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千年の時を巡り、滅びの歴史を書き換える。 ――河越家は、もう二度と沈まない。  作者: 空識


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第14話 帰還の道と影の追走

 奥州戦の終息が正式に宣言され、

 源義家の軍は凱旋の準備へと移った。

 戦の疲労は積み重なっているはずなのに、

 帰還できるというだけで兵たちの足は軽くなっていた。


「ようやく武蔵に戻れる……!」

「重綱さまに村々へ凱報を届けたいものだ!」


 兵士たちの声は弾んでいる。

 しかし私の胸の中には、重い何かが居座っていた。


(帰還するということは、“次の戦場”に入るということだ)


 平家との対立、源氏の覇権闘争、

 鎌倉という巨大な“力”が生まれる前夜。


 そのすべては、河越家の未来を左右する。


(そして、あの“もう一人の重綱”も動き始めるだろう)



 行軍の朝。

 父・重房は馬に跨り、私を抱いて前線に立った。


「河越勢よ!

 奥州戦に勝利した今、これからが本当の始まりである!

 武蔵国へ戻り、我らの地を守り、

 さらに強くならねばならぬ!」


「応!!」


 兵たちの声は雪を震わせた。


 その声を聞きながら、私は父の胸に手を置いた。


「……おと……さま……

 かえる……けど……あぶない……」


「危ない……?」


 父の表情が引き締まる。


「重綱、何か見えるのか?」


(“見える”というより、“感じる”。

 封じられた輪廻の記憶が警告している)


 私は遠くの山脈を指差した。


「……とちゅう……

 みえない……てき……」


「途中に……見えない敵がいるというのか?」


 父の声には緊張が走った。


「重綱がそう言うのなら、警戒を強めよ!」


 河越勢は隊列を引き締め、危険地帯へと向かう。



 行軍開始から一刻ほど経った頃だった。

 雪に覆われた林道は静かすぎる。


 鳥の声ひとつしない。

 風すら凍りついたような、重い静寂。


 私は乳母の背で揺られながら、

 胸の奥に響くざわつきを凝視していた。


(これは……“あの時”と同じだ)


 あの重綱が現れる前に感じた量子の揺らぎ。


 しかし、今回はもっと濃い。

 もっと濁っている。


――これは、複数の揺らぎだ。


(まさか……協力者がいるのか?

 あの男と同じ輪廻干渉者が……複数……?)



 斥候が駆け戻ってきた。


「報告!!

 前方の林で……大量の足跡を発見!!

 敵勢が潜んでいる可能性大!!」


「……来たか」


 父が槍を握りしめ、家臣たちへ命じる。


「全軍、陣形を整えよ!

 狭い林道では乱戦必至だ。

 盾持ちは前列、槍隊は左右より援護!」


「応!!」


 兵たちが素早く散開し、林道に横隊が組まれる。


 私は父へ身を乗り出し、囁いた。


「……みぎ……

 たかいところ……いる……」


「右の高所に……敵……?」


 父は迷わず命令した。


「弓隊!

 右の高所へ矢を一斉射!!

 重綱の指示だ!!」


 弓が鳴り、矢が林の上部へ向け放たれた。


 直後――

 木の影から悲鳴が上がった。


「ぎゃっ!」

「見つかったか!!」


 雪煙とともに敵の影が崩れ落ちる。


 家臣たちが震えた声を漏らす。


「まさか……本当に……!」

「重綱さまはどうして……」


(当たり前だ。

 私は“量子の揺らぎ”を見ている)



 すると、森の奥から甲高い笛の音が鳴り響いた。


 次の瞬間、

 左右の林から黒装束の兵が一斉に飛び出してきた。


「伏兵だ!!」

「左右両面から来るぞ!!」


 黒装束――

 この時代には“僧兵”か“忍び”の類いに近い。

 しかし、その動きは異常だった。


「は、速い……!」

「くそっ、槍が追いつかん!!」


 敵兵の動きには、明らかに“合理性”がある。

 無駄がない。

 間合いの管理が現代的だ。


(まただ……“未来の動き”だ。

 あの男と同じだ。

 ということは――)


 私は父へ向かって叫んだ。


「……いる……!!

