第五十話 マジカヨ②
ゼータは、全て解ってるよという雰囲気を醸し出している。彼女はどうやってか解らぬが、他人の考えが解るらしい。
《レイ、彼女はね・・・波動を使って他者の脳とシンクロしているんだよ。そんなこと出来る訳ないって思えるケド、それが出来るのがグラマスってことなんだろうね。覚醒魔人同士ならば、念が通じるのは今までのデータから解るんだケド、正直驚きだよね。》
イヤイヤ、覚醒魔人同士で念が通じ合うって、そんなのいつ解ったんだ?そんな些細なことを感知出来ていたことにわたしは驚いたよ。じゃあ、今はニューがゼータの考えていることが解るってことなんだな・・・
「折角来てもらったんだけどさ、訳あって生命の力はキミたちに託せないんだ。ゴメンね。何かを錬金術で作り出すのも、この間ニューを人化させるのに全力出しちゃったから、しばらくは封印させてもらいたいんだ。期待に応えられなくてホントにゴメン・・・」
「そうか・・・グラマスがそう言うのなら仕方ないよな。じゃあ、質問はいいかな?ニューが旦那様で隣の少年が息子ちゃんなんだよね?どう見ても息子ちゃんと旦那様は同年齢くらいに見えるんだケド・・・息子ちゃんの名前がカイっていうのも運命を感じるしな。」
わたしの発言にティとディが驚いた様子だった。今までの話の流れだと、ゼータが石ころのニューと出会ったのはつい最近のこと。そして、その負荷で錬金術はしばらく封印したいということ。二人の間に息子ちゃんが出来たとのは喜ばしいことだが、妊娠し出産し成長していくという過程の中で相当の年月を要するハズなのにこの少年は何者なのか・・・って考えるのは当然である。
「そうだよね、おかしいよね・・・でもね、覚醒魔人同士の子は成長が超早いのよ。だから、あっという間にアタシたちと同年齢くらいになっちゃったって感じ。カイって名前はアタシと旦那様が決めたの。何かね・・・天から名前がフッと振ってきたのよ。」
すると今まで無言だったカイが初めて口を開く・・・
「オレは父上と母上をリスペクトしている。波の力はまだまだ未熟だが、仲間集めっていうならオレを一緒に連れて行ってくれないか?一番の若造だが、優秀な両親の子だ。きっと役に立ってみせるぜ。」
「何を言っているんだ。お前はまだ旅なんかに出られるレベルじゃないだろ?お前は母さんと一緒にいろ。レイちゃんたちには父さんが力になってやる。昔の相棒だからな・・・相棒が困っている時には助けてやらなきゃならん。ゼータ、しばらくここを空けるがいいかな?」
「それなら・・・三人一緒に行こうよ。キャンティ、キャンディ、レイ、いいよね?」
わたしたちは一方的に話を進められ、六人で旅をすることになった。だが、ゼータが旅立つ前にとんでもないことを発言したのだった。
「さてと、お話も済んだし、そろそろいいかな?早く出てきなさい。闇に潜めし暗黒の存在よ!」
今までほんわかと温厚なオーラを出していたゼータの気が変化した。
これは明らかにバトルモード・・・
暗黒の存在って、何なんだ?
《レイ、あなたの影に精神生命体を感知!すぐに地面から離れて!》
わたしはレイちゃんの警告に驚いたが、すぐにティとディの腕を掴み、空中へと飛び上がった。
「何だ、何だ?」
「この気配・・・気付かなかったが、邪神か!」
ディが言うようにわたしの影には邪神が潜んでいたのだった。とりあえず、取り込まれずに済んでホッとした・・・アイちゃんに感謝だな。
「おやおや、気付かれるとは思わなかったわい。気配は消していたのに流石だな、ザグレウス・・・」
影から出てきたのは、邪神で間違いない。こんな所に潜むことも出来るのか?まぁ、精神生命体は実体がないから、可能なのだろう。
こいつは03なのか?
