第四十九話 カイキン④
そんなこんなで、あっという間に日は過ぎていった・・・
「あなた・・・起きてよ、あ、な、た!」
ゼータの声で目を覚ます俺。
いつもなら、俺のすぐ近くにピッタリとくっついている彼女であったが、今日に限っては間があった。
「おはよう、ゼータ・・・今日は少し離れて寝てるね。何かあったの?」
俺の問いかけに何も言わない彼女・・・
ふと視線を下げると、いつもはない小さな何かが目に入る・・・
「え?何?ウソだろ?・・・もう産まれたっていうのか?」
そう、俺と彼女の間には小さな命が誕生していたのだ。
フツーは陣痛があってとか、数時間、イヤそれ以上の時間を要し出産が完了する・・・という俺の中での常識が見事に崩れた瞬間であった。
「ウフフッ・・・意外だったでしょ?覚醒魔人はね、出産が早いのよ。だから、あっさりと出産イベントは終わるの・・・元気な男の子でしょ?それにもう既に波の力を持っているよ。」
「そ、そうなんだ・・・意外過ぎて言葉も出てこないよ。だから、もう何があっても驚かないよ。生まれながらにして波の力を持っていても、当然じゃない。だって、俺とキミの子なんだから・・・」
彼女は微笑みながら、俺にキスをする。俺もそれに応えて、彼女をそっと抱きしめる。
間には小さな命があるので、配慮しながら・・・
「ねぇ、この子の名前なんだケド、考えてくれた?アタシはもう決めてるよ。」
「あぁ、俺も決めている。実はキミに妊娠を告げられた時に決めていたんだ。だけど、すぐに言えなくてダミーで十個くらいの名前を考えちゃった・・・だって、俺の考えていることはキミに筒抜けだからさ。」
「今は違うよ・・・出会った頃は、アタシが覚醒魔人であなたは石だった。錬金術で人化することは成功したケド、それでもアタシの方が上位的存在だった。でもね、今はお互いが覚醒魔人同士で立場は互角・・・そして、二人の間に子供も出来た。子供が出来るとお互いの絆が強まり、お互いの念波が成立するのよ。だから、アタシの考えていることがあなたにも伝わる・・・ね、サイコーでしょ?」
ゼータはニッコリと微笑み、再び軽いフレンチキスをする。
俺も笑顔で応え、互いの絆の強さを認識した。
だって、ゼータの心の声が聴こえてきたのだから・・・
そして、互いが考えた子供の名前は「カイ」であった。俺には前世の記憶がほとんどあるが、前世の名前だけ記憶がない。自然と我が子の名前を考えた時に、フッと天から名前が降ってきたのだ。
だから、カイという名前が俺の前世のものであったとは全くもって知らぬことであった。そう言う訳で、前世の名前を我が子につけたのではない。
一方のゼータも俺と同様に、天から名前が降ってきたという。
これは偶然ではなく、必然・・・
俺が石ころに転生し、ゼータと出会い、人化してもらい、子供を授かったのも全て必然。
さて、この必然がもたらした我が子、カイがどのような人生を送るのか、周囲にどのような影響を与えるのか大変楽しみである。
《レイ、待たせたね。カイザースラッシュの予測演算が完了したよ。あとは、レイが念じればワレが補助に入り、スキルは発動出来る。まぁ、疑似スキルだけど、無限竜魔気との相性は良いと思うから、オリジナルにも劣らないんじゃないかな。》
流石はアイちゃん・・・あの高等スキルのカイザースラッシュを使えるようにしてくれるとは、感謝感謝。
さて、お次はどうするか・・・
わたし自身の戦力アップは、このまま継続して行うとして、先の展開を見越して行動しなけりゃな。
《それならさ、03の居場所をあらかじめ探っておいたらどう?当然、ヤツは移動していくだろうけど、その行動の軌跡に次の目標が見えてくるかもしれないよ。》
アイちゃんのアドバイスはごもっともだ。
敵の情報はいくつあっても困らない。むしろ、知らないことの方が脅威である。01や02がもし存在するならば、どこかでコンタクトを取っているかもしれんしな・・・
わたしは雰囲気の個性を発動させる。
魔眼でも良かったのだが、セスという名の人物が他にも有り得そうだったので、やめにした。ムダな時間は極力削減して、邪神という巨大な敵に対応していくのだ。
ん?あれ?おかしいぞ・・・
03の雰囲気の個性と同じ雰囲気の個性がもう一つある・・・
正確には03の雰囲気の個性というか、セスの雰囲気の個性といった方が正しいな。イリヤンの時もそうであったが、03が前面に出た時は独特の雰囲気の個性なのだが、内にこもった状態の時はイリヤンの雰囲気の個性しか感じなかった。
これがもしかして、絶対領域というヤツなのかもしれない。今は全く03を感じないからだ。
え?て、いうことは・・・セスが二人存在するのか?
