第五十話 マジカヨ③
「ザグレウス・・・イヤ、今はゼータだったな・・・ボクはセスをメインの媒体にしていて、三竜姫が体内の絶対領域に存在する。そして、セスの本体であるキミを吸収出来れば目的は達成される。この時を待っていたのだ。」
「ナゼ、アタシの秘密を知っていたのかなんてことはこの際どうでも良いわ。だけどね、それはアタシにとっても好都合なのよ。分身体のセスと三竜姫はアタシの一部・・・訳の解らない邪神などにくれてやるつもりは毛頭ない。この場で返してもらうわよ。」
そうしたやり取りの後、すぐさま03がゼータに仕掛けてきた。そのスピードはかなりの速さであり、目で追うのも困難であった。
アイちゃんいわく、音速に近いスピードであり、ノーマルなわたしでは対応は難しいということだ。逆に言えば、ノーマルなわたしでなければ対応可能ということになる。
驚いたことにゼータは、この超スピードにもしっかりと対応出来ていた。激しい肉弾戦の音だけがこの空間にこだまする。チラリ、ディとティの様子を見てみたが、二人とも表情を変えずに03とゼータのバトルを見守っていた。
もしかして、このスピードのバトルに二人とも対応可能なのか?
まぁ、波、気、物のマスターの三人だ。それ位のレベルは最低限可能なのだろう。
「流石だな・・・では、これではどうかな?」
03は次の瞬間、神撃三を撃ち放つ・・・
神撃三とは、多方向から神撃二がランダムに飛んでくるとんでもないスキル。
だが、もっともヤバいのは想定している神撃四。わたしの予想通りであれば、ゼータがグラマスだとはいえ、かなりヤバイのではないかという見解だ。わたしが神撃を使いこなせるのであれば、最終形態はこれしかないというスキルである。
そんな最悪の状態は考えたくはない。ゼータがピンチの時は加勢してやらなければなるまいな・・・
ゼータは神撃三の猛攻に対して最初は圧倒的なスピードで回避していた。その様子は華麗でキレッキレのダンスを見ているようであり、見ていたわたしたちに安心を与えてくれるほどであった。
しばらくは無数にやってくる神撃に対してそんな対応をしていたゼータに嫌気がさしたのか、03は神撃の量を増やしてきたのだ。
流石にこの物量に対して、かわすのをあきらめたのか、ゼータは魔気を放出し今までとは異なる対応をしてきたのだった。
「な、なんてヤツだ・・・ボクの神撃に対して、こんな対応をしてくるなんて・・・素晴らしい、非常に素晴らしい。是が非でもその身体、欲しくなったよ。」
03はそんな事を言っていたが、わたしもゼータの対応には驚かされた。ゼータは波の力を用いて、両手に強固なバリアを張り巡らしたのだった。通常のバリアであれば、神撃ほどの圧倒的な破壊力の前には紙同然、それは全く役に立たない。
しかし、ゼータの波のバリアは両手に高密度に集束させたものであり、神撃に対しても弾き返すほどであった。これが、波の力の一端か・・・
「流石はグラマス!アタイじゃ、神撃に対してアレは出来ないよ。」
「そうね・・・あたいのリーズストライクでも弾き返せないだろうし、ディールは疑似対応スキルだから、神撃ほど威力があるスキルの前じゃどこまで効果があるか・・・」
ティとディは興奮しながら、そんな感想を述べていた。やはりそうか、二人のマスターでも神撃の対応は困難なのか・・・そりゃそうだよな、仮にも老いたとはいえ、かつての絶対神ゼウスの究極のスキルだ。魔人ごときが対応出来るとは考え辛い。
《でもさ、レイ。あんたなら、対応出来ると予測演算で出てるよ。》
「え?」
わたしが思わず大きな声で驚いてしまったので、ティとディはビクッとしてこちらを見てきた。
わたしは何事もなかったようにとぼけてみせたが、わたしもあの神撃三に対応出来るってこと?イヤイヤ、ムリでしょ?あんな超高速で圧倒的破壊力がある神撃があの物量で飛んでくるんだから・・・
《ワレに勝算アリだよ。まぁ、レイに神撃三が来てもワレがサポートしてあげるから、安心してよね。》
アイちゃんはサラッと言ってのけたが、まぁアイちゃんが言うのだ。間違いないのであろう。
「そろそろ、終わりにしようか?早くその身体が欲しいからさ。このセスの身体じゃやはり限界点が低くてさ、思ったことがまだまだ出来ないみたいだから。今から楽しみだよ。キミの身体とスキルがあれば、ボクたちの真の目的が達成できそうだからさ。」
「フッ・・・アタシには神撃は通用しないよ。それは十分解ったんじゃないかな?次はこっちからいかせてもらうよ。ディールでも対応出来ない波の力でセスと三竜姫は返してもらうからね。」
ゼータは波の力を放出していく・・・
それは魔気がベースではあったが、何か異なる気であった。
アイちゃんの予測演算でも不確定要素が多く、不明な気であるとのことでわたしは事の行く末を見守っていた。
ゼータの謎の気が03にまとわりつく・・・
