうから、どうぞ諦めてくださいませ」


 セレスティナはにっこりと微笑んで、駄目押しをした。




 ある晴れた午後。

 セレスティナはレオンハルトの膝の上でぼんやりしていた。


「何を考えているんだ?」


 レオンハルトはあの茶会の後からずっとセレスティナにべったりだ。


「レオンハルトはどうしてそんなにも私のことが好きなの?」

「好きなんて言葉ではこの気持ちは表現しきれない。君がいるから俺はここにいられるんだ」


 心からの言葉に、セレスティナは微笑む。


「そうだったわね。本当に公爵家そのものの性格をしているわね」

「俺からセレスティナを奪う者は許さない」


 固い声でそういうので、宥めるように彼の手を叩いた。


「心配しなくてもお姉様は辺境にある王領で領地経営を学ぶことになったわ。自立したほうがいいだろうって」


 働かざる者、食うべからずと父王の反対を押し切って王太子が手配した。辺境の上に、屈強な騎士たちに守られた土地。いくら篭絡がうまい王女であっても出てくることは不可能だ。

 だが、それだけでは安心できなかったのだろう。セレスティナを抱く腕がきつくなった。


「――こっそり始末しても?」

「駄目。あれでも王女なのよ。手を出してしまったら、結婚できなくなるわよ」


 王女殺しは重罪だ。たとえどんな王女であっても。

 ようやく納得できたのか、レオンハルトはセレスティナに顔を見せないようにして黙りこくった。


「そういえば、お姉様が戻ってきてから話せていなかったけど、結婚式の準備がようやく終わりそうよ」


 レオンハルトがようやく顔を上げた。


「いつ結婚できる? 午後?」

「いくら何でも早いわよ。でも半年後には」

「俺、すごく頑張ったのに」


 ぶつぶつと聞こえてくる呟きを笑顔で流して、セレスティナはにっこりと笑った。


「私、幸せよ。レオンハルトは」

「もちろん幸せだ」


 ようやく明るい笑顔を見せた婚約者にセレスティナは目を細めた。



Fin.


【御礼】

シーモア様先行配信「婚約者の王子に毒を盛られたので愛が冷めました」が総合日間ランキング1位になりました。ありがとうございます(≧▽≦)


まだ手に取っていない方は、ぜひ一話無料ですので覗いてみて下さい~♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約者の王子に毒を盛られたので愛が冷めました

コミカライズ配信中!
画像クリックするとシーモア様のページが開きます。

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。