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千年の時を巡り、滅びの歴史を書き換える。 ――河越家は、もう二度と沈まない。  作者: 空識


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第20話 未来修正派の策動 ― 闇に沈む武蔵国

 豪族会議で正体不明の男が紛れ込み、

 未来修正派の存在が露わになったその夜――

 私は異様な胸騒ぎで眠りにつくことができなかった。


 灯明の揺らぎが、いつもより波打って見える。

 空気が不自然に重く、

 何か“世界そのものが軋む”感覚が身体を包んでいた。


(来る……

 必ず、あいつらは次の一手を打ってくる)


 治水改革、寺社との交渉、豪族連合との均衡。

 どれも順調に見えたが、

 未来修正派からすれば“歴史の偏り”そのものだ。


――歴史は均衡を求める。

――均衡を壊す者には罰が下る。


 あの言葉が耳に残って離れない。


(罰……

 つまり“揺らぎの反動”という意味か?

 歴史の修正力?

 あるいは未来勢力の直接介入?)


 その時、暗闇の中で空気が震えた。


 ふ……ぅん……と低い音。

 澱んだ闇が、隅の空間で蠢いた。


(揺らぎだ)


 私は思わず身体を起こした。


 そこには、

 “光を吸う闇”のような影が、ゆっくりと形を成していた。



「……重綱殿」


 声がした。

 人間の声ではない――

 金属音と風音を混ぜたような、歪んだ響き。


 影の中から浮かび上がったのは、黒装束の男だった。

 以前出会った別重綱派の男とは違う。


(別人……?

 ということは、未来修正派は複数体系……

 いや、“組織”だ)


「……だれ?」


「未来を矯正する者。

 過度に変わりゆく世界を正す者……

 われら《修正観測会》の一柱よ」


(修正観測会……?

 未来修正派は、組織名すら持つのか)


 男は薄い笑みを浮かべ、囁くように言った。


「重綱殿。

 あなたがこの武蔵国で成そうとしている改革……

 それらは歴史の許容量を超えつつある」


「……ゆるさない……?」


「許さぬ。

 あなたの行動は“歴史の川”を決壊寸前にしている。

 流れを戻すため、我々は“調整”を行う」


 ぞくり、と背筋が震えた。


(調整……

 つまり破壊、混乱、殺戮……?)


「何を……する……?」


「簡単なことだ」


 男は手をかざす。


 その掌から溢れた黒い粒子が、闇の中に霧散した。


(時空粒子……!

 これは危険だ)


 男は告げた。


「――武蔵国南部に“飢饉”を与える」


「……っ!」


 息が詰まった。


「飢饉……?

 どう……やって……」


「あなたが田畑を整え、人心を掌握した。

 それは歴史にとって“強すぎる影響”だ。

 ならば、均衡を戻すため、人心を乱すだけの災厄が必要となる」


 男は冷徹な声で続けた。


「具体的には――

 あなたの治水改革地点に仕掛けを施した。

 今夜、川上で小規模な崩落を引き起こし、

 逆流と氾濫を誘導する」


(……なんだと……!?)


 私の心臓が跳ねた。


「それにより田畑は冠水し、

 穀倉は水浸しとなり、

 村は混乱し、

 豪族も寺社もあなたを責める」


 男は淡々と語る。


「歴史の均衡は、これで保たれる」


(ふざけるな……

 そんなものに未来を委ねられるか!)


 私は拳を握りしめ、震える声で言った。


「……こわす……

 そんな……の……

 ゆるさない……!」


 男は静かに首を振った。


「重綱殿。

 幼子の姿をしていても、あなたは“観測者”だ。

 ならば理解してほしい。

 歴史はあなた一人の所有物ではない」


「……ちがう……

 かわごえ……は……

 みんなの……もの……!」


「だからこそ、修正するのだ」



 影がふっと薄れた。


「――今夜、川は動く」


「まて……!」


 私は声を上げて立ち上がったが、

 次の瞬間、男の姿は完全に消えていた。


 残されたのは、冷たい揺らぎの痕跡だけ。


(まずい……

 本当に川上で“何か”が起きる!)



 私は乳母を揺さぶった。


「……とーさん……よんで……!

 みず……くる……!」


「えっ!? み、水が来るとは……?」


「はやく!!」


 乳母は驚きながらも走り出した。


 すぐに父が駆けつけ、

 私は必死に説明した。


「……かわ……くずれる……

 みなみ……おぼれる……!」


 父の表情が硬直した。


「重綱……それは確かか!?」


「……いま……!

 くる……!」


 迷いなく父は命じた。


「全軍起こせ!

 河越荘南部の川上へ急げ!!

 夜営中の兵も動員だ!!」


「応ッ!!」



 夜の武蔵国を、

 河越勢が松明を掲げて全力で駆ける。


 私は父の腕に抱えられ、

 川上の山道をひたすら走った。


(間に合え……

 間に合わせる……!

 未来修正など……許すものか!!)


 そして――

 川上に差し掛かった瞬間。


――ごごごごごご!!


 大地が震えた。


「崩落だ!!」

「水が来るぞーー!!」


 闇の奥から、

 巨大な水のうねりが獣のように姿を現した。


 土砂と岩を巻き込みながら、

 怒涛の勢いで河越荘へ向かって流れ下る。


(くそ……あと数刻遅ければ……!)


 父が叫ぶ。


「河越勢!!

 堤を作れ!!

 木材!! 縄!! 石!!

 なんでもいい!!

 この流れを止めるぞ!!」


「応ッ!!」


 河越兵と村人が必死に堤を作る中、

 私は流れの“核”を観測した。


(崩落地点……

 水圧……流速……

 弱点は……ここ!!)


 私は父の肩を叩き、

 小さな声で叫んだ。


「……ひだり……!

 ふさぐ……!」


「左側を塞げというのか!?」


「……いま……!!」


 父は迷わなかった。


「左に岩を積み上げろッ!!

 重綱の指示だ!!」


「応!!」


 岩が崩落口に押し込まれる。


 その瞬間――


 川の流れが左右に分かれ、

 激流が弱まり始めた。


「た、止まった……!」

「本当に止まったぞ!!」


(よし……!

 修正派の“飢饉工作”は、これで無効化した)


 私はその場に座り込みながら、

 小さく、しかし確かな声で呟いた。


「……まもった……

 かわごえ……」



 水が引き、

 河越荘に大きな被害が出なかったことを確かめると、

 父は私を抱いて言った。


「重綱……

 そなたはよく……この家を救ってくれた」


 私は首を振った。


「……まだ……くる……

 あいつら……とまらない……」


「……む?」


「みらい……なおす……やつ……

 まだ……ぜんぜん……おわらない……」


 父はその言葉を聞いて、

 深く頷いた。


「ならば、この河越家すべてを使って守ろう。

 そなたの未来を」


 遠くの空に、

 うっすらと揺らぎが光った。


(戦いは……ここからだ)


――未来を作る者と、

――未来を戻す者。


その闘いの幕が、

ついに本格的に上がったのだった。

どうぞ気軽に読んでいただければ幸いです。

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