 かげ……おおい……!!」


「影が多い!?

 全軍、後退するな! 散開し接近を許すな!!」



 黒装束の兵は雪原を滑るように進み、

 槍を撥ね、刀を振り抜きながら突っ込んでくる。


 しかし河越勢は“私の訓練”で動きが揃っていた。


「横列! 間隔を空けるな!!」

「馬を下げろ! 槍隊前へ!!」

「弓隊、後退しつつ射込め!!」


 家臣たちが鮮やかに指揮を飛ばし、

 河越の槍隊は左右へぶれずに対応した。


 敵が槍を弾こうとするタイミングで、

 後列の槍が突き出される。


「ぐっ……!」

「なに!? 動きが読めん……!」


 敵兵が動揺する。


(当然だ。

 お前たちの未来の動きは“私には読める”。

 私が教えた槍隊は、

 未来の動きを読む兵へ“逆対応”するよう訓練している)



 だが、敵はそれで終わらなかった。


 森の奥から、あの声が響いた。


「やはり……重綱殿。

 あなたは優秀だ」


 雪の影から、あの黒装束の男――

 “もう一人の重綱”が現れた。


 槍を持たず、刀を抜かず、

 ただ静かに歩いてくるだけなのに、

 兵たちの緊張が極限まで跳ね上がる。


「また貴様か……!!」

「なんだあの動きは……!」


 男は手を広げ、冷たく微笑む。


「これは……試しです。

 あなたがどれほど未来を“作る”つもりなのか。

 そして、あなたの作る未来が――

 本当に価値あるものなのか」


 父は槍を構え、怒声を上げた。


「貴様、重綱に何を求めている!!」


 男の目は氷のように冷たい。


「求めているのは、重綱殿の“選択”です」


 その視線が私へ向く。


「未来を作る者としての選択か……

 それとも――

 未来を取り戻す者としての選択か」



 私は乳母から自ら身を滑り出し、

 雪上に小さな足を下ろした。


 兵士たちが息を呑む。


「重綱さま……!?」

「地面に降りられた……だと……!?」


 私は男を真っ直ぐに見据えた。


「……あなた……

 なに……ほしい……」


 男は静かに目を細める。


「私は、未来の“河越家の姿”を見たい。

 だがあなたの行動は……

 本来の未来を大きく変えすぎている」


(本来の未来……?

 それは滅亡か?

 あるいは別の繁栄か?)


 男は続ける。


「あなたの河越家は……“強くなりすぎる”。

 歴史が耐えられない」


 私は首を振った。


「……かわごえ……まもる……

 それだけ……」


「それが破壊になることもあるのですよ」


(破壊……?

 繁栄のための技術革新が……破壊……?)


 男は最後に告げた。


「近いうちに、私は“証拠”を見せます。

 あなたが作ろうとしている未来が、

 本当はどれほど危険なのかを」


 そして黒装束を翻し、林の奥へと消えた。



 雪原には深い静寂が残された。

 父は私を抱きしめ、震える声で言う。


「重綱……

 そなたを狙う者が増えている。

 守りきれるのだろうか……」


 私は父の胸に額を預け、小さく息を吐いた。


(守る……守り抜く……

 たとえ未来の重綱そのものが敵になったとしても)


 そう思った瞬間、

 胸の奥で新しい揺らぎが生じた。


 それは、

 “見えない未来の警告”のように冷たかった。


――重綱よ。

――お前が作る未来は、必ず誰かの未来を消す。


 その声が、

 雪よりも冷たく、私の心に刻み込まれた。

どうぞ気軽に読んでいただければ幸いです。

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