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千年の時を巡り、滅びの歴史を書き換える。 ――河越家は、もう二度と沈まない。  作者: 空識


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第16話 武蔵国の地勢と政治構造の観測

 奥州戦という極寒の戦場を離れ、

 河越勢が武蔵国の地へ帰り着いたのは、

 雪解けの兆しがわずかに見える早春であった。


 だが、私――重綱の胸中には、

 春の気配とは真逆の、冷たく重い“揺らぎ”が残っていた。


(別の重綱……未来修正派……

 奴らはこの武蔵国にも、必ず介入してくる)


 奥州での戦いに比べれば、

 武蔵国は穏やかな大地。

 しかしその穏やかさは、

 武力や政治が複雑に絡む“底無しの泥沼”でもある。



 河越荘へ入ると、兵たちは歓声を上げた。


「帰ったぞーー!!」

「河越の土の匂いよ!」

「重綱さま、我ら戻りましたぞ!」


 父・重房は家中を集め、

 凱旋の礼を簡素に終えた後すぐに私を抱き上げた。


「重綱……戦場での働きは見事だった。

 だが、ここからが本当の難しさよ」


 戦場よりも難しい――

 そう、政治だ。


 私は父の胸に手を置き、周囲の“力”を観測した。


 荘内の村人、荘官、寺社の使い、

 隣接する豪族の密使……

 すべてが河越家の帰還を“計るように”見ていた。


(力の空白……

 平家政権の影響、荘園の権力構造、盗賊化した元武士……

 この土地は、戦場以上に複雑だ)



 帰還した翌日、

 父は主要家臣を屋敷に集めた。


「奥州での武功により、河越家は勢力を増した。

 しかし……武蔵国の情勢は一筋縄ではいかぬ」


 そう言って父は、縄で枠組まれた地図を広げた。

 河や街道、荘園、寺社、豪族の館が細かく記されている。


 私はそれを見て、

 未来知識が即座に“問題点”を描き出した。


(治水不足……

 洪水で道路が寸断される構造……

 年貢の流れが悪い原因……

 寺社領の行路支配……

 軍事の中核が分散……全部改善できる)


 しかし、幼児の私は言葉が足りない。


 そこで私は、父の指を握り、

 地図のある一点を強く指した。


「……みず……ながれる……

 ここ……わるい……」


「ここが悪い……?」


 家臣たちは顔を見合わせた。


「まさか、川の曲がりか?」

「いや、この付近は毎年田畑が流されておるが……」


(やはりか……未来の視点で見れば答えは一つだ)


 私は続けて言った。


「……みち……つくる……

 みず……かわす……

 こめ……ふえる……」


 家臣たちがざわめいた。


「治水……道……米……?」

「まさか、奥州でも重綱さまは……」

「こんな幼子にそこまで見えるのか……!」


 父は黙って私の指を見つめ、

 深く頷いた。


「……重綱が言うなら、やってみる価値はある。

 治水工を呼べ。川の流れを改修する!」


 こうして、河越家で初となる

**“未来型治水計画”** が始動した。



 その日の午後。

 私は乳母とともに荘園の見回りへ出た。


 ぬかるむ農道、崩れかけた橋、

 水が溜まりすぎる田。


(この時代の農地はすべてが非効率だ……

 少し水の流れを操作するだけで収量は倍になる)


 私は小石を拾い、

 田のあぜに置いて流れを示した。


「……ここ……きる……

 こっち……ながす……」


 村の者たちは茫然としながらも、

 幼い私が示す“水路案”に見入っていた。


「坊ちゃんのおっしゃる通りにすれば……

 田が乾くどころか、均しやすくなるのでは……?」


「まるで……水の心が読めるようだ……」


(読んでいるのは“水の心”ではない。

 **流量と傾斜の科学**だ)



 その帰り道。

 私はふと周囲の空気に違和感を覚えた。


(……揺らぎ……?

 いや、これは……尾行……)


 別重綱派の残滓に似た波動が、林の陰に潜んでいた。


 私は乳母の肩を叩き、小さく囁く。


「……ひと……みてる……」


「え……?」


 乳母が振り返った瞬間、

 林の奥の影が風のように走り去った。


 黒装束の残り香が微かに揺れる。


(やはり……ここ武蔵国にも潜んでいる)



 屋敷に戻ると、父が険しい顔で待っていた。


「重綱……お前を尾行する者がいたと報告があった。

 お前には、もう“奥州の敵”だけではない。

 武蔵の地にも影が蠢いている」


私は静かに頷いた。


(分かってる……

 あの連中の目的は“私の未来改変を妨げること”。

 ここからが本当の戦いだ)


 だが、私は幼い声で簡潔に答えた。


「……まもる……

 かわごえ……」


 父の手が震えた。


「重綱……

 お前は……どこまで見えているのだ……?」


(どこまで?

 ――未来全部だ)



 夜更け。

 私は燭台の明かりを眺めながら、静かに呟いた。


(治水、道、農業、寺社の権力……

 武蔵国の“構造”を変えれば、

 河越家の地盤は揺るぎないものになる)


(そして、ここを基点に

 頼朝の時代、鎌倉の時代、室町の時代を動かす――)


 胸の奥で“揺らぎ”が波打つ。


(だが、あちら側――未来修正派も、

 必ずこの武蔵国に介入してくる)


 重綱は静かに目を閉じた。


**――未来を作るための戦いは、

 ここ武蔵国から本格的に始まる。**

どうぞ気軽に読んでいただければ幸いです。

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