第4話 河越家の始祖たち
武蔵国の留守所での“改善”が続くなか、
私は父から河越家の古記録――すなわち秩父氏の由来について
話を聞かされる機会が増えていった。
幼子に語るには難しすぎる内容だが、
父は私に“家督”を継がせる意志を強く持っているのだろう。
「重綱。覚えておけ。
我ら秩父氏は、かつて後三年の役で先陣を務め、
その功により武蔵国で重きをなすようになった。
そして河越家は、秩父の嫡流にあたる」
(知っている……だが、父上から聞くことで時代の“認識”が掴める)
私は黙って耳を傾ける。
「この地は古くから川越、あるいは河肥とも呼ばれた。
肥沃な土地でな、水もよく流れる。
それゆえ争いも多く、守る者が必要だった」
(地名に“河”の字があるのは、荒川の氾濫と湿地帯が起源か。
治水の重要性はこの時代でも理解されているのだな)
父は続ける。
「秩父重綱から数代、我らは留守所総検校職を継ぎ、
武蔵国の政と軍を支えてきた。
だが……」
ここで父の表情が曇った。
「北関東には平家の勢力が、
相模には源氏が力をつけつつある。
やがてこの国は大きく揺れるだろう」
(歴史が動き始めた……!
源氏と平家、そして奥州。権力が乱立する前夜だ)
私は思わず父の袖を掴んだ。
その小さな力に、父は微笑む。
「重綱……お前に全ては背負わせぬ。
だが、いずれは河越家の柱となってもらう」
(いえ、父上。私はこの家だけではなく、
“千年後の河越家”を支えるために転生したのです)
◆
数日後、私は屋敷の奥にある“蔵”へと連れて行かれた。
父が私に見せたいものがあると言うのだ。
扉が開くと、乾いた木の匂いと共に古い巻物が並んでいた。
「これは、秩父家が代々受け継いできた家宝だ。
古いものでは奈良の頃から伝わる記録もある」
(奈良……?
河越家の起源は予想以上に深い。
素粒子レベルの“輪廻情報”が結晶化し始めるほどの家族史……
これがQ-クリスタルと共鳴する“歴史的重層性”か)
父は一つの箱を手に取った。
その中には、淡い青光を放つ石が収められていた。
(……来たな)
その光はただの鉱石ではない。
私の意識の奥で、微細な波紋のような揺らぎが生じる。
「これは“河越の石”と呼ばれておる。
先祖が戦で落命した際、この石が光を放ったという記録がある」
(まぎれもない……Q-クリスタルだ)
前世の知識が私の脳内で明確な確信へと変わった。
量子情報の吸蔵・放出を繰り返し、
輪廻した私たちの意識を媒介してきた石。
これが河越家の“因果の核”だったのだ。
しかし父は、その本質を知らない。
「重綱よ……これは、お前が成人したときに継がせる。
河越家の証として」
(その前に、この石の内部構造を解析したいが……
赤子では無理だな)
私はゆっくりと手を伸ばし、石に触れた。
瞬間、胸の奥が熱くなる。
過去の重綱たちの断片的記憶――
戦場の轟音、槍の閃き、湿地の匂い、民の嘆き、
そして滅亡の光景が洪水のように押し寄せる。
(……これが“輪廻演算”の蓄積。
重綱たちの苦闘と失敗の記録だ)
私は息を吐き、石から手を離した。
父が驚いた顔で言う。
「重綱……石が光を強めたぞ!」
蔵の中に走る淡い光。
家臣たちがざわめく。
「神子様だ……!」
「石が応えられた……!」
(違う。
私が石の内部の量子情報を“再同期”しただけだ)
だが、この誤解も利用する。
将来、改革を進める時に必要となる“権威”だからだ。
◆
家に戻った後の夕餉で、
父は真剣な面持ちで話を始めた。
「重綱……。
そなたは、我らの先祖に選ばれた者なのかもしれぬ」
(ある意味では正しい。
私はこの血筋に閉じ込められた“量子観測者”だ)
「河越家は、いずれ大きな試練に遭う。
だが……そなたがいれば乗り越えられよう」
(その通り。
私は滅亡の歴史を何度も視てきたのだから)
私は小さく頷いた。
それだけで、父は深く息を吐き、笑みを浮かべた。
「重綱……
そなたがいてくれるだけで、
この家は大丈夫だと信じられる」
(その信頼に応えたい。
だが私は、もっと先を視ている)
◆
その夜、私はひとり、布団の中で目を閉じた。
胸の奥でQ-クリスタルの波動が揺れ続けている。
(この石は“輪廻の媒体”であり、
過去と未来を繋ぐ“量子記録庫”だ)
だが同時に――
(この石を誤って扱えば、
河越家の歴史は逆に崩壊する可能性がある)
なぜなら、量子干渉は常に“確率”で動く。
無秩序に記憶を引き出せば、人格は混乱し、
観測された未来は逆に収束してしまう。
(だから私は慎重に動く。
改革は段階的に、確実に進める)
古い建物の軋む音が、静かな夜の中で響いた。
遠くで犬が吠える声がする。
そのすべてを観測しながら、私は決意を固めた。
――河越家を守る。
――武蔵国を豊かにする。
――そして、滅亡の未来を完全に断ち切る。
その第一歩は、
“始祖たちの記録を読み解くこと”だ。
この家に刻まれた千年の系譜こそ、
私が“未来を書き換える”ための最初の資料となる。
私は静かに息を吸い、目を閉じた。
明日からは、河越家の“基盤整備”を全力で始めるつもりだ。
――ここから河越家の栄枯盛衰を変える。
――歴史の観測者として、世界の行方を操るために。
どうぞ気軽に読んでいただければ幸いです。
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