第25話 裂けゆく武蔵 ― 平家の包囲と源氏の密約
平家の査察が始まってから五日。
武蔵国は、ゆっくりと、しかし確実に“不穏な熱”を帯び始めていた。
村人たちは噂に怯え、
豪族たちは密かに兵を集め、
寺社は武装を強める。
平家が送ったのは“監督官”ではなかった。
実際には――
《東国の反乱兆候を早期に潰す部隊》だった。
(やっぱり……
これはただの査察じゃない。
修正派が平家に“東国に反乱あり”という誤情報を流している……)
東国は燃え上がる寸前だった。
◆
その日の正午。
河越城に児玉党の代表が駆け込んできた。
「重房殿! 一大事でございます!!」
「どうした」
「平家の査察団が……
児玉領の武士二十名を“不審者”として拘束しました!!
彼らはただ巡回していただけなのに!」
家臣たちが怒声を上げる。
「いくらなんでもやりすぎだ!」
「反乱をでっち上げる気なのか!?」
私は強烈な“揺らぎ”を感じていた。
(……平家の判断じゃない。
この“過剰な警戒”は、未来修正派が誘導している……
目的は“東国を割ること”)
そう、東国武士団は本来、
源氏挙兵の時にまとまる土壌がある。
未来修正派はそれを最も恐れている。
◆
午後。
比企氏の使いが来た。
「河越殿……
平家方が“比企領で叛意の動きあり”と言って兵を動かしました!
このままでは攻撃を受けかねません!」
続いて足立氏。
「河越殿!
わが領にも平家の兵が入り込みました!
監視どころか、もはや占領です!」
そして寺社の使者も顔色を変えて訪れた。
「久遠寺の僧兵隊が……
平家の命で“武装警備”を命じられました。
東国で戦が起こるのではと……!」
(動いたな……
修正派は“東国内戦”を起こして、
本来の歴史を壊させないようにしている)
本来歴史は――
源氏vs平家が主軸で、東国は一枚岩となる。
だが修正派は、
その前に“東国同士の争い”を引き起こそうとしている。
歴史の軸をずらすために。
◆
その日の夕刻。
父・重房が重臣会議を開いた。
「いま武蔵国で何が起こっている?」
家臣が答える。
「平家は“東国反乱の芽を摘む”と言って兵を動かしていますが……
動いているのは反乱ではなく、
平家の攻撃そのものです」
「豪族たちは震えております」
「河越家に助けを求める者もいれば、
平家に寝返ろうとする者も……」
父が私を見る。
「重綱……
そなたには、この戦の芽がどう見える?」
私は地図を見つめた。
地図の上に――
薄い揺らぎがふわりと浮かび、広がっていくように見える。
(これは……修正派が“戦の火種”を置いている位置……
つまり、戦略的誘導点)
私は指を動かし、三か所を指した。
「……ここ……
ここ……
そして……ここ……」
家臣たちが驚く。
「重綱さま……これは……?」
「まさか……“平家の狙い”か?」
父が深く頷く。
「――いや、これは平家ではない。
“第三の勢力”の工作だ」
(父上……気付いてきたな)
◆
議論が続く中、
城の裏門からそっと入ってきた影があった。
気配で分かった。
(季国……源氏の使者だ)
季国が頭を下げる。
「重房殿、重綱殿……
急ぎお伝えしたいことがあります」
「何だ?」
「平家はすでに、東国の豪族五家に
“疑いの文書”を送りつけています。
これは……反乱をでっち上げる前兆です」
家臣たちがざわつく。
「平家は本気で東国を潰すつもりか……!」
「いや、これは明らかに不自然だ!
平家はここまで強硬ではなかったはず……!」
季国は首を振った。
「いいえ。
この強硬姿勢は……“何者かが平家を煽っている”」
(そうだ……
修正派の誘導だ)
だが、季国は知らない。
◆
季国はさらに声を落とした。
「そこでお願いがあるのです。
――河越家には、東国武士団の“中心”となっていただきたい」
一気に空気が引き締まる。
「中心……?」
「河越家が東国をまとめるのか……?」
季国は私を見つめる。
「重綱殿……
あなたの治水改革、豪族調整、寺社交渉……
すべて東国の武士に希望を与えています。
皆、あなたに従いたいと言っています」
(……そうか……
だから修正派は河越家を潰したい)
私は静かに言った。
「……かわごえ……が、
まんなか……になる……」
季国は深く頭を下げた。
「東国はあなたを求めています。
そして……源氏もまた」
(源氏が……私を求める……
歴史が動きすぎている……
でも、止めない)
◆
会議が終わった後、
私は一人で城の中庭へ出た。
夜風が松を揺らし、
その影の中に――
また揺らぎが現れた。
『重綱……』
(修正派……今度は誰だ?)
声は静かで、冷たかった。
『お前が河越家を中心に据えるつもりなら、
歴史は必ず“破綻”する』
「……こわれない……」
『壊れる。
お前の力は強すぎる。
武蔵国も、東国も、源氏も……
すべてが予定より早く動きすぎている』
(早く動くのが何だ……
未来は変えられる)
『ならば、見せてもらおう。
本当に未来を統御できるのか――』
揺らぎは薄れながら続けた。
『――次に動くのは、平家ではない。
東国の“内側”だ』
「……うちがわ……?」
『河越に刃が向く。
歴史が“均衡”を求めるためにな』
(……豪族の誰かが裏切る……!?
修正派が誘導して……!)
揺らぎが消えた。
◆
私は城へ戻り、父に告げた。
「……うらぎり……くる……
むさし……の……なか……から……」
父の顔が緊張で固まった。
「重綱……誰が裏切る……?」
「……わからない……
でも……くる……ぜったい……」
父は深く頷いた。
「分かった。
すべての豪族に目を光らせる。
河越家は必ず守る」
武蔵の空に、
重たい黒雲がゆっくりと広がっていくように見えた。
(裏切り……
戦……
修正派の誘導……
そして源氏の密約)
東国は裂けようとしていた。
(ここから――歴史は“戦乱”へ加速する)
私は拳を握りしめた。
(ならば、私が正しく導く……
河越家の未来を)
――武蔵国、裂動の幕開けである。
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