第五十話 マジカヨ①
ここは魔界のどの辺なのだろう?
魔界といっても広大で、スティール星のような場所もあれば、暗黒空間リアトリスのように闇に覆われた場所もある。
今いるこの場所は何とも心地よい。こんな場所が魔界にあったなんて、正直驚きである。
空気はある程度澄み渡っていて、気温湿度はまぁ快適。小鳥のさえずり、一部の草木は青々としていて、近くにある池はある部分のみ下まで見渡せるほど無色透明なのだ。
今のスティール星とは雲泥の差、神界には行ったことはないが、きっとここよりも快適なのだろう。
わたしたちの拠点であるスティール星や魔界を含め、今やメタル系の星々ほとんどが自然を失っている。
オゾン層破壊、温暖化、異常気象、地殻変動、地盤沈下、土壌汚染、海洋水酸性化・・・問題をあげたらきりがないほどだ。
今はまだ意識が戻っていないイリヤンは、これらの諸問題を少しでも改善しようとティの弟子になった。まぁ、すぐにわたしに興味が移り、実際ティの指導はほぼ無かったものの、彼の自然愛は感じられた。
03はそんな純粋なイリヤンの身体に入り込み、ティナ、リン、キールの三竜姫とセスを計画的に手中に収めた。
そして、今はセスの身体を依代にして絶対領域には三竜姫が幽閉されている。アイちゃんの予測演算では、絶対領域はイリヤンのスキルであり、イリヤンが死ぬまでは隔離され、その内部は永遠に生存可能なゾーンだとか・・・
まぁ、三竜姫は元々不老不死だから、死ということはよっぽどのことが無い限り有り得ないのだが、問題は絶対領域は外部からは感知出来ないということだ。
アイちゃんいわく、ロゼオンを使ったとしても探し出せる可能性は十%くらいらしい。
絶対領域というスキルは、生と死を司るペルセポネーの加護を受けたイリヤンのアクティブスキルなのだろう・・・
何とかして、一人の犠牲者も出さずに皆を救わなければな・・・
「キミ、面白いね。」
「え?」
思わず物思いにふけっていたが、声のする方を見るや否や、絶世の美少女がニッコリと微笑んでこちらを観ていたのだった。
「何が面白いんだ?あんたは誰なんだ?」
「オイオイ、レイ。この人がグランドマスターで、アタイのメドゥーサを錬金術で魔槍にしてくれた方だよ。失礼なことを言うなよな。」
「あたいの連れが失礼しました。グラマスにどうしても会わせたいので、勝手ながら連れてきてしまった次第です。」
ティとディが慌ててフォローしていたが、こんな可憐な人が、偉大なる波の力の頂点を極める者なのか・・・
そして、その近くには少年が二人いて、こちらをジッと見つめている。
「うん、全て解っているよ。アタシはゼータ。生命の力を持ち、波の力のグランドマスターを任されている者。こっちの二人はアタシの旦那様と息子ちゃんよ。」
《チョッとレイ!大変よ!さっき、セスの雰囲気の個性を調べた時の位置がここなのよ。この三人の中にセスの本体がいるんじゃない?》
え?そんなことって・・・
アイちゃんが珍しく慌てて報告してきたので、わたしも驚きを隠せなかった。
会おうと思っていたセスの本体がまさかここにいるなんて、思いもしなかったからだ。ここは落ち着いて雰囲気の個性を使ってみよう。
え?この女性がセスの本体なのか・・・
雰囲気の個性を使ってみたが、間違いない。全く同じ雰囲気の個性がもう一つ、亜空間内に存在を確認した。
ゼータって言っていたよな・・・
覚醒魔人ゼータか・・・
「え~!!!」
今度は何だ何だ?ティの驚いた声が高らかに響き渡る。
「お前、カイじゃないか・・・死んだんじゃないのか?何でこんな所にいるんだ?」
は?カイ?
わたしはゼータに気を取られていたが、近くにいる男性の一人がカイにそっくりだったのだ。
試しに雰囲気の個性を使ってみたが、かつてのカイとは雰囲気の個性とは重ならなかった。じゃあ、魔眼でサーチしてみるか・・・
魔眼でカイをサーチしてみたが、ヒットはした。今まで定期的に幾度となくカイの名を魔眼でサーチしてみたが、ヒットしなかったのに・・・
だが、カイの名で魔眼が指し示したのはカイと瓜二つの少年ではなく、その横にいたもう一人の少年の方だった。
一体、どういうことなんだ・・・
わたしは混乱してしまった。
グランドマスターで覚醒魔人のゼータ・・・
ドッペルゲンガ―、カイと瓜二つの少年・・・
カイという名を持つもう一人の少年・・・
一度に三人の重要人物と出会ってしまったのだ。無理もない。
ディだけは、何のことやら訳も分からずキョトンとしている。
落ち着いてニッコリと微笑んでいるゼータが口を開く・・・
「どうやら、レイとキャンティとはご縁があったようね。キャンディは、メドゥーサを大事に使ってくれている様で嬉しいわ。今から全てを話すから聞いていてくれるかな?」
一同がコクリと頷いたが、このゼータがディのメドゥーサを錬金術で魔剣から魔槍に変えたっていう人物だったとは・・・しかも、波の力の頂点に立つ人物って、どんだけスゴいんだ。
「あら、そんなことはないわよ。錬金術は、よっぽど気になることがあった時しか使ってないし。それに、メドゥーサは何とかしなきゃならない一品だったから・・・」
もしかして、わたしの心が読み取れるのか?念波が成立していない以上、そうとしか考えられない。
「アタシは覚醒魔人ゼータ。かつては神界でザグレウスと呼ばれてたの。母は生と死を司る神ペルセポネー、父は母の父ゼウス。母の父もゼウス・・・そう、アタシは禁じられた交わりで生まれてしまった存在。だから、神界を去り、過去を捨ててこの魔界に来たの・・・そして、大魔王に覚醒魔人としてのポジションをもらい、生まれながらにして持っていた生命の力でこの周辺の一部だけは自然を復活させた。アタシは一ヶ所に留まることをしなくて、あちこちに拠点を移していたんだケド、訪れた場所は同じようにほんの少しだけ自然を復活させてきた。ホントはこの腐敗した魔界全てを快適な自然にしたかったけど、アタシの力量ではそれはムリだった・・・いつしか、波の力の頂点を任されるようになり、グラマスと呼ばれる存在になっちゃった。波の力を使っての錬金術はあらゆることを可能にしてきた。ここにいるニューは元々石だったのよ。最近出会ったばかりだけれど、面白い石だったから錬金術で人化させたの。」
「俺の名はニュー。覚醒魔人だ。今、ゼータが言ったように俺は石ころだった。イヤ、気が付いたら石ころだった・・・という方が正しいだろう。俺は一度命を落としている。そう、八百年前の厄災超星獣ストロームによって・・・レイちゃん、キャンティ、久しぶりだな。とは言っても、俺は前世の自分の名前だけはどうしても思い出せなかった。それ以外のことはほとんど覚えているのにおかしいだろ?ニューって名前は俺が考え、ゼータが名付けをしてくれたんだ。まぁ、名前が思い出せないというよりかは、思い出さない方が良いと捉えている・・・それにしても、ゲンやヴァン、リン、キールの雰囲気の個性が感じられないな。ティナは転生出来たのか?」
「えっと・・・ニュー、久しぶりだねっていうのも何か違う気がする。お前の雰囲気の個性が全く別人のものに変わっているからな・・・外見は全く前世のカイと同じだし、昔のことも覚えてくれている。何か不思議だ。ティナは転生したが、昔の記憶はなく天空の力も見られなかった。ティナ、リン、キールは03っていう邪神に取り込まれたようだ。ヴァンとゲンは・・・憶測だが、惨殺されたと思われる。わたしたちは現状、抗える力が足りていない。だから、グラマスに会いに来たのだ。」