だが、雰囲気の個性でセスは亜空間にいるのが解っている。ならば、03とは異なる別の邪神か・・・
「アタシのことをそう呼ぶってことは、邪神って神界にも出入りがあったのね。だが、その名はもう既に捨てたのよ。アタシは覚醒魔人ゼータ。悪いケド、精神生命体なんかじゃ、アタシの相手にはならないよ。」
ゼータは自然体であったが、隙がなかった。余程の自信があるのだろう。まぁ、グラマスって呼ばれるだけのスキルや戦闘力があるに違いない。
わたしはこちらに矛先がくるかもしれない為、油断はしていなかった。精神生命体のヤツは直接的な攻撃は出来ない。何か行動を起こすとすれば、身体を乗っ取られることだろう。
一方のティとディも自然体だ。流石は物と気の頂点に立つ者だ。やはり、絶対的な自信があるのだろう。たたずまいからして、こういったケースでは只者ではない感じがひしひしと伝わってくる・・・
「先手必勝だ!出てきてすぐに消滅とは申し訳ないが、浄化させてもらうよ・・・皆は、ここから離れて!浄化が完全に完了するまでの間は、ヤツに身体を乗っ取られる可能性があるからね!」
ディは早速、03を浄化した時のスキル、ディーノを発動しようとする。わたしたちは、ディとヤツから距離をおいて事の次第を見守ることにした。イリヤンの時のように身体を乗っ取られてはたまらない。何よりもこれからって時に、こんなキモいヤツに乙女の身体をもてあそばれるのは考えただけで鳥肌が立つ。
「おやおや、随分と警戒されたもんだ。でも、ワシはそんなに簡単に消される訳にはいかんのだ。もっとも、そんなことは不可能だがの・・・」
ヤツは何やら自信があるのか?二人の動向に注視しながら、わたしは密かにアイちゃんに奴の分析を頼んでおいた。もっとも、ゼータにはわたしの考えていることは伝わってしまうようだが、アイちゃんの存在を隠すことよりも目前の敵のことを知ることの方が重要なのは間違いない。
それにしても、解らないのはカイというゼータとニューの子だ。成長速度は常軌を逸しているが、通常の気とは異なるものをわずかに感じる・・・
わたしが無限竜魔気というオンリーワンの気の持ち主だからこそ、異質の気は敏感に感じるのかもしれない。
魔気でもなければ波気でもない。王気や新王気でもない。これがもしかして神の気なのか?だが、ゼータはペルセポネーの子だが、魔気を使っている。それは、敢えて神の気である王気を抑えて魔気を使っているのかもしれない。
王気を使えば、それを察知して03がやってくるかもしれないからだ。
だが、カイはどうなんだ?もし、これが王気であるならば、ゼータがそれに気付いて注意するなり、修正するなりするだろう。
確かに微量な気ではあるが、これをゼータが気付かないとは思えない。さすれば、これは王気ではない新種の気なのか?
無限竜魔気が突然変異種であるならば、神の子ゼータと新王気まで経験したカイの生まれ変わりであるニューの子だ。突然変異種の気が生じても何ら不思議ではないだろう。
まぁ、とりあえずカイの動向は時折確認するとして、ここはディーノによるヤツの消滅を見届けなければなるまい。
ディは無言でスキルを発動する。
03を消滅させたときはスキル名の発信は行っていた。それを無くしたということは、余程スキルに集中しているに違いない。
スキルが発動し、ヤツに直撃したとわたしたちは認識した。それと共に安堵し、無意識に警戒心は少し解除されたかもしれない。
しかし、周囲の視界が開け始めるとわたしたちは無言になった・・・
何とヤツは何事もなかったごとく、ケロリとしていたのだった。
「バ、バカな・・・ディーノは直撃したハズだ。ナゼ浄化されないんだ?03の時は確かに浄化の効果はあった。こいつには無効なのか?」
ディが驚くのも無理はない。わたしたちも寸前まで見届け、スキルの直撃を確認したからだ。
「だから言ったじゃろ?浄化など不可能だと・・・だが安心するが良い。ワシの目的はお前たちの身体をもらうことではない。別の目的がある為に今ここにいる。だからそんなに警戒するでない。」
ヤツの目的がわたしたちの身体ではない?精神生命体のヤツは依代が無ければ、大した行動が出来ないハズ・・・じゃあ、一体何が目的なのだ?
