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千年の時を巡り、滅びの歴史を書き換える。 ――河越家は、もう二度と沈まない。  作者: 空識


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第24話 東国動乱の胎動 ― 平家査察と揺れる武蔵国

 夜の揺らぎが消えてから数日。

 武蔵国は不穏な風をまとい始めた。


 河越荘の田畑は安らぎを取り戻したが、

 民の顔にはどこか影がある。


「平家が武蔵に兵を送るらしい……」

「河越家を直接監視するためだとか」

「戦になるのか……?」


(情報が早い……

 これは誰かが意図的に噂を流している……

 修正派の気配も混じっている)


 平家の圧力に東国がざわつき、

 源氏残党の動き、豪族たちの動揺が

 一斉に重なってきていた。



 その日の午前。

 河越城に急使が駆け込んだ。


「重房様!!

 平家方より“武蔵国査察官”ご一行が、

 すでに国境を越えました!!」


 家臣たちが一斉に立ち上がる。


「なんと……早すぎる!」

「やはり河越家を押さえ込むつもりだ!!」


 一方で、私はその報告に

 小さく首を傾げていた。


(早すぎる……

 本来の歴史では、

 平家が東国に深く介入するのはもう少し後……

 ということは――未来修正派が背後にいる)


 父・重房は深く息を吸い、言った。


「よい。迎えよう。

 だが、城の備えを固めよ。

 敵意はないと言っても、平家の兵が大挙して来るのだ」


「応ッ!」



 午後。

 河越城の外郭に、

 雅な装束を身にまとった官人と武士団が現れた。


 その姿は一見華やかだが、

 私には裏にうごめく“影”がはっきりと見えた。


(あの揺らぎ……

 前回の使者よりも強い……!

 未来修正派の干渉が増している)


 父は悠然と歩み出て、官人に頭を下げた。


「遠路はるばる、ご苦労である」


 しかし、官人は不躾に言い放つ。


「主従の礼は不要。

 我らは、武蔵国の治水と農政に

 “不正”がないかを調べに来たのだ」


 家臣たちがざわつく。


「不正……?」

「河越家が不正など……!」


 しかし官人は構わず続けた。


「民の嘆願が減ったのは事実だ。

 だが、急激な変化には必ず“裏”がある」


 その言葉に、私ははっきりと感じた。


(……やはり修正派の言葉だ……

 “急激な変化は均衡を壊す”

 これが彼らの口癖だ)


 官人の影の後ろで、揺らぎが薄く蠢いた。



 査察官一行は、

 河越荘の田畑、水路、民家に至るまで

 細かく調査を始めた。


 だが、そのやり方は明らかに“敵意”がこもっていた。


「この水路は深すぎる!」

「ここは広げすぎだ!」

「村人が勝手に河越の指図を受けているのでは?」


 村人たちは不安げに父の方を見る。


「坊ちゃんのおかげで水が流れたのに……」

「何で怒られるんだ……?」


(怒られる理由などない。

 これは“河越家を弱体化させるための口実探し”だ)



 さらに午後。

 平家の武士が豪族の館を次々と訪れた。


「河越家の改革は武蔵の均衡を乱している。

 そなたらも迷惑しているであろう?」


「協力するなら保護してやろう」


「逆らえば、寺領の件のように痛い目を見るぞ」


 豪族たちが動揺するのが、

 肌で感じ取れた。


(これは……

 明らかに平家の“東国弱体化政策”。

 しかし、平家の本来の方針よりも苛烈だ……

 未来修正派が煽っている!)



 夕刻。

 私は城の廊下で足を止めた。


 庭の松の影が揺れ、

 そこに“別の揺らぎ”が重なって見えた。


(……また来た)


 影が形を取り、

 一人の黒装束が現れた。


「重綱殿」


「……おまえ……」


「平家の査察……

 あれはほんの序章だ。

 歴史は均衡を求める。

 東国が強くなりすぎれば、朝廷と平家は必ず押し返す」


(押し返す……?

 それをお前たちが煽っているんだろう)


 私は睨むように言った。


「……やめろ……

 むさし……こわすな……」


「壊しているのは、お前だ」


 黒装束は淡々と言い放つ。


「武蔵を豊かにし、

 豪族をまとめ、

 寺社を黙らせ、

 民を救い、

 未来を変えようとしている。

 その積み重ねが“災厄の芽”を生む」


「……かわごえ……を……

 まもる……だけ……」


「その守りが、歴史全体を揺るがしているのだ」


 黒装束は一歩近づいた。


「――源氏と平家の戦乱は、

 本来もっと小さく収まるはずだった。

 だが、お前の改革が東国を強くしすぎた」


(強くしすぎた……?

 いや、それは河越家が歴史の大黒柱になるために必要なんだ)


「……しるか……

 かわごえ……は……

 つよく……なる……」


 黒装束の男は深くため息をついた。


「ならば、お前は“歴史そのもの”を敵に回すことになる」


 その瞬間、空気がビリッと弾けた。


(影の力が強まっている……

 あれは中位の修正者……

 いや、別位相の観測者の気配まで混ざっている)


「次は……武蔵全体が揺れる。

 お前の改革を壊すため、我々は“戦”を誘導する」


「……ゆるさない……!」


「許されぬのは、歴史を乱すお前だ」


 影は煙のように掻き消えた。


(戦を誘導する……!?

 源氏と平家……

 どちらかを強引に動かす気だ!)



 夜。

 父・重房が私の部屋へ来た。


「重綱。

 源氏の季国から再び使いが来た。

 “東国の武士団が、平家の横暴に不満を募らせている”と」


 私は頷いた。


「……たたかい……ちかい……」


「やはり、そうか」


 父は深刻な顔で続けた。


「河越家は、武蔵国の中心にある。

 この家の判断一つで、

 武蔵中の豪族と武士団の未来が変わるだろう」


(そしてその未来は、修正派が狙う“均衡”そのものだ)


「重綱。

 この戦の流れを……どう見る?」


 私はゆっくりと答えた。


「……せんそう……は……

 とまらない……

 でも……かわごえ……は……

 のまれない……」


 父は目を閉じ、深く頷いた。


「……ならば、迎え撃つ覚悟を決めねばなるまい」



 その夜の空は、

 月が雲に隠れ、どこか赤みを帯びていた。


(東国が揺れる……

 源氏、平家、未来修正派……

 そして河越家)


 私は拳を握った。


(戦乱の幕が上がる前に、

 河越家は“土台”を固めなければならない)


 その覚悟とともに、

 武蔵国の夜が静かに、しかし確実に震えていた。


――東国動乱の胎動が、ここに始まった。

どうぞ気軽に読んでいただければ幸いです。


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