待て待て、良く解らなくなってきたぞ。落ち着いて物事を捉え、対応していかなきゃな・・・
カイならば、それが出来ていた。わたしも彼を長らく見てきたのだ。そのように真似ることは出来る・・・かもしれない。
《レイ、そんな時こそワレを頼りにしてよね・・・前にも言ったけど、誰かがニャンをコントロールしているっていうの覚えている?》
《あぁ、そんなことを言ってたよな。あの時はよく解らないことは、後回しの案件にしちゃったが・・・》
《それでね・・・ニャンをコントロールしていたのが、もしセスの本体だったら?って考えてみて・・・そしたら、その本体とセスが同じ雰囲気の個性であっても、何ら不思議ないよね。つまり、セスの本体はニャンをコントロールして、セスの記憶の一部をニャンに移し替えていた。そして、ニャンをコントロールすることにより、セスと三竜姫の出会いを阻止しようとしていた。これによって、自らの大いなる力を狙う輩から我身を守っていた・・・どう?この予測演算は?確率で出したら、九十七パーセントの可能性だって出てるんだけど。》
そうか・・・いつもながら、アイちゃんの予測演算は素晴らしい。セスと三竜姫が一緒にいたら、今回みたいにその力を狙われちゃうもんな・・・
雰囲気の個性により、一つは亜空間にセスの存在が確認出来た。こっちは、わたしたちが共に行動していたセスだろう。
恐らく03によって亜空間に放置され、さまよっているに違いない。可愛そうだが、今はこちらの体勢を整えるのが先決だ・・・
じゃあ、もう一つのセスの雰囲気の個性が本体の居場所ってことになるな・・・
セスの本体、会ってみたいし、邪神から守ってやらねばならない。セスに自らの能力を分け与えていたとするならば、本体の能力はダウンしていることも予測される・・・
さて、問題がある。アイちゃんとのやり取りはキャンティたちには公には出来ない。どうしたもんだか・・・
わたしが単独でもう一人のセスの元へと赴くか・・・
それとも、何食わぬ顔で皆を引き連れて、もう一人のセスの元へと赴くか・・・
ええい、あれこれ考えていても仕方ない。ここは、キャンティとキャンディを引き連れて、もう一人のセスの元へと行こうではないか。
わたしが、二人を引き連れる理由を考えているとキャンティからとある提案をされたのであった・・・
「なぁ、レイ。お前、波のマスターであるグランドマスターに会ってみたくないか?」
「え?何?グランドマスター?グラマスって、何かスゴく偉い人のような感じがするんだケド、わたしなどが会ってくれるのか?」
「めっちゃ美人でさ、心優しき覚醒魔人だよ。それに強さでいったら、魔王様を凌駕するとも言われている。何でも大魔王様がどこからか引っ張って来て、頼み込んで覚醒魔人になったっていう噂もあったくらい・・・名はゼータ。アタイのメドゥーサを錬金術で改良してくれた人物でもある。ねぇ、会ってみたくはないか?」
キャンディとキャンティの二人がグラマスとやらに会うことを提案してくる。物と気の頂点の二人が認めているグラマス、しかもあのメドゥーサを変革させた錬金術を使う者・・・会ってみたい、いや会うべきだろう。
しかし、セスの本体と接触するのも大切なことだ。さて、どちらを優先するか・・・
わたしが悩んでいるとアイちゃんがアドバイスをくれた。
《レイ、今回はグラマスに会いに行った方が良いと思うよ。理由はティとディの二人が勧めているから・・・》
《え?それだけの理由で?セスの本体の方はどうするの?後回しでも問題ないのかな?03に先を越されて、本体まで手が及ぶようなことにならなきゃいいんだケド・・・》
《それなら大丈夫。ワレには解るのよ。03にはサーチ能力がないと。つまり、他力本願タイプなのよ。今回は狙ってことが運んだ訳じゃない。そもそも、狙った人物を探し出せるなら、はなからティナをターゲットにしていたハズ。イリヤンに取り込み、身近なティナとセスを狙ったのを考えたら解るよね?》
《あぁ、そう言われりゃそうだな。ましてや今は亜空間で奴は準備中だ。こっちの世界にはすぐには出てこないだろう。》
相変わらずアイちゃんは素晴らしい。わたしのフォローをしっかりとしてくれる。もし、アイちゃんが今いなくなったら、わたしだけでは選択と決断に躊躇してしまうのは間違いない。このシステムを構築したキャンティには頭が上がらないな・・・
そういやアイちゃんは、キャンティとキャンディのことをティとディって呼んでいたな。ティのことは今までマスターって呼んでいたのに・・・わたしもそう呼ぶとしよう。短い方が呼びやすいし、親近感もある。
「そうだな・・・二人がそう言うのなら、グラマスに会いにいってみるか。ディ、グラマスの居場所は解るんだよな?」
