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千年の時を巡り、滅びの歴史を書き換える。 ――河越家は、もう二度と沈まない。  作者: 空識


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第23話 戦の兆し ― 源氏の影、武蔵に立つ

 都から平家の使者が来て三日。

 武蔵国の空気は目に見えて変わり始めていた。


 農民は怯え、

 豪族たちは疑心暗鬼になり、

 寺社は露骨に河越家の動きを警戒する。


 平家の威光が東国に重くのしかかり、

 河越家は“中央に目をつけられた家”として

 複雑な立場に置かれることとなった。


(歴史の流れは……もう戦乱の匂いを帯びている)


 輪廻の記憶は知っている。

 この時代における東国武士団の鬱屈は、

 やがて一つの炎となって燃え上がると。



 その日の黄昏時。

 父・重房が私を呼んだ。


「重綱、客人が来ている。

 だが……そなたには見せねばならぬ客だ」


「……きゃく……?」


 父は慎重に頷き、

 屋敷の奥の一室へと私を連れていった。


 そこには、

 深く頭巾をかぶった二人の武士が座していた。


 ひとりは細身で鋭い眼を持つ青年。

 もうひとりは大柄で、無骨な雰囲気を漂わせている。


 父が言った。


「――源氏の残党だ」


 青年が頭巾を外す。


 その顔には、

 都を追われた者特有の“深い影”が刻まれていた。


「初めまして、秩父殿。

 私は源氏に連なる者、

 頼政公の縁者――“源季国みなもとの すえくに”と申す」


 父は眉をひそめた。


「源氏の名を公然と名乗るとは、命知らずよ」


「承知の上です。

 しかし、もはや都で源氏の名を名乗れる者は少なく……

 東国に活路を見いだすしかありません」


(源氏……

 歴史の大きなうねりの中心にいる存在だ)


 青年――季国は私の方を見た。


「そして、こちらの幼い御方が……

 “重綱殿”ですか?」


 私は静かに頷いた。


「……そう……」


「武蔵国の改革、見事だと聞いております。

 治水も、農政も、人心掌握も。

 あなたの名は東国中に響き始めている」


(それは……好機でもあり、危険でもある)


 季国は目を細めた。


「だからこそ……あなたに伝えたい。

 平家は近いうちに“東国武士団への圧力”をさらに強めます。

 それは……河越家だけの問題ではない」


 私は薄い揺らぎを感じた。


(季国は……未来修正派ではない。

 しかし“歴史の潮流”に敏感な男だ)



 季国の言葉に、父が問う。


「何が近づいている?

 平家の政局か?」


 青年は首を横に振った。


「政局ではありません。

 ――戦の気配です」


 部屋の空気が凍りついた。


「東国には不満が渦巻いております。

 寺社も、豪族も、武士も、農民までも。

 平家の重税、土地の差配、そして都の傲慢……

 誰もがうんざりしている」


「確かに、武士たちの不満は日に日に強まっているな」


 父が呟くと、季国はさらに声を落とした。


「平家の監督が武蔵国に及べば、

 武士団は一斉に反発を始めるでしょう。

 その火の粉は必ず河越家にも降りかかる」


(未来修正派の影がちらつく……

 平家の政策が“急激に厳しくなる”のは、彼らの操作か?)


 季国が続ける。


「そしてその混乱は……

 源氏再興を願う者たちにとって好機でもあります」



 季国は深々と頭を下げた。


「重房殿……

 いずれ東国に大きな戦が起きるでしょう。

 その時、どうか源氏に力を貸していただきたい」


 父は沈黙した。


「源氏に味方する……

 それは平家を敵に回すことを意味する」


「承知しております。

 しかし、流れはもう止められません」


 季国は私を見つめる。


「歴史の流れを読む者――重綱殿。

 あなたはどう見ているのですか?」


 私は深く息を吸い、

 胸の奥の揺らぎを観測した。


 未来の輪廻記憶が語る。


――いずれ源氏は挙兵し、

――武蔵国の武士団は源氏の旗の下へ集まる。


 しかし――


(この歴史は“必ず”ではない。

 未来修正派が介入すれば、変わってしまう)


 私は小さな声で答えた。


「……たたかい……くる……

 でも……かわごえ……は……

 やぶれない……」


 季国が目を見開く。


「敗れない……?」


「……かわごえ……は……

 つよく……なる……

 みらい……しってる……

 だから……まけない……」


 沈黙。


 だが、その沈黙は恐れではなく――

 重みを帯びた敬意だった。



 季国が帰った後、

 父は庭で月を眺めながら私に言った。


「重綱……

 そなたは、源氏に味方すべきだと思うか?」


 私は迷わず言った。


「……みかた……じゃない……

 かわごえ……の……みらい……

 えらぶ……」


 父はゆっくり頷いた。


「――そうだな。

 河越家は河越家のために動く。

 源氏にも平家にも飲まれぬ」


(その道こそ“最も歪む未来”を正す唯一の道)



 その夜。


 また揺らぎが現れた。


――ふぅん……。


 今度は、低い震えではなく、

 鋭い針のように空間に突き刺さる。


(これは……

 未来修正派でも黒装束でもない……

 もっと上位の存在……?)


 声が聞こえた。


『重綱……

 お前は戦を選ぶのか?』


(戦を選ぶんじゃない……

 戦が来るんだ)


『その戦は……

 歴史の歪みを増幅させる。

 お前の選択は、未来にとって毒となる』


「……どくでも……

 なおす……

 おれが……なおす……」


 声は小さく笑った。


『――なら、見せてもらおう。

 お前が“歴史を作る力”を』


 揺らぎが消えた。


(戦は避けられない……

 だが河越家が中心に立つなら、

 未来を正しく導けるはずだ)


私は、掌を握りしめた。


(ここからが……本当の戦の始まりだ)


 武蔵国の空に、

 確かな戦雲が漂い始めていた。

どうぞ気軽に読んでいただければ幸いです。


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