第四十一話 ジレンマ④
少し冷静になろう・・・
我は深く深呼吸を行い、周囲を見渡した。会場内は相変わらず人間が往来している。取り乱していたのは自分のみで時は一秒一秒何事もなく過ぎ去っていく。
時間はクロちゃんでもない限り戻せない。後悔しても仕方がない。
今から先のことを考えて行動するのみだ。そう言い聞かせるようにして我は会場から外に出た・・・
ここは、人の気配が全くない無風の砂漠地帯。ここなら無心で全集中することが可能だろう。
我は竜魔眼の竜眼の特性に働きかける・・・
そうだな、身近な人物でまずは試してみるか・。・・
《キャンティ・・・》
《キャンティ・・・・・》
心に念じた彼女の名前と竜魔眼をリンクさせてみる。なんと一瞬で我の瞳には、無数の情報が脳裏に浮かんできたのだ。無数の情報とは、方位とそこまでの距離。
なんか一発で思惑通り出来たっぽいが、それにしてもキャンティという名前の人物はこんなにも多数存在するのか?
まぁ、ありきたりの名前と言えばそれまでだが・・・おっと、このことは我の心に留めておこう。キャンティに知れたら、逆鱗に触れるのが目に観えているからな。女性は褒めるに越したことないのだ。
正直、ここまで一つの名前に複数の情報が入って来るとは思わなかったが、検証には必要なデータだからな。
さて、どうするか?
この無数の情報がホントに正確なものなのかを検証しなければならない。実際に情報を元にその場所まで赴き、その場の人物の名前を確認するという面倒な方法だけは避けたい。
おっと、我には雰囲気の個性というスペシャルなスキルがあったではないか。だとすれば、検証は非常に楽である。雰囲気の個性で察知した我の生みの親であるキャンティの居場所と先程、竜魔眼で得た無数のキャンティ情報が一致していれば問題解決である。
引き続き我は、雰囲気の個性を発動させる。
キャンティの洗練された雰囲気は非常に解りやすい。流石は鍛冶師であると共にソードマスターである。一つの道を究めた者はやはり雰囲気が他者とは異なる。こういったことは本人を目の前にして直接伝えたほうが喜ぶとは思うが、キャンティを喜ばせても我にはメリットが皆無であることは明白である。故にそういったムダなことは行わない。
さて、これに先程竜眼で得た無数の情報をリンクさせる。頼むから我の思惑通りいってくれよ・・・
きたきた!ビンゴだ!
雰囲気の個性でサーチしたキャンティの位置と竜眼で得た情報の位置が一致したのだ。
イケる!これならイケるぞ!遂にカイを探し出す糸口が見えたのだ。
しかし、我も正直無様である・・・
色々と思考を巡らせれば、もっと早くこういった展開になったであろう。八百年も待ち続けていた結果がコレだ。
人は行動してなんぼだと実感したのだった。それが良い結果になるか悪い結果になるかは別にして、果報は寝て待てという格言は今回のケースにおいては無力であったな・・・
後悔しても始まらない。大切なのは今以降の未来なのだ。人生はいつでもリセット出来るって能天気なヴァンも言っていたしな・・・
よし、早速本番に取りかかるとしよう。
《カイ・・・》
《カイ・・・・・》
しかし、念じたカイという名前に竜魔眼は反応しない。
こんなバカな・・・これだけ長い年月が経過しているのだ。カイが転生していない訳がない。我が竜魔眼を使いこなせていないからか?
イヤ、この念じた感覚は先程のキャンティで得た感覚と同じである。通常の感覚と異なり何かをサーチしている感じであった。やり方に問題がないとするならば、問題点は何なのか?
名前?
名前が変わったのか?
カイという名前に今はなっていないのか?
