第24話 東国動乱の胎動 ― 平家査察と揺れる武蔵国
夜の揺らぎが消えてから数日。
武蔵国は不穏な風をまとい始めた。
河越荘の田畑は安らぎを取り戻したが、
民の顔にはどこか影がある。
「平家が武蔵に兵を送るらしい……」
「河越家を直接監視するためだとか」
「戦になるのか……?」
(情報が早い……
これは誰かが意図的に噂を流している……
修正派の気配も混じっている)
平家の圧力に東国がざわつき、
源氏残党の動き、豪族たちの動揺が
一斉に重なってきていた。
◆
その日の午前。
河越城に急使が駆け込んだ。
「重房様!!
平家方より“武蔵国査察官”ご一行が、
すでに国境を越えました!!」
家臣たちが一斉に立ち上がる。
「なんと……早すぎる!」
「やはり河越家を押さえ込むつもりだ!!」
一方で、私はその報告に
小さく首を傾げていた。
(早すぎる……
本来の歴史では、
平家が東国に深く介入するのはもう少し後……
ということは――未来修正派が背後にいる)
父・重房は深く息を吸い、言った。
「よい。迎えよう。
だが、城の備えを固めよ。
敵意はないと言っても、平家の兵が大挙して来るのだ」
「応ッ!」
◆
午後。
河越城の外郭に、
雅な装束を身にまとった官人と武士団が現れた。
その姿は一見華やかだが、
私には裏にうごめく“影”がはっきりと見えた。
(あの揺らぎ……
前回の使者よりも強い……!
未来修正派の干渉が増している)
父は悠然と歩み出て、官人に頭を下げた。
「遠路はるばる、ご苦労である」
しかし、官人は不躾に言い放つ。
「主従の礼は不要。
我らは、武蔵国の治水と農政に
“不正”がないかを調べに来たのだ」
家臣たちがざわつく。
「不正……?」
「河越家が不正など……!」
しかし官人は構わず続けた。
「民の嘆願が減ったのは事実だ。
だが、急激な変化には必ず“裏”がある」
その言葉に、私ははっきりと感じた。
(……やはり修正派の言葉だ……
“急激な変化は均衡を壊す”
これが彼らの口癖だ)
官人の影の後ろで、揺らぎが薄く蠢いた。
◆
査察官一行は、
河越荘の田畑、水路、民家に至るまで
細かく調査を始めた。
だが、そのやり方は明らかに“敵意”がこもっていた。
「この水路は深すぎる!」
「ここは広げすぎだ!」
「村人が勝手に河越の指図を受けているのでは?」
村人たちは不安げに父の方を見る。
「坊ちゃんのおかげで水が流れたのに……」
「何で怒られるんだ……?」
(怒られる理由などない。
これは“河越家を弱体化させるための口実探し”だ)
◆
さらに午後。
平家の武士が豪族の館を次々と訪れた。
「河越家の改革は武蔵の均衡を乱している。
そなたらも迷惑しているであろう?」
「協力するなら保護してやろう」
「逆らえば、寺領の件のように痛い目を見るぞ」
豪族たちが動揺するのが、
肌で感じ取れた。
(これは……
明らかに平家の“東国弱体化政策”。
しかし、平家の本来の方針よりも苛烈だ……
未来修正派が煽っている!)
◆
夕刻。
私は城の廊下で足を止めた。
庭の松の影が揺れ、
そこに“別の揺らぎ”が重なって見えた。
(……また来た)
影が形を取り、
一人の黒装束が現れた。
「重綱殿」
「……おまえ……」
「平家の査察……
あれはほんの序章だ。
歴史は均衡を求める。
東国が強くなりすぎれば、朝廷と平家は必ず押し返す」
(押し返す……?
それをお前たちが煽っているんだろう)
私は睨むように言った。
「……やめろ……
むさし……こわすな……」
「壊しているのは、お前だ」
黒装束は淡々と言い放つ。
「武蔵を豊かにし、
豪族をまとめ、
寺社を黙らせ、
民を救い、
未来を変えようとしている。
その積み重ねが“災厄の芽”を生む」
「……かわごえ……を……
まもる……だけ……」
「その守りが、歴史全体を揺るがしているのだ」
黒装束は一歩近づいた。
「――源氏と平家の戦乱は、
本来もっと小さく収まるはずだった。
だが、お前の改革が東国を強くしすぎた」
(強くしすぎた……?
いや、それは河越家が歴史の大黒柱になるために必要なんだ)
「……しるか……
かわごえ……は……
つよく……なる……」
黒装束の男は深くため息をついた。
「ならば、お前は“歴史そのもの”を敵に回すことになる」
その瞬間、空気がビリッと弾けた。
(影の力が強まっている……
あれは中位の修正者……
いや、別位相の観測者の気配まで混ざっている)
「次は……武蔵全体が揺れる。
お前の改革を壊すため、我々は“戦”を誘導する」
「……ゆるさない……!」
「許されぬのは、歴史を乱すお前だ」
影は煙のように掻き消えた。
(戦を誘導する……!?
源氏と平家……
どちらかを強引に動かす気だ!)
◆
夜。
父・重房が私の部屋へ来た。
「重綱。
源氏の季国から再び使いが来た。
“東国の武士団が、平家の横暴に不満を募らせている”と」
私は頷いた。
「……たたかい……ちかい……」
「やはり、そうか」
父は深刻な顔で続けた。
「河越家は、武蔵国の中心にある。
この家の判断一つで、
武蔵中の豪族と武士団の未来が変わるだろう」
(そしてその未来は、修正派が狙う“均衡”そのものだ)
「重綱。
この戦の流れを……どう見る?」
私はゆっくりと答えた。
「……せんそう……は……
とまらない……
でも……かわごえ……は……
のまれない……」
父は目を閉じ、深く頷いた。
「……ならば、迎え撃つ覚悟を決めねばなるまい」
◆
その夜の空は、
月が雲に隠れ、どこか赤みを帯びていた。
(東国が揺れる……
源氏、平家、未来修正派……
そして河越家)
私は拳を握った。
(戦乱の幕が上がる前に、
河越家は“土台”を固めなければならない)
その覚悟とともに、
武蔵国の夜が静かに、しかし確実に震えていた。
――東国動乱の胎動が、ここに始まった。
どうぞ気軽に読んでいただければ幸いです。
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