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千年の時を巡り、滅びの歴史を書き換える。 ――河越家は、もう二度と沈まない。  作者: 空識


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第9話 河越兵の躍進

 奥州の雪は、静寂と死を包み込む白き膜のようだった。

 その下で、河越勢は確かな変化を遂げつつあった。


 槍は折れにくくなり、

 馬は疲労を最小限に抑え、

 行軍速度は他の武士団を上回り、

 兵たちは“自分たちは強くなった”という実感を得ていた。


 だが――

 私は知っている。

 技術力の向上とは、成果を生み出す“序章”に過ぎない。


(ここからは、“組織”としての強さが問われる)



 翌朝。

 白い息が空へと立ち昇る中、父・重房が麾下へ声を張り上げた。


「本日、義家殿より新たな命が下った!

 我ら河越勢は、北方の敵小勢力を掃討し、

 本軍の進軍路を確保する!」


「おおっ!」


 兵たちが槍を掲げ、叫び声を上げる。


「重綱さまのご加護があらんことを!」

「河越! 河越家に勝利を!」


 ……なんだ、この“過剰な信仰心”は。

 私は小さくため息をつく。


(やはり“神格”みたいな扱いを受けている……

 まぁ、否定はしない。兵の士気が上がるなら)



 河越勢は素早い編成で陣形を組み、北へ進んだ。


 私は乳母の背に負われながら、兵たちを観察する。

 昨日までの彼らとは明らかに違っていた。


・歩幅が揃っている

・槍の角度が統一されている

・発声が一定リズムを保っている

・馬の歩調が無駄なく滑らか


(これは良い……改善が実を結びはじめた)


 この「統一された動き」こそ、軍の強さの核心だ。

 個の力は強くても、バラバラの動きでは勝てない。

 逆に動きが揃えば、三倍以上の効果が生まれる。



 やがて、森の端から敵影が見えた。


 土豪どもを中心とした寄せ集めの軍勢。

 装備は古く、統率も取れていない。


(……しかし侮るな。

 地の利があれば、このような兵でも手強い)


 父が槍を掲げ、声を張る。


「河越勢、前へ!」

「槍隊、構え!!」


 兵たちが槍を掲げ、一斉に構える。


 その動きが――奇跡のように、揃っていた。


 敵兵たちが驚いた声を上げる。


「な、なんだあれは……統率が……!」

「武蔵の兵とは思えぬ!」



 私は父の肩を叩き、ひとことだけ告げた。


「……いま……すすめ……」


 父は頷き、叫んだ。


「突撃!!」


 雪しぶきが舞いあがる。

 河越勢は槍の穂先を揃えたまま、一直線に敵へ突進した。


「うおおおおっ!!!」

「河越ッ!!」


 槍の列が敵陣へ突き刺さる。

 まるで雪原を切り裂く一条の光であった。


 敵兵は悲鳴を上げ、列は瞬く間に崩れる。


 だが私は満足しない。


(まだだ……河越勢はもっと強くなれる)



 敵兵が散り散りに逃げる中、

 私は父へ手を伸ばす。


「……ちがう……

 みぎ……ひだり……わかれる……」


「右と左に……分かれろというのか?」


 私は強く頷く。


(ここで追撃の選択肢を“分断”すれば、

 敗走した敵兵の再集結を防げる。

 敵は山道を利用して再び襲撃してくる可能性がある)


 父はすぐに命じた。


「右陣、丘へ! 左陣、川沿いを追え!

 敵を分断し、残敵を許すな!!」


「応!!」


 左右に走る二つの部隊が、敵の逃走路を完全に分断した。


 しばらくして戻ってきた斥候が叫ぶ。


「敵、本陣に戻れず! ばらばらに崩れました!!」


「見事だ……!」

「なんと見事な追撃か……!」


(当然だ。

 一つの勝利に満足していては戦は終わらない)



 小競り合いが終わり、

 河越勢は森の中で軽く休息を取った。


 父は私を抱き、深く息を吐いた。


「重綱……

 そなたがいるだけで、河越勢は別の軍になったようだ」


(“いるだけ”ではなく、“指導している”が正しい)


 私は父の鎧を掴みながら、小声で言った。


「……つぎ……

 ならぶ……ひと……かわる……」


「隊列を……変えるのか?」


 私は地面に指で簡単な図を書いた。


《二列縦隊》→《三列横隊》


(奥州の大地は狭い山道が多い。

 だが平地では、横隊の方が“突撃力”が増す)


 父はしばらく図を見つめたのち、口元に笑みを浮かべた。


「なるほど……

 これは義家殿の軍略にも使えるやもしれぬ」


(その通り。

 あなたは源氏の信頼を得るべきだ、父上。

 それが後の源平合戦で河越家を守る力となる)



 帰還の道すがら、斥候が駆けてきた。


「報告! 義家殿より伝令!

 本日の河越勢の働き、まさに天晴れなり!

 “先陣の誉れ、揺るがず”とのこと!!」


 兵たちの歓声が雪原を揺らした。


「重綱さまのおかげだ!」

「河越の名が、さらに高まるぞ!」

「武蔵国の中でも群を抜く武士団よ!」


 父は私を高く掲げ、誇らしげに叫んだ。


「重綱!

 そなたの目が、この軍を導いたのだ!」


(いいや、まだ序章だ父上。

 河越家の未来は、ここからさらに鍛え上げねばならない)



 その夜、陣営に戻ると、

 私は焚き火の前で静かに座った。


 兵たちは皆満足げに眠り、

 鍛冶師たちは槍の具合を確認し続け、

 馬は疲れを癒して草を噛んでいた。


 その光景の中で、私は考える。


(河越兵の強さは、技術にある。

 だが技術だけでは限界がある。

 次は、組織そのものを“可視化”しなければならない)


 情報管理、行軍計画、兵站、食料保存、武具の整備――

 このどれか一つでも欠ければ、軍は弱くなる。


(私は“軍政”という概念をこの時代に持ち込む)


 遠い未来の戦争で当たり前となる

 “数値で戦を管理する手法”を、この時代に。


 雪が舞い落ち、静かな音を立てる。


 私は乳母の腕の中で目を閉じ、

 明日の改良案を列挙していった。


・行軍距離の算出法の導入

・分隊ごとの指揮系統整備

・馬の飼料改善

・槍の規格統一(長さ・重さ)

・簡易な“布製地図”の作成

・弓矢の束ね方の革新


(これらが整えば、河越勢は東国最強となる)


 不思議と、不安はなかった。


 河越家の未来は、確実に良い方向へ動き始めている。


――まだ私は赤子。

――だが、赤子に過ぎぬ私が“未来を変え始めた”。


 その実感が、静かに胸の中で燃え続ける。


 明日、また新しい革新を行うために。

どうぞ気軽に読んでいただければ幸いです。


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