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海を羽ばたく星座のように

作者: 空清水紗織

以前、noteに投稿したものを改題、調整し、こちらでも投稿してみました。


2026/01/11追記

日間、週間ともにランクインしました。読んでくださった皆様、ありがとうございます。

童話とはテイストの違う、ローファンタジーも書いてみましたので、もしご興味あればこちらもよろしくお願いいたします。


サ終済みソシャゲアイドルたちは、もうライブなんてしたくない!

https://ncode.syosetu.com/n8001lp/

 青い海に、小さな島々が浮かんでいます。

 その島の一つに、大きな大きな灯台が建っていました。


 今は灯台としての役目を終えて、展望台として開放されています。

 人間たちにとってはただの展望台ですが、昔から知っているものにとっては、灯台としての方がしっくりくるそうです。


 そして、それが灯台として使われていた頃のように、今でも目印として使っているものがいました。

 渡り鳥です。

 黒い大きな翼と、ツヤツヤとした嘴を持つ、綺麗な渡り鳥でした。


「よお、灯台さん。今年も来たぜ」

「ああ、渡り鳥さん。ご無事で何よりです。そして私はもう展望台ですよ」

「毎年言ってるが、俺らにとっちゃ灯台さんなんだぜ」


 渡り鳥たちは毎年夏になると、長い旅路の途中、この島で羽を休めます。

 渡っている最中、水平線の向こうに灯台が見えると、休憩地点が近付いてきたと安心するのだそうです。


「にしてもお前さんは、ほんっと背が高いなあ。他の島にも展望台はあるが、遠くからでも見えるのはお前さんだけだぜ」

「それも毎年言ってますね」

「来年も再来年も、その先だって言うぞ」


 渡り鳥さんの言葉に、灯台さんは寂しげな顔を浮かべました。


「どうした、そんな顔して。糞でもかけられたか? 他の鳥ときたら、マナーがなってないのが多いからなあ」

「――実は、今月末で取り壊しが決まってまして」

「取り壊しィ!?」


 渡り鳥さんの大きな声に、他の渡り鳥たちもびっくりして、辺りは鳴き声で溢れます。


「取り壊しって……お前さん、何やらかしたんだよ」

「何もやってこなかったのが、良くなかったんですかねえ」

「あぁ? どういうことだよ?」


 灯台さんが建っている島のまわりには、他にもたくさんの島があります。

 そこは人間のカップルにとってのデートスポットでした。

 特に、このあたりは夜空が綺麗なので、夏の間は星を見に来る人が大勢いるのです。


 そこで偉い人間さんたちは、いくつも展望台を建てました。

 冷暖房完備の展望台、お土産が美味しい展望台、映えに特化の展望台。

 それぞれが色々な方法で集客していますが、どこもかしこも決まって、恋愛成就も謳っています。

 そんな中、灯台さんは、ただただ高いだけが特徴でした。


「高いだけじゃ恋は叶わないってか? カー! これだから飛べない人間は! で、それがどう取り壊しに繋がるんだよ」

「お客さんを集められない私に代わって、新しい観光スポットを作るんだそうです」

「俺の爺ちゃんの、そのまた爺ちゃんから伝わってる話だが、お前さんを頼りに海を渡ってきた人間たちも大勢いたんだろ? それを忘れて取り壊しだなんて、罰当たりもいいとこだぜ」

