第22話 平家の圧力と源氏の影
平家の使者が帰った翌朝、
武蔵国はまるで“冬が戻ったかのような”冷たい空気に包まれた。
「平家が河越家に直轄監督を求めてきたらしいぞ」
「なんと……事実上の支配ではないか」
「河越が目立ちすぎたのだ……」
村人だけでなく、豪族の館にも不穏な噂が広がり始めていた。
(やはり平家は本気で河越家を押さえに来ている……
だが、それだけではない。
背後には“未来修正派”が絡んでいる)
都の政治――
すでに彼らはそこへ潜り込み、
歴史の流れを元に戻そうとしている。
◆
午前、河越城の政庁で家臣たちの会議が開かれた。
「平家は本気で武蔵国の改革を止めようとしている」
「治水改革も、農地改革も、平家の監督下に置くと言われれば終わりだ」
「従うべきか?
それとも……反発するか……?」
家臣たちの表情は重い。
平家政権は絶頂にあり、
逆らえば武蔵国ごと潰される可能性は高い。
しかし――父・重房は迷わなかった。
「河越家は平家に逆らわぬ。
だが、従いすぎもしない」
重房は静かな声で続けた。
「武蔵国は東国の要。
平家といえど、完全支配は難しい。
我らは“時間”を稼げればよいのだ」
(そうだ……
歴史はもうすぐ大きく動く)
私は輪廻記憶の奥で、
一つの未来をはっきりと感じていた。
(頼朝……
彼が動く日は、遠くない)
◆
会議が終わると、
一人の家臣が父に耳打ちした。
「重房様……児玉党より密使が参っております。
平家の使者が伝えた内容を、
“実際以上に強く受け止めている”様子で……」
「呼べ」
豪族の動揺。
これこそ未来修正派の狙いだ。
◆
密使は深々と頭を下げた。
「重房殿……聞き及びました。
平家が河越家を直轄下に置こうとしていると」
「そうだ。しかし正式な決定ではない」
密使の顔色は青ざめていた。
「……しかし、都では噂が広がっております。
“武蔵国の反乱を抑えるため、河越家を押さえる”と」
(反乱……?
それは誤情報……
いや、未来修正派が流した“虚偽の歴史”だ!)
密使は続けた。
「もし本当に河越家が平家の命で押さえられるなら、
我ら児玉党は……河越から距離を置かねばなりません」
その言葉に、家臣たちの顔つきが強張る。
「待て! 河越を見捨てるというのか!?」
「この危機の時に背を向けるとは……!」
密使は震える声で言う。
「そうするしかないのです!
河越が平家から“裏切りの疑い”をかけられれば、
連座して我らも滅びる!」
(完全に未来修正派の思惑に乗せられている……!)
私は立ち上がり、
密使の前に歩み寄った。
「……しんぱい……しない……
かわごえ……は……こわれない……」
「な……重綱殿?」
私はゆっくりと密使の手を取り、
地図の一点を指した。
「……みぎ……
みて……」
父が補足する。
「重綱は、平家の動きに“歪み”があると言っておる。
都の情報がすべて正しいと思うな。
これは“操作された噂”だ」
密使は息を呑む。
「操られた……?」
「そうだ」
父の声は力強かった。
「平家は武蔵を完全には支配できぬ。
そしてこの混乱には“別の意図”がある」
(よく言った父上……
その通りだ)
◆
密使が退室した後、
私は父に近づいて囁いた。
「……みらい……まげる……
やつ……ひと……おおく……
むさし……だけじゃ……ない……」
「都にも潜んでいる、ということか?」
「……うん……」
父の表情が険しくなる。
「平家の使者の背後にいた“影”……
あれは、ただの陰陽師や呪術ではなかったな」
「……みらい……の……ひとかげ……」
「やはりか」
父は深く息をついた。
「敵は、もはや理解の外……
しかし、重綱。
そなたはその敵を“見える”のだろう?」
「……みえる……」
私は迷いなく答えた。
「……だから……たおす……
かわごえ……まもる……」
父は私の頭に手を置いた。
「――ならば、戦おう。
武蔵国だけではなく、
未来そのものと」
◆
その日の夕刻。
私は城の高台から、武蔵国の大地を眺めていた。
(平家は強い。
だが、その強さは歴史上“長くは続かない”)
輪廻の奥底に刻まれた未来記憶が語る。
――やがて源氏が挙兵し、
――東国武士団が一つになる。
(その時……河越家がどこに立つかで、
歴史の流れはまったく変わる)
未来修正派は平家に肩入れしているわけではない。
彼らはあくまで“均衡”を求めて動く。
だからこそ――
河越家が強くなるたびに、
別の勢力が揺さぶられるよう仕向けてくる。
◆
夜。
私は再び揺らぎを感じた。
――ふ……ぅん。
光でも影でもない、
世界の“ノイズ”のような揺らぎ。
(これは……黒装束のやつらではない……
もっと……薄くて……遠い……)
まるで、“未来そのもの”が震えているようだった。
その時――
薄い声が耳元で囁いた。
『重綱よ……お前は、どこまで歴史をねじ曲げるつもりだ?』
(また別人……!
未来修正派は何人いるんだ……!?)
『源氏が動く。
平家が揺れる。
歴史が大きく変わる。
その中心に、お前がいる』
声は続ける。
『その歴史が耐えられると、本当に思うのか?』
私は静かに答えた。
「……たえるように……する」
『そのために、未来を壊すのか?』
「……みらい……つくる……
こわさない……
かわごえ……まもる……」
揺らぎは一瞬だけ固まり、
そしてふっと消えた。
(……やはり、未来修正派は“源氏の動き”を警戒している……
ならば、次の局面で彼らは必ず介入する)
私は拳を握りしめた。
(いいだろう……
来るなら来い。
源氏と平家、そして未来まで。
すべてをこの目で観測し――
私が未来を作る)
武蔵国の夜風が、静かに私の頬を撫でた。
――歴史は、とうとう戦乱の時代へ動き始めたのだった。
どうぞ気軽に読んでいただければ幸いです。
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