「何かしているのかな?残念ながらボクには通用しないよ。何て言っても精神生命体だし、セスの身体にも危害を与えることは出来ないよね?」
03は不敵な笑みを浮かべていたが、次第に何やら様子がおかしくなってきたのだ。
「キミは一体何を・・・?ボクの身体が徐々に消えているじゃないか!有り得ない、有り得ないぞ!」
確かにセスに憑依しているであろう03の存在感が、徐々に消失している感じがする。沈黙でこの様子を見ていたニューとカイは当然という表情であった・・・
時は、しばし前のこと・・・
「ニュー、カイ、今後何があっても黙ってアタシを信じてほしいの。恐らく邪神がアタシの身体を狙ってくるハズ・・・アタシには分身体がいて、それが邪神によって吸収されちゃった。攻撃である波、気、物の力。気と物の力をかき消す力を与えた分身体だったケド、邪神の力には及ばなかったみたい。でも、安心して!ヤツがこっちに接触して来たら、その全てを取り戻すから・・・ニュー、カイ、念波ではない念話がアタシ達ファミリーには出来る。念波は他から介入が出来るケド、念話は他からは絶対に介入不可能。何かあれば、念話で伝えあおうね・・・それにね、面白い子がこっちに向かって来ているのよ!その子はもしかしたら、世界を最後に救ってくれる救世主になるかもしれない。」
「ゼータ、分かったよ。俺は大したことは出来ないケド、君を信じる。その面白い子ってのは、どんな子なのか楽しみだな!」
「母上、何かあればオレが助けるよ。オレは誰よりも強いからな!」
「カイ、お前のその自信はどこから来るんだ?」
三人は笑い合い、和やかな雰囲気が漂う・・・
徐々に03の存在感が消失していく・・・
しばらくすると、完全に03は消失したのだった。そして、意識の無い元のセスと三竜姫であるティナ、リン、キールが目の前に横たわって現れる。
「さてと・・・こんな事態になったのもアタシの責任。皆、トラブルに巻き込んでゴメンね。分身体のこの四人は本体であるアタシが再吸収して元に戻るわ。分身体との思い出があるっていう人もいるかもしれない。でも、まだ邪神がいるからね。アタシも本来の力が出せるようにしたいから、そこは解ってね。」
「あぁ、それに関しては誰も異論はないと思うぞ。だが、どうやって03を消し去ったのだ。いとも簡単に消え去ったから、正直皆驚いているのだが・・・」
わたしは皆を代表してゼータに質問する。未だにニューとカイは静観を貫いている。ディとティは首を縦に振るだけで、お前が聞いてくれよと言わんばかりの眼力であった。
「邪神の消し方?身内の邪神だからね・・・そんなことは難しくないわ。知る者もいるでしょうが、アタシはゼウスの子。そして、邪神はゼウスから出た異物・・・邪神が邪なる心から生じたものであるならば、同様に聖なる心から聖神を生み出し相殺すればよいのよ。まぁ、アタシが神であるから可能なんだけど・・・そっちにいる02も邪なる心の質さえ解れば、消し去ることも可能よ。」
ゼータはとんでもないことをやってのけたが、爽やかな笑顔で答えてくれた。ディの気の力を使った浄化もスゴいスキルだったが、イリヤンのような巻き添えを喰らう可能性がある。
だが、ゼータの対応ではそれは皆無であった。
そして、眩い光がゼータと分身体四人を取り囲み、ゼータ一人となった。そう、完全体となったゼータ誕生の瞬間だった。
「え?嘘だろ?」
わたしたちの目の前には03が憑依したセスが現れる。03は確かに消失し、ゼータは完全体になったハズなのに・・・
一体何が何やら訳が解らない。混乱していたのはわたしだけではなく、ここにいる全ての者がそうであった。
《レイ、どうやら02のヤツがやってくれたみたいだよ。時間だけ巻き戻して、皆の記憶は巻き戻していない。だから、状況が異なることに皆が混乱してしまったってね・・・》
アイちゃんの予測演算でやっと理解が出来た。
そうだった・・・
02はクロちゃんから生まれた邪神。時を自在に操れる厄介なヤツだった。じゃあ、これって詰みなのではないか?いくらこちらが優位にたっても時間を戻されちゃ、お話にならない。
何てこった・・・
わたしの考えていることは、ゼータに伝わっている。だから、わたしから相談しなくてもゼータにはタイムリーに情報が伝わるので、彼女が戦術を組み立てるのには時間を要さなかった。
「こいつは困ったわ。先に02の方を消去しておくんだったなぁ。今となっては警戒されて同じようにはいかないだろうし・・・ねぇ、ティ、そろそろ頃合いじゃないの?」
ゼータはティの方を見つめ、そう話しかける。
そして、ゼータは単身、03とのバトルを再開する。凄まじいスピードと破壊力のある攻撃が激突し、再び激しい衝撃音が響き渡る・・・
わたしにはゼータの言葉の真意が何のことやら解らなかったが、ティは黙って苦笑するだけであった。
「流石はグラマス・・・あたいたちの仕込みに気付くとは。隠しても仕方ないし、いいタイミングだからな・・・ファイ様、出番です。頼みます。」
え?ファイ?