「それだけ昔ということなのでしょう。私は役目を終えたのです」


 灯台さんは、再び悲しげな眼で海を見つめます。

 すると渡り鳥さんが、大きな黒い羽をバッと広げました。


「よぉし! そしたら俺が一羽脱ごうじゃないか! 要は客が戻れば良いんだろ? そんなの楽勝さ」

「そんなに簡単なことなのかい?」

「おう。他の展望台以上に人間どもの恋が叶うような、ロマンチックな演出をすりゃあいいのさ! 取り壊しは今月末だろ? それまでに何とかするから待っててくれよな」


 そう言うと、渡り鳥さんは仲間の元へ飛んでいきました。

 一体、どんな方法で取り壊しを回避するのでしょうか。


 ***


 渡り鳥さんが灯台さんとお話をしてから、1週間が経ちました。

 その間、渡り鳥さんたちは、ずーっと群れで空を飛んでいました。

 そして他の展望台たちは、たくさんの人間たちの恋を叶えていました。


「あぁ、この1週間、ほとんど人間が来なかった。こうやって渡り鳥さんたちを見守るのも、今年でおしまいかあ」


 灯台さんは、渡り鳥さんのお爺ちゃんの、そのまたお爺ちゃんの頃から、彼らを見守ってきました。

 暗くて何も見えないときには、光の道しるべを空に灯らせて、案内をしてきました。

 その光に照らされた渡り鳥たちの嘴は、一つ一つが煌めいて幻想的だったそうです。

 灯台さんの光は、強くて明るくて、温かいのです。


「来年から、彼らは無事に海を渡れるだろうか……」


 灯台さんが落ち込んでいると、渡り鳥さんがやってきました。


「よお、灯台さん。今日から例の作戦を始めるぜ」

「分かりました。私は何をすれば良いのでしょう?」

「俺たちに光を当ててほしいんだ」

「光、ですか。それはお安い御用ですが……。まだ明るいですよね?」

「ああ、違う違う。夜だ。作戦は夜に行うぜ」


 ***


 夜になりました。

 空には綺麗な星が瞬いています。


「ねえ見て、あれが大三角だよ」

「うわぁ、綺麗!」


 他の展望台では、人間たちが嬉しそうに星空を眺めています。


「へっ。大三角がなんだってんだ。こっちはもっと凄いもんを見せてやるよ」


 渡り鳥さんが威勢良く仲間たちに声をかけた後、灯台さんに向き合いました。


「それじゃ、灯台さん。準備は良いか?」

「はい、いつでも大丈夫です」

「よおし、それじゃいくぜ!」


 そう言うと、灯台さんのいる島から、たくさんの渡り鳥さんたちが飛び立ちました。

 そして人間たちから丁度、白鳥座が見えるあたりに位置取りしました。


「灯台さん! やってくれ!」


 その合図とともに、灯台さんは渡り鳥さんたちに向けて光を飛ばしました。

 するとまるで、白鳥座のような大きな鳥が夜空に浮かび上がっていたのです。


「え、なんだあれ?」

「星座が浮き出てるみたい!」


 人間たちも気付きました。


「まだまだ! ロマンチックはここからだぜ!」


 夜空に黒い翼を広げ、嘴を光らせた渡り鳥さんたちは、白鳥の隊列を組みながら海に向かって飛びました。

 灯台さんもそれを追いかけながら照らします。


 黒い水面を、白く眩い光点の鳥が、気持ち良さそうに羽ばたいています。

 夜空を見ていた人間たちも、この瞬間は海を渡る白鳥座にくぎ付けでした。


「わあ! なんて綺麗なの!」

「こんなロマンチックな海、見たことない!」


 渡り鳥さんの作戦は、見事に的中したのでした。


 ***


 あの夜から1週間、渡り鳥さんと灯台さんは更に2回、この演出を行いました。

 おかげで灯台には、毎晩たくさんの人間が集まるようになりました。

 いつ出るか分からない大きな白鳥座は、その神出鬼没さとロマンチックさで、たくさんの話題を呼んだのです。


「ありがとう、渡り鳥さん。おかげで取り壊しの話はなくなりました」

「いいってことよ。俺たちは昔からお前さんに世話になってたんだ。それに、俺たちの子供のことも見守ってほしいからな」

「もちろんです。安全に渡れるよう、ずっと見守りますよ」


 オレンジ色の夕陽が、海と島を照らします。

 海に降りた灯台さんの影が、徐々に長くなっていきます。


「そろそろだな」

「今日が最後なんですね」

「ああ、俺たちは次の場所に行かなきゃならねえ」


 今日は渡り鳥さんたちの、旅立ちの日でした。


「最後にあの演出をやって、俺たちはそのまま発とうと思ってる」

「分かりました。精一杯見送らせてもらいますね」


 そして夜になりました。


「今日は白鳥出るかなあ?」

「楽しみだね!」


 灯台さんは、今日も人間たちで賑わっています。

 すっかりデートスポットの仲間入りです。


「よおし、最後の白鳥、やり切ろうぜ!」


 渡り鳥さんの号令がかかると、いつも通り白鳥座が浮かび上がり、海へと飛んでいきます。


「出たー!」

「凄い! 凄い!」


 歓喜の声が島中に響き渡ります。

 もう何年と寂しい状態が続いていた島に、活気が戻ったのです。


「それじゃ、今日はこのまま空の果てまで飛んでいこうぜ」


 大きな白鳥はいつもとルートを変え、再び空に舞い上がりました。

 そして灯台さんは、いつも以上に優しく、真っ直ぐに渡り鳥さんたちを照らしました。


「渡り鳥さん、本当にありがとう。また無事に戻ってこられるよう祈っています」


 灯台さんの照らす光は、まるで2本目の天の川のように、夜空全体に広がります。

 そして白鳥は、川に沿って羽ばたきを繰り返します。

 光の川を渡る白鳥、その神秘的な光景は見たものの心にいつまでも、きらきらと残るのでした。


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