そうか、それしか考えられない。そうに違いない。また振り出しに戻ったな・・・
我は憶測であったが、そう結論付けると全てに合点がいくので、そう思うことにした。考えるのはしばし時間をおこう。また良い案が生まれるかもしれんしな・・・
一応、魔眼で細胞レベルのサーチを試みることも出来たのだが、それは今回無駄なので行わなかった。
転生すれば当然細胞も変化する・・・
そういう訳だ。
落胆した我であったが、それにしてもここは何とも心地良い場所なのだ。落ち込んだ今の我には丁度良い。
暗黒空間リアトリスは何もなく、落ち着ける場所ではあったが、人間界でこういった場所があると何故かホッとする。今の混沌とした人間界だからこそなのかもしれない。
気の乱れがあちこちで感じる・・・
暴動などが多発化しているというのも、まんざら噂だけではないのかもしれんな。
昔であれば、絶対神ゼウスが統治していた人間界だが、ゼウスの力も老いたのか乱れているようだ。
もしかしたら、ゼウスの能力も継承されているのかもしれんな。ゼウスの娘が生と死を司るペルセポネーだとカイが消滅した戦いで聞いた。
本来、生と死はゼウスが司っていたハズなのに正直我は疑問に感じたのだ。
あれから、八百年・・・
今やペルセポネーの時代なのか?
それとも、もしペルセポネーの子が存在するのであれば、その子の時代なのか?
時代は流れているのだ。変化があって当然だろう。神々のことであっても、今後の我にとって全く関係がないとも言い切れない。何故ならば、八百年前の戦いにおいて、クロちゃん、ペルセポネー、ゼウス、スキル神、邪悪神という神々が関わってきたのだから・・・
そういえば、ティナはどうなのだろうか?
やはり、転生したら名前も変わっているのだろうか?
ティナの先祖にティアラという者がいたと聞いていたからな・・・
名前も代々変化していくのだろう。我は魔剣だった故、ティナの料理は口にしていなかったが、皆が口をそろえて一級品と言っていたのだ。さぞかし旨かったのであろう。人化した今の状態であれば食は大切なことの一つであり、心の癒しとなるのだ。
思えば、明るくてステキな子であったな・・・
ティナ・・・
ティナの事をあれこれ思い出していると次の瞬間、我に先程と同じ感覚が襲い掛かる。
こ・これは・・・
何と竜眼がティナの思い出に反応して、居場所を指し示してきたのだ。しかも、キャンティの時とは異なり、たった一人の居場所を・・・
ティナという名前の人物は現状たった一人のようだ。
しかし、ぬか喜びはもうしたくない。たまたまティナという人物がたった一人で我の竜眼に反応してきたのかもしれない。その反応したティナは、昔のティナが転生した者とは異なる可能性が十分あるからだ。
我は心を決して、竜眼が反応した場所に赴くこととした。ここからはそこまで遠方ではない。我の飛行スピードを考えて二十分といったところか・・・
現地へと到着した我。
ここは荒野・・・こういった場所が好きなんだろうな。目の前には、たった一人、可愛らしい少女が何やら遠くを見つめている・・・
「よっ!お前、破壊竜だろ?イヤ~探したよ。」
我は少女に声をかける。敢えてティナだろ?とは言わなかった。それは、彼女特有の竜水晶が首にかかっているのを目にしたからだ。
「ちょっと何?あたしはあんたなんか知らないよ。それにあたしが探しているのは男の子で、あんたなんかじゃないしね。」
「そんなこと知ってるよ。カイって奴を探しているんだろ?何なら手伝ってやろうか?」
我はニッコリと微笑むが、疑いの目で凝視する少女・・・
「何でカイの事、知ってるのよ。それにあんたは何者なの?まずは自己紹介するのが、礼儀ってものじゃないの?」
「そりゃそうだよな。でも、自己紹介なんてするの初めてなんでな・・・わ、わ、わ・・・」
ついつい、どもってしまったのを見て拍子抜けしたのか、クスクスと笑い出す少女・・・
「わたしは、レイ。あんたとカイをよく知る者だ。訳あって、今は事情を説明出来ないが、信用してほしい。」
危うく、我と言いそうになってしまった。我のことはまだ内密にしておかねばな・・・
あ、別に正体がバレなければ自分の言い方など気にしなくても良いのか。
しかし、女性が自分のことを我というのは、やはりおかしいだろうな。やっぱり、ここは【わたし】でいこう。
わたしは、やっとのおもいで破壊竜を探し出せた。これも竜眼のお蔭である。
彼女と共に行動が出来れば、カイにも辿りつくことが出来る・・・のか?
そこの所は全くもって今は自信がないと断言しておくことにする。




