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千年の時を巡り、滅びの歴史を書き換える。 ――河越家は、もう二度と沈まない。  作者: 空識


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第13話 鎌倉への影

 闇に紛れて消えた“もう一人の重綱”――

 その存在は、奥州の戦そのものよりも重く、

 私の胸の奥に深い警告として刻まれた。


(未来を“取り戻す”……?

 つまり、私が作ろうとしている未来は、

 あの男――別の重綱が生きた未来ではないということだ)


 輪廻は一本道ではない。

 観測と干渉によって分岐が生じ、

 いくつもの“未来”へ枝分かれしていく。


(私は、未来を守るために変革を進めている。

 だが、あちら側から見れば“改変者”なのか……)


 雪の冷たさとは別に、

 胸の奥がじんと熱く疼いた。



 翌朝。

 河越勢は再び進軍を開始した。

 だが兵たちの浮かれていた空気は、昨夜の影によって引き締まったように感じる。


「昨日の伏兵は恐ろしかった……」

「だが重綱さまが見抜かれた」

「神童としか言いようがない……」


 幼い私は乳母の背で揺られながら、

 雪原越しに前方の丘陵地を見つめていた。



 前方から斥候が駆けてきた。


「報告! 義家殿が奥州藤原方の大将を討ち取り、

 戦は終結に向かいつつあります!」


 兵は歓声を上げる。


「おおっ!!」

「これで帰れるぞ!!」

「重綱さまのおかげだ!」


(……帰れる、か。

 しかし、河越家の強化はここからが本番だ)


 奥州戦が終わるということは、

 いずれ武蔵国へ戻ることになる。


 そして――

 鎌倉の台頭、源氏の勢力拡大、

 平家との対立、源平合戦……

 歴史が加速度的に動く時代へ突入する。


(私は、だれより早く“火種”を察知し、備えなければならない)



 陣へ戻ると、父・重房が私を呼んだ。


「重綱……少し話がある」


 焚き火の前に座った父の表情は、

 昨夜よりさらに険しかった。


「昨夜、あの男が言っていたこと……

 そなたも聞いていただろう」


「……うん……」


 父は深く息を吐いた。


「そなたは“未来を作る”と言った。

 あの男は“未来を取り戻す”と言った……

 重綱、そなたはいったい……誰なのだ?」


(その問いは……重い。

 本当の答えは“千年輪廻し続けた観測者”だが……

 この時代の父に説明するにはあまりにも早い)


 私は父の手を握り、ゆっくりと告げた。


「……かわごえ……なくしたくない……

 だから……まもる……」


「……守るために未来を作る、と」


 父の瞳には、理解と信頼の光が宿った。


「ならば、それでいい。

 たとえそなたが何者であろうと、

 河越家を守ると誓うなら、私は信じる」


(父上……あなたという存在が河越家の未来にとって

 どれほど大きな柱となるか、私は知っている。

 だからこそ、あなたを決して死なせない)



 その夜、私は火の反射を受ける雪を見つめていた。

 白と赤の揺らぎが、ゆるやかな波を描く。


(別の重綱の目的は……未来の“修復”か。

 では、その未来では何が起きた?

 なぜ“修復”が必要なのか?)


 過去の輪廻の記憶がざらりと脳裏をよぎる。


――河越家が滅びる未来。

――川越が焼かれる未来。

――血脈が断たれる未来。


 それは私の知る最悪の歴史だ。

 だが“未来を取り戻す”という言葉が意味するのは、

 あるいは――


(滅亡したのは“本来の未来”だったのでは?

 だから別の重綱は“修復”を求めて輪廻した……?)


 まさか。

 だとすれば、私は“改変者”ではなく――


(本来の歴史を壊した“破壊者”……?)


 胸の奥で、量子の揺らぎが強さを増した。



 翌日、陣立ての準備が進む中、

 私は一人林の奥に視線を送った。


(あの重綱は、必ずまた来る。

 話し合いで済むならいいが……

 輪廻観測者同士が激突すれば、

 この時代の流れが“本当に歪む”)


 その時、背中越しに声がした。


「重綱さま……?」


 振り返ると、河越の若武者たちが並び立っていた。

 壮年の者、若い者、家臣の子ら……

 皆、私を神童として信じている。


「我ら……重綱さまのお導きで勝てました」

「河越家は、重綱さまの未来に賭けたいのです」

「どうかお守りください……」


 皆の目は澄んでいて、疑いも恐怖もない。

 ただ、信仰に近い尊敬がある。


(……そうだ。

 私は、彼らの未来を守るために生きている)


 それなら答えは決まっている。


 私は小さな声で言った。


「……まもる……

 みんな……まもる……」


 若武者たちは深々と頭を下げた。


「重綱さま……!

 末永く、我らにお導きを……!」



 その日の夕刻。

 源義家の本陣から正式な布告が届いた。


「武蔵国・秩父河越家――

 奥州の戦において、比類なき働きをした。

 よって“先陣の誉れ”をここに認める!」


 兵たちは歓声を上げ、

 父は私を抱きしめた。


「重綱……これで河越家の名は、

 武蔵国だけでなく奥州にも響き渡る。

 そなたのおかげだ」


(よし……帰国後の政治構造において、

 河越家は確実に優位に立つ)



 その夜。

 私は雪の中ひとり、静かに目を閉じた。


(だが、問題はそこではない……

 “もう一人の重綱”が何を修復しようとしているか、だ)


 雪の上に降り落ちる火の粉が、微かに揺れる。


――歴史の修復。

――未来の奪還。

――輪廻の衝突。


 そのどれもが、

 私と河越家にとって重大な意味を持つ。


 私は小さく息を吸い、胸に誓った。


――対話で済むのなら、話そう。

――だが、もし“未来を取り戻す”ために河越家を犠牲にするつもりなら……


 雪原の向こうに、

 あの男の影がまだ潜んでいる気がした。


(私は負けない。

 未来を守るために、私はこの時代へ来た)


――河越家を滅亡させる“本来の未来”など認めない。


 雪の夜、

 私は生まれて初めて“敵”という存在を強く意識した。


 そしてそれは、

 私自身と同じ名を持つ者だった。

どうぞ気軽に読んでいただければ幸いです。

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