ファイの雰囲気の個性は、ここからかなり離れた場所にある。ティの言う仕込みとは一体何なのか?わたしには、皆目見当がつかなかった。
《そっか・・・もう、そんなタイミングなんだ。まぁ、妥当な所よね。ワレもそう思うよ。》
オイオイ、アイちゃんまでそんなこと言うの?解らないのは、わたしだけなのか?ティとアイちゃんが言うナイスタイミングって一体・・・
パチン!
高らかに指を鳴らす音が周囲に響き渡る。
ファイが鳴らした指パッチンなのか?
そして、わたしの中で熱いものが込み上げてくる・・・
なんだ?この感じ・・・なんか体中が熱くて吐きそうだ。それに何やら共鳴している感じがする。何だコレ・・・?
ブレス?ブレスが共鳴しているのか?わたしの中にある右手のブレスが、左手と共鳴してるようであった。そのあまりにも強烈な違和感にわたしの身体が対応しきれていなかったから、吐き気がしたのか・・・
あれ?左手にもブレスがある感じがするぞ・・・それに、何だかとても懐かしい感じがする。
え?マジかよ!!!
これって、マイちゃん、パルス、ティ、前世のティナ、クロちゃん、ファイ・・・皆の心を感じる。無限の石、封印の石、!間違いない!かつてのカイが使用していたブレスがわたしの左手に装着されていたのだ。
これって、どういうこと?
「レイ、驚いたか?そりゃ驚くよな。あたいたちが、お前に石を託さなかった真なる理由がココにある。そう、託さなかったのではない。託せなかったのだ。だって、魔動石は一つしかないのだからな。お前に石を託すのを諦めさせたのには、苦労したがな・・・」
ティは、にこやかに説明をしてくれた。だが、合点がいかないのも事実。ナゼ、最初から石を託してくれなかったのだろうか?
そんなわたしの気持ちにティが応えてくれた。
「八百年前のあの日、我々は大いなる友を失った。カイとティナ・・・その代償はあまりにも大きかった。あたしたちの心にポッカリと大きな穴が開いたからな。あの時、ほんのわずかにカイの魂の方が冥界へと先に転移した。そして、残ったティナの魂からわずかな時間を使って懇願されたのだ。カイのブレスをゼブルの中に封印し、来たる時までこの秘密を守ってほしいと・・・」
「ナゼ秘密にしなければならなかったのだ?わたしはカイでないから、カイのブレスを使える資格がない。故に保存は可能だが、使えないのならば意味はないだろう。」
「あたいが作ったブレスだ。石のマスターである者が認めし者のみ、石の力を使うことが出来るようにプログラムしてある。これには自信よりも絶対的な絆というライン・・・だがな、あたいも不安になっちまったんだよ。八百年前の戦で絶対神ゼウスがやられ、対魔族なら魔界最強と思われていたミユーもやられた。この世に絶対はないんじゃないか?ってな・・・」
珍しくティが深刻な面持ちで話した。あの、いつも明るく破天荒なティとは思えない話しっぷりだった。
「そうか、だからティナの願いを叶える為にファイがわたしの中にブレスを封印し、今日までわたしには内緒であったという訳か。秘密が漏れない為に・・・」
「まぁ、そういうこった。それにお前のことだ。カイのブレスが使用可能とかになっちまったら、それに頼り切って自らの精進を疎かにするだろう?まぁ、ブレスに集まっている石の主はお前を認めている。今日からお前は無限の力、封印の力、時の力を使える者となったのだ。そして、お前がカイとティナの想いを引き継ぐのだ。カイは転生してニューになったが、あいつはあいつの想いが今はあるんだろうからな。」
ティはドヤ顔でそんなことを言い放った。確かにそれはあるかもしれない。だが、わたしはゼロとは異なる。あいつの場合は少々強引でお調子者な所があるが、わたしは割と慎重派だ。まぁ、割とだがな・・・
わたしもティの話を聴いて自らを見つめなおした結果、自然と笑みがこぼれてきた。こんな緊迫した場面なのに何故か安堵してしまったのだ。こんなにも仲間の愛と心強さを感じるとは思いもしなかったからだ。
「ゼブル、イヤ今はレイちゃんだったな・・・俺は俺の道を行く。石ころだった俺を人化させてくれたゼータと我が子カイと共に生きる。だから、俺のブレスを有効に使ってくれ。お前なら出来るだろ?生涯の相棒だったお前だ、俺の考え方を思い出してくれ。どんな状況でも活路は必ずある。」
カイ、イヤ今はニューだったな・・・
解ったよ・・・可能思考でポジティブに物事を考え、周囲の仲間の助けを借りてより良い結果を導き出す。そういうことだよな・・・
《レイ、ごめん。そういった訳だから、君を追い返してしまって・・・》
そして、マイちゃんの念波が一番に飛び込んできた。その後、パルスも何か言ってきたが、わたし的には超絶人見知りのマイちゃんが一番に心を開いてくれたことが何よりも嬉しかったので、パルスの言葉は全く耳に入らなかった。




