第四十八話 ニンカツ⑤
わたしはセスの鮮血を含んだ口を黒焦げになったニャンの口に重ねて、それを飲ませる・・・
わたしにとってのセカンドキスであったが、命の恩人・・・イヤ、命の恩猫に対してすることに何のためらいもなかった。
頼むニャン・・・
届いてくれ・・・
そして、戻ってこい・・・
私たち全員が静観する中、アイちゃんが先程の件を説明してくる。
《実はね・・・セスとティナは同じ遺伝子情報をもっていたのよ。つまり、同一人物・・・というか、恐らくセスからティナが分裂されたって考えた方が自然かな?だから、セスの血はティナの血と同じって考えられるでしょ?だから、きっとニャンは復活するよ・・・ちなみに三竜姫である他の二人、リンとキールも遺伝子情報は同じ。セスから三竜姫が分裂したんだね。そして、ニャンは何者かによってセスの記憶を移された器・・・》
え?チョッと待って・・・
ティナ、リン、キール、セスが同じ遺伝子情報を持っていた?
つまりは、同一人物?
じゃあ、何か?・・・
過去のティナの一族は歴代のカイと結ばれていた・・・
これって、カイの相手は別にキールやリンでも良かったんじゃないの?
《レイ、そこはね・・・セスが与えたスキルが影響しているんだよ。ティナは波、リンは物、キーツは気のスキルを持ちあわせていた。これって、全てはセスの力を分け与えていたってことだと予測演算では出ているの。だから、セスは女性としての機能が無いんじゃない?生殖器や女性特有の胸、排出機能は全てセスの物を三竜姫に分け与えてしまった。それだけの代償を払ってでも三竜姫に力を与えたかったんだね。だから、波の力に特化したカイの相手にはティナしかダメだったんだよ。》
そうか・・・
そんな秘密が彼女たちにはあったのか・・・
だからか・・・
ニャンがティナにだけ懐いていたのは・・・
セスと同一の遺伝子情報、つまりはセスと同じものを感じていたんだな。
でも、セスはそのことは記憶には無かったのか?そんな重要なことなのに・・・
《そこはね・・・ニャンが深く介在していたと思われるよ。ニャンの思考を探ったら、セスの記憶の一部はニャンに移されていたの・・・そして、ニャンはセスの行く場所をコントロールしていた。そう、三竜姫と接触しないように・・・イヤ、そう行動するように命じられていたという方が正しいのかもしれない。》
ナゼ、三竜姫とセスは接触しちゃいけないんだ?元々、同じ身体から別れた身なんだから、気持ちが引き寄せ合うのは当然じゃないのか?
《うん、そうだよね。でも、解るヤツには解るんだよ・・・同じ遺伝子情報をもった人物が複数同じ場所にいたら、おかしいって・・・》
そうか・・・
もし、ティナの竜水晶を狙ったヤツが、この秘密に気付いたら・・・
あっ・・・三竜姫とセスが狙われるんじゃないか?
