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千年の時を巡り、滅びの歴史を書き換える。 ――河越家は、もう二度と沈まない。  作者: 空識


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第15話 歪む歴史の予兆

 もう一人の“重綱”が去ってから、河越勢は警戒を高めながら林道を抜けた。

 しかし、あの男の残した言葉は、

 雪よりも重く、風よりも深く、私の胸に突き刺さり続けていた。


――“あなたの未来は、強すぎる。歴史が耐えられない。”

――“証拠を見せよう。”


 未来が耐えられない?

 強くなりすぎる河越家が、破壊をもたらす?

 その言葉には明確な意志があった。


(あの男は、私を止めに来た……。

 だが同時に、何かを“守ろう”としている気配もある)


 敵意だけなら、今すぐ殺しに来るはずだ。

 しかし彼は“選択”を迫ってきた。


――作る未来か、取り戻す未来か。


(彼の背後には……別の未来の河越家があるのだ)


 そう思うと、胸のざわつきはさらに深まった。



 翌朝。

 河越勢は武蔵国へ向かう帰還路の前半を終え、

 山間の街道近くで休息を取った。


 雪が収まり、遠くには雲がうっすらと裂け、

 青い空がのぞき始めている。


 父・重房は私を布でくるみ、

 膝の上に抱いて言った。


「重綱……昨日の男のこと、忘れられぬ。

 あの者は、そなたと同じ“理”を知っているようだった」


 父が“ことわり”という言葉を使うのは、

 ただの直感ではないと判断した証だ。


 私は小さな手で父の衣を握り、ゆっくり告げた。


「……おなじ……

 でも……ちがう……」


「同じで……違う?」


 父の眉がわずかに寄る。


(そう、“同じ理”でも、“目的が違う”)


 しかし言葉にできるほど、私はまだ語彙を持たない。



 その時だった。


「重房殿! 急ぎの知らせ!」


 斥候が血相を変えて駆けてきた。


「街道の先にある宿場町が……焼け落ちております!」


「なに……?」


 父だけでなく、周囲の家臣も顔色を変えた。


「盗賊か?」

「いや、雪の中で火はつかぬぞ……!」


 父は私を抱き、すぐに馬に乗って駆け出した。


「急ぐぞ! 現場を確認する!」


 私は父の胸の中で揺られながら、

 一つの不穏な予感に気づいていた。


(これは偶然ではない……。

 あの重綱が言った“証拠”だ……!)



 宿場町は、雪の中に無残な姿を晒していた。


 建物は黒く焼け落ち、

 雪に埋もれた焦げ跡が線のように続いている。

 人影はすでになく、静寂だけが残されていた。


「なんと……ここまで焼かれているとは……!」


「火事にしては……不自然に広い……」


 家臣たちが動揺する中、

 私は灰の上に積もる雪を指で触れた。


(雪が完全に溶けていた跡……

 これはただの火事ではない)


 灰の粒子の細かさ、燃え方のムラ、

 油の匂い……


(これは意図的な放火だ。

 しかも複数のポイントから火をつけている)


 その行動は、

 まるで現代の破壊工作員のようだった。


「……だれか……した……」


 私がつぶやくと、父が目を見開いた。


「重綱……“誰かがやった”というのか?」


「……うん……

 たくさん……」


 その言葉を聞いた家臣たちが青ざめた。


「まさか、昨日の黒装束の者たちか……!?」

「となると、狙いは武蔵へ向かう街道……!」


(その通り……)


 放火は“街道を混乱させるため”の前準備だ。

 人々の避難、混乱、盗賊の増加――

 その隙を突いて“何か”を仕掛けてくる。



 私は父に向かって言った。


「……みち……

 かわる……」


「道を変える……?」


 父は唸り、すぐに判断した。


「斥候! 周辺の抜け道を探せ!

 護衛を増やして行軍路を変更する!」


「了解!」


 父は私の手を握りながら言った。


「重綱……

 そなたは何を感じている?

 あの男が再び仕掛けてくると思うのか?」


(あの男が“証拠”を見せると言ったのは、

 河越家の強さが“歴史を歪めている”と示すため)


 では、その証拠とは何か?


――私たちが守れなかった未来の一端。

――あるいは、私たちが作る未来の危険性。


 私の胸の奥が、鈍く痛んだ。


「……くる……

 また……くる……」


 父の表情は鋼のように固くなった。


「ならば備えねばならぬ」



 数日後。

 河越勢は街道を外れ、山中の迂回路を進んでいた。


 雪深く、風が強く、急斜面も多い。

 しかし敵の待ち伏せを避けるためには仕方ない。


 兵たちは疲れていたが、私の指示を信じて進む。


「重綱さまのご判断なら間違いあるまい……」

「我らは従うのみよ……!」


 その忠誠はありがたい。

 だが、胸の奥の不安は晴れない。


(あの男……必ず“次”を仕掛けてくる)


 そして、その“次”が何であるか――

 私はいま決定的なヒントを得た。


 それは迂回路を進んでいた時のことだった。


――山の向こう側で、また揺らぎが生じたのだ。


 昨日よりも大きく、強く、鋭い揺らぎ。


(これは……複数の観測者が同時に活動している気配……!

 まさか……奴だけでなく、他にも……?)



 すると、遠くから斥候の叫び声が響いた。


「報告ッ!!

 前方の峠にて――

 村が“跡形もなく”消えています!!」


「……何……?」


 ただの焼失ではなく、

 “消えている”という言葉。


(まさか、この時代に……そんなことが……)


 胸がざわつく。


(これは……未来の技術による破壊の痕……だ)


 そして、私は理解した。


――あの男は一人ではない。

――未来の“重綱派”が複数存在する。


 彼らは“未来を取り戻す”ために、

 この時代に干渉している。


 その光景こそ――

 あの男の言う“証拠”なのだ。



 父が震える声で言った。


「重綱……

 何が……起きている……?」


 私は父の胸に手を置き、

 はっきりと告げた。


「……みらい……

 ふたつ……ある……」


「未来が……二つ……?」


「……うん……

 つくる……みらい……

 とりもどす……みらい……」


 父は息を呑んだ。


「では……今日焼かれた村も……」


私は強く頷いた。


(これは未来を取り戻すための“破壊”。

 私の作る未来を否定し、

 元の歴史へ戻すための“強制力”だ)


――作る未来 vs 取り戻す未来。


 その衝突が、すでに始まっている。



 雪の峠を越えた先で、私は空を見上げた。


 灰色の雲の向こうで、

 かすかに光の粒子が揺らいでいる。


(これは……“観測の歪み”だ。

 輪廻が複数の未来を読み込んでいる証拠)


 あの男が言ったとおり、

 私は未来を大きく変えすぎているのかもしれない。


 だが――


(例えそうでも……私は河越家を守る)


 その意志は揺らがない。


――未来の重綱たちよ。

――お前たちが取り戻したい未来がどんなものであれ……


私は、私の未来を作る。


 雪の峠で、私は静かに決意を固めた。


――歴史が歪むなら、

――その歪みごと押し切るまでだ。

どうぞ気軽に読んでいただければ幸いです。

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