《レイ、ワレの予測演算では百%の確率で、ヤツが時間操作をしたと出ている。故にヤツはクロちゃんと同じスキルを持っている。つまり、つまりだ・・・ヤツはクロちゃんから生み出された邪神で間違いない。》
な、なんてこった・・・
あんなに出来た人物、いや神のクロちゃんからこんな邪神が生まれてくるなんて・・・
邪神ってのは、ある条件を満たすと生まれるものなのか?まだ二体目の邪神しか確認できていないが、そんなに数はないんじゃないか?
《ワレの予測演算では、邪神とは恐らく後悔の念が強まった時に生じる心の中の闇が自我を持ち、暴走したもの・・・03は、今までのデータから察するにゼウスから生み出されたもの。厄介だね・・・神撃を使う者と時間操作が出来る者がいるとなると・・・》
そんなことって・・・
カイが転生したニューが、それを知ったらどんな気持ちになるか・・・
もっとも、わたしの心はゼータが読める。覚醒魔人同士のゼータとニューは考えが伝わる。即ち、わたしの心はニューに伝わってしまう・・・
故に、ニューの気持ちは尋常ではないだろう。
わたしはニューをちらりと見る。瞳を閉じ、両手の拳をギュッと握りしめ、歯を食いしばっている苦悶の表情だ。
やはりな・・・
そうだよな・・・
お前は何も変わっていない。あったかい相棒だ・・・
わたしは嬉しいぞ。何が正しいか、どうしたら最善かを考え、今後も共闘したいものだ。
「まだ自己紹介がまだであったな・・・ワシは02。恐らくワシの正体は、察しが良い者ならば予測しているだろう。時の神、クロノスから生み出された者だ。ちなみに、01は既にお前たちと遭遇してるがな・・・」
最早、驚くことは必要あるまい。邪神の存在自体が常識を逸しているのだ。全てを受け入れて、冷静にことを見極めなければな・・・
《レイ、01って恐らくアイツだよ。でも、アイツが敵だとは完全に予測演算外なのよね・・・今は出てきてないからレイには教えないケド、まぁ出てきたら厄介だわ。》
アイちゃんがそこまで言うとは・・・
気にはなるが今は必要ない情報なのだろう。今のわたし達に必要な情報だけあれば良い。
とりあえず、02と03は敵であり、時間操作と神撃が使える厄介なヤツだということだ。
わたし達は硬直した状態で時が過ぎていく・・・
しばらくした後に空間に異常な魔気が生じ、上空を見上げると何とセスが出現したのだ。
イヤ、正確にはセスの姿をした03が・・・
「お待たせしたね。やっと、この身体が馴染んだから亜空間からこちらまでやってきたよ。」
先程、セスの位置を探った所、ここからかなりの距離にいたはずなのにナゼ?
もしかして、亜空間転移が可能なのか・・・?
亜空間転移とは、亜空間とこちらの空間を反転させ、転移する高等スキル。
これならば、どんなに離れている亜空間からでも一瞬でこちらの望んだ空間に転移出来るのだ・・・
これは高等スキルで、かつてゲンから教えてもらったことがある。わたしは、自らの剣身で空間を切り割き、亜空間からこちらの世界の望んだ場所へ移動することが出来る。
しかし、これは異常であり、どうやら高等スキルらしい。通常は亜空間からこちらの世界へ転移する場合、思った場所には転移出来ないということだ。
亜空間とは、こちらの世界とは別物なので、亜空間からこちらの世界に転移する場合、一番近い場所にしか転移出来ないらしい。
《これでハッキリしたね・・・02の目的は我々の足止め。03の身体が馴染むまでの時間稼ぎと我々の場所を指し示していたということ。レイ、これは厄介だよ。》
アイちゃんから言われるまでもない。神撃と時間操作・・・同時に仕掛けられたら対応は非常に困難だ。