《そこなんだよ・・・ワレが危惧している所は・・・そして、ニャンをコントロールしていた人物こそ、セスの本体だと予測演算では出ているのよ。》
え?ウソでしょ・・・
セスが本体じゃなくて、更なる本体がいるのか?・・・
まぁ、アイちゃんが言うように本体がニャンをコントロールして、分身体のセスを更に分身させて三竜姫を誕生させたとしよう・・・
でも、一体何のために?・・・
《ワレはこう思う・・・本体はきっと、とんでもない力をもった人物。その膨大な力を悪しきことに利用されない為、若しくはその力を使うことに嫌気がさした為に力を分断した。波のプラス、物のプラス、気のプラス、そして物と気のマイナスという風に・・・残りの波のマイナスは自らに残して・・・》
力の分散か・・・
確かに、前世のティナの天空の力は凄まじかった。リンやキールの力もまた然り・・・
そうか・・・
キールは亜空間や異次元、リンは精霊界、ティナはスティール星を拠点に行動していくようになっていった・・・
これも予め計算されていたとするならば、三竜姫の行動範囲は各々別になる。
つまりは、遺伝子情報が同じ人物が一緒にいるということが無くなり、悪者に悟られない。
それが本体の思惑なのか・・・
そして、ニャンは見事に復活した。
泣きじゃくって、喜ぶセス・・・
イリヤン、キャンディ、キャンティも温かい眼差しでその光景を見守る。
だが、この時に異変が起きたのであった。
セスの血をその身に吸収したニャンから、何かしらのオーラが流出し、セスへと吸収される・・・
「こ、これは・・・」
セスが頭を抱え、何やら呟く・・・
状況が見えないわたしたちは、ただ静観するのみ・・・
一時経過し、ニャンとセスの間で行われていたオーラの対流も完全に終わった。
セスは周囲を見渡し、口を開く・・・
「皆・・・色々と迷惑をかけた。すまなかった・・・」
いつものセスと違った雰囲気と口調・・・何かが起こったとしか思えない。
「失われていた記憶が全て戻った。我こそは神の使いセス、我愛娘たちはどこだ・・・」
セスはそう言うや否や突然、己の気を高めていく・・・
「何だ、何だ?」
キャンティが驚くのも無理はない。
セスの周囲は明らかに、高レベルの波の力を感じたからだ。
何かのロックが解除されたのか?
《レイ、セスは今まで物と気のマイナスパワーしか出してこなかった。だけど、ニャンに自らの血を与えたことが引き金になって、ニャンに預けてあった記憶が全て彼女に戻ったみたい。この波のエネルギーは無限竜魔力に匹敵するよ。》
突然の出来事で驚きはしたが、それよりも神の使いって何なんだ?それに我愛娘たちって、もしかして三竜姫のことを言っているのか?・・・
セスは、今まで放出していた波のエネルギーを抑え込んだ。静かなる魔人という表現が正しいかどうかは解らないが、わたしには感じられる・・・
彼女の表皮には、極薄の波のバリアがまとわれているのだ。そして、その質は極めて高い。仮にわたしの一閃を王気で放っても、貫通出来るかどうかも怪しい。
《よ、待たせたな。ティナの気がどこに行ったのか探ったぞ。見えるか?軌跡が解るようにティナの気をマーキングしておいたんだが・・・》
ファイから念波が送られてきた。どうやら、頼んでいたティナの気の行方が判明したらしい。ここにいる全員にその内容は伝わった。軌跡とやらが何なのか解らなかったが、ティナの部屋から何やらマーキングらしきものが、こちらへと続いている・・・どうやら、これのことのようだ。
その軌跡を辿っていくと、何とそれはイリヤンに向かって収束していたのだった。
「え?これって、どういうこと?」
キャンティが驚くのもムリはない。わたしもこの軌跡の意味がよく理解出来ないでいたのだから・・・
「フッ・・・ボクの計画を邪魔しやがって・・・」
イリヤンから、彼ではない声が発せられた。
セスは次の瞬間、行動に移る・・・
圧縮した波の力を拳に集中させ、それをイリヤンに向かって放ったのだ。
「チョッ、チョッと、セス何の真似ですか?」
イリヤンは慌ててしゃがみこみ、間一髪でその拳を交わす。
「ほぅ、うまいことかわしたな・・・だが、次はそうはいかん。」
セスは再び、イリヤンに向かって突進する。そして、無数のジャブをイリヤンに向かって放つのであった。
わたしたちは何でこうなってしまったのか、事態の急展開についていけなかったが、キャンディが間に割ってイリヤンの盾となった。
激しい爆音が周囲に鳴り響き、セスの拳と魔槍メドゥーサが一歩も引くことなく交わっている。
「何のつもりだ、キャンディ・・・我の邪魔をするな。」
「一体どうしちまったんだ?セスらしくないぞ。言葉使いもガラッと変わっちまったし、気の質も変わっちまった。そして、この波の力・・・オーラマスターのアタイじゃなかったら、受け止められないよ。」
「我は何も変わっていない。本来の状態に