妹扱いだった幼馴染は、結婚後に愛を止めなくなりました!?
「アデル…、俺の女神は今も昔もお前だけだ」
クロードは私の首筋に唇を当てて、熱っぽい瞳で見下ろしてくる。
「もう俺だけのものだ、誰にも触らせたりしない」
私のことは、昔からずっと妹扱いだったのにっ…!
「アデル、なんで逃げるんだ」
「クロードが追いかけるからじゃない!」
私は侍女のサナの後ろに隠れた。
「夫が妻を愛して何が悪い」
「加減ってものがあるでしょう!?」
私は顔を赤くしながら、抗議する。
結婚初夜の翌朝、体中が痛すぎて3日も起き上がれなかったのは記憶に新しい。
クロードは兄の友達で、子どもの頃から知っている。
でも、クロードと結婚するとは露ほども思っていなかった。
私には9歳の時から、別の婚約者がいたから。
その婚約者は、寄宿学校に通う頃から人が変わったように女遊びが激しくなった。
それでも関係は続いていて、いよいよお父様が婚約を考え直そうとした時、婚約者は風邪を拗らせて呆気なく亡くなった。
その時だった、クロードから結婚の申し込みがあったのは。
家格も元婚約者より上で、昔からの知り合いだったのもあって、お父様は承諾した。
喪が明けてから婚約し、先月とうとう結婚したのだけど…。
「そもそも結婚してからクロード変よっ」
サナを挟んで、少しだけ顔を覗かせる。
「何も変じゃない。大体何がそんなに嫌なんだ。お前は昔から俺のことが好きだっただろ?」
「なっ、そういう無神経なところが本当に嫌っ!クロードのバカ!」
私はわなわなと震えながら、サナの背中にしがみついた。
婚約者がいるからと、そっとしまっていた初恋を今更暴露しなくてもいいじゃない…!
「申し訳ございません、我が主に情緒がなくて」
私を隠してくれているサナが呆れながら代わりに謝る。
「出会った時から妹扱いだったのに、なんでそんなに態度が変わるのよ」
私がさらに文句を言うと、クロードがウッと言葉を詰まらせた。
何よ、そんな気まずそうな顔しちゃって。
しばらく口だけが動いていたが、クロードの絞り出す声が聞こえた。
「…婚約者のいる女に、懸想するわけにはいかないからだろっ!」
「はあ…?」
「クロード様はアデル様を妹扱いすることで、ご自身の理性をなんとか保って生きてこられたのですよ」
「サナ、余計なこと言うな」
「アデル様が結婚するまではと、あんな歳になるまで結婚どころか婚約者も作らず」
「サナ」
「誰とも婚約しないから、当主様に何度怒られたことか」
「…サナ」
「本当に諦めが悪いのでございます。まあ、今回は粘り勝ちでしたね。長年の恋が実ってようございました、クロード様」
「………」
「ですので、ようやくアデル様を独り占めできて浮かれておいでなのです。申し訳ございません、我が主が想いを拗らせているばっかりに」
クロードは両手で顔を覆って、しゃがみ込んでしまった。
え、…っと、クロードって私のこと、好きだったの…?
じゃあ、私たち実はずっと両思いだったってこと?
「…好きって言われたことないんだけど?」
「…結婚したんだからわかるだろ」
わかるか!
「申し訳ございません、我が主が口下手のヘタレなばっかりに」
「ああ、もういい!アデル、出かけるぞっ!」
「へっ、どこへ?」
「サナ、支度してくれ」
「クロード様、そういうところですよ。結婚したからといって、心まで貰えたと思うのは思い上がりにございます」
「…連れて行きたい場所があるんだ、一緒に来てくれアデル」
クロードを言い負かせるのは、乳母の娘で本当に妹のようなサナだけかもしれない。
「そっか、今って夜明け祭の時期だったのね」
クロードに連れられて街に出ると、祭りで賑わっていた。
「昔、行きたいって言っていただろ?」
それ、12歳の時の話じゃない…?