「それがさ・・・普段は幾重にも特殊結界を張っていて、自らの存在感を消している。気の発散すら抑えているんだ。だから、普段なら居場所は解らない。だけどね、今は何でか知らんけど気が発散されていて居場所が解るんだ。何かグラマスにとっての変化があったのかもしれないな・・・て、今アタイのことをディって呼んだか?ティしかアタイのことをそう呼んでいなかったのに・・・」
「あ、イヤなら止めとくぞ。わたしにとってティとディは欠けがいのない存在。親しみをもってそう呼ぼうと思ったのだが・・・」
突然、ティとディがわたしをギュッと抱きしめてきた。余程、嬉しかったのであろう。そのあとにティとディが何やら言っていたが、わたしの耳には入らなかった・・・というよりも、いつもキリッとしていた二人が想定外の緩んだ表情をしていたのだ。あまりにもおかしくて、そちらに意識が集中していたのだ。
「それじゃあ、今から移動するぞ。人数が減ったが、三人の方が移動しやすくなったと思うとしよう。何事もポジティブ思考でいかなければな・・・」
わたしたち三人は頷き、ディの空間転移でグラマスの元へと向かうのであった・・・
空間転移は一瞬で完了するとても便利なスキルだ。
かつてゲンは、その器用さをフル活用していともカンタンに行っていたが、実際は気のコントロールがとても困難である。
そこはキールのサポートもあったのだろうが、センスというものが必要不可欠だ。ヴァンには決して出来なかったであろう。
だからこそ、ヴァンには物の力、ゲンには気の力、カイには波の力が必然的に集まってきたと思われる。
わたしは器用な方ではないが、心の力とアイちゃんのサポートで空間転移は出来るようになっていた。
カイの存在が消失し八百年が経過し、ゲンとヴァンの雰囲気の個性も感じられない。有能な人間が次々と犠牲になっていく・・・
アイちゃんの予測演算では、物・気・波のプラスとマイナスの力を掌握し、それを何らかの目的の為に行使する為に03は行動したということだ。
恐らく、全てのボディが完全に揃えば、肉体もかなり強固なものになるであろう。理由としては三つの大いなる力を余すことなく活用するには、かなりの強靭な肉体が必要だからだ。
それは恐らく、魔族や人間、妖人などの一般の生命体を完全に凌駕した神レベルのボディでしか不可能という計算だ。
そんな奴が、一般生命体が持つ魔動石の力を欲するとは思えない。故にゲンとヴァンの命もスキルも不必要ということか・・・
こんな状況の中、わたしはふと思いついたことがあった。
それは、イプシロンやアルファ、ブラールなどの力をわたしに託してくれないかと頼むということ・・・
ほとんどの魔動石は託された者が死ぬと、託した者へとリバースされるという。
つまり、ゲンヤヴァンが死んだ段階でブレスにあった魔動石は全て元のマスターの元へと返還されるのだ。
極々まれに死しても魔動石はそのまま死者の元に留まることもあるらしいが、それは石のマスターである魔族の意思らしい。
特に無限防御やインパクトスキルは魅力的だ。それらのスキルが使えるとなれば、バトルの選択肢や勝算も上がるというもの・・・
一瞬、心が揺れ動く・・・
もしかしたら、三大無限が手中に入るかも・・・
わたしが持つ無限の気、イプシロンが持つ無限防御、そして今は叶っていないが結合魔動石の無限の力が全て揃えば、とんでもないことになるのでは・・・
深く呼吸し、冷静になった。
何を考えているんだ、わたしは・・・
石の力は託した者と託されし者のいわば【絆】じゃないか・・・
その絆があるからこそ、他者の介入は不可能。故に一度に複数の絆は有り得ない。
一つのスキルは、一人のブレス持ちの者へと魔石や魔動石を絆の証として託される。
そんな何ものにも変えがたい絆をすぐに他者へとホイホイ託せるものか。
だからこそ、マイちゃんやティがわたしに魔動石を託してくれなかったと今更ながら気付く・・・
わたしは考えが浅く、愚かであったな・・・
アイちゃんは何も言わなかった。イヤ、わたしがこのことに自ら気付くことを望んでいたと思う。
身体やスキル、戦術の成長は他者から与えられることもあるだろう。しかし、心の成長は自らが気付くことでより大きくなるものだ。他者から与えられた心の成長はたかが知れているし、今後に繋がらない。
《レイ、よく気付いたね。そういった人の想いを配慮したりすることが重要なのよ。自らのことしか考えられない者は絶対にうまくいかない。物事はwinwinのみ真なる成果を出すんだからね。》
アイちゃんは、やはり出来た子だ。
流石、AIとは思わない・・・
わたしの全てをティが作ったのだ。
彼女の想いが、アイちゃんに全て反映されている・・・
ティはスゴイな・・・
わたしが男であったら放っとかないぞ。
もし、わたしの中のゼロの奴が前面に出ていたら、ヤバかったかもしれんな・・・
わたしはほくそ笑み、天を仰いだ・・・
そして空間転移が完了し、遂にグラマス・・・波の力のマスター、ゼータと対面する・・・