夜明け祭とは、昼の神が怒り幾日も夜だけが続いた時に、夜の女神が自分の存在をベールで隠したことで昼を取り戻したという神話に基づいた、夜の女神に感謝を捧げる祭り。
女の子の憧れのデートの定番で、私も行ってみたかったのだけれど、当時の婚約者は私と行くことはなかった。
「アデル様、失礼します」
後ろにいたサナが、私に美しいレースのベールをかけた。
「え…」
すっぽり被って、私の顔は外から見られなくなった。
夜明け祭にベールって…。
意味がわかって、みるみる顔が赤くなっていく。
夜の女神にちなんで、意中の女性にベールをかけることで、他の男に近寄ってくれるなという印になるのだ。
今時、そんなことする人はいないのに…。
周囲の人たちから歓声が上がると、ヒューと口笛が聞こえたり、拍手の音がした。
ううう、恥ずかしい…。
「ほら、アデルの行きたいところに行っていいぞ」
なんだか満足そうなクロードの声が聞こえて、そわそわする。
クロードって、本当に私のことが好きなのかな。
こんな上等なレースで私を覆うくらいだから、好きと言われているようなものだけど。
手を握られて、私の歩きに合わせて進んでいく。
たしかに、大事にされているのはわかる。
でも、結婚しても今まで通り妹扱いは変わらないんだと思っていた。
だから、正直戸惑う気持ちのほうが大きい。
その手は熱くて、私の熱も気持ちも伝わりそうだった。
結局ベールは家に帰って、湯浴みをするまで被ったままだった。
夫婦の寝室に行くと、クロードは先にベッドに座っていた。
「祭りはどうだった?」
「楽しかった。夜まで踊っているって本当だったのね」
「ああ、お前に見せられてよかった」
なんとなく隣に座れなくて、突っ立ってしまう。
「アデル?」
「ねえ、クロード。私のこと、好き?」
「なんだよ急に」
「だって、信じられないんだもん…。10年の間、そんな素振りなかったし」
「婚約者のいる相手に何かしたら、お前に幻滅されるだろ」
「それは、そうだけど…」
たしかに、元婚約者のそういう部分に辟易していたから、クロードの気持ちが見えていた時点で私はクロードにもガッカリしていたかもしれない…。
「結婚は、昔のよしみで引き取ってくれたんだと思ってた」
私の呟きに、クロードは腕を伸ばして私を引き寄せた。
クロードは私を見上げて、どこから出したのか、さっきのベールで私を包んだ。
「初めて会った時から、俺の女神はアデルだった」
月に照らされたクロードの目が、私だけを映している。
「俺は諦めが悪いからな、お前と結婚できるチャンスを逃さまいと必死だったんだよ」
「…初耳よ」
「お前の兄に頼み込んで、義父上に手回ししてもらったんだからな」
なにそれ、お兄様も協力していたの…?
「アデル、愛してる。俺にはお前しかいないんだ」
そう言って、私と一緒にベッドに倒れ込んだ。
そのままいつもみたいに、たくさんのキスが降ってくる。
「これからはちゃんと口で言って」
「…こんだけ愛しているのにか」
「クロードの愛、わかりにくいもの」
私はクロードの唇にベールを当てた。
「ちゃんと言ってくれないなら、私も言わないから」
「…どれだけ俺がお前に焦がれていたと思っているんだ」
「え…」
「アデルがあの男と腕を組むたびに、腕を切り落としてやりたいと思っていた」
「ク、クロード…?」
「俺なら他の女に現を抜かして、あんなふうに悲しませたりしない」
「…クロード」
「お前のことを、最初から妹だなんて思ってない」
クロードの目が訴えかけるようで、私は息を漏らした。
「私もずっとクロードが好きだった。でも、それはダメだと思っていたから…」
「過去形じゃ困る」
クロードはベールごと私を抱き締めた。
あまりの力強さに、どこにも行くなと言われているみたいで、泣きそうになった。
「好き、クロード私も好き」
「あの男の記憶を消してやりたい」
「最初から心はクロードの方を向いていたのに?」
私がくすくす笑うと、クロードは眉を顰めた。
「それじゃ足りない」
クロードは激しくキスをするのだった。
夜の女神に見守られながら、初夜さながらの夜を過ごした。
次の日からまた3日立てなくなったのは、言うまでもない。
サナがクロードを説教するのが、本当に恥ずかしかった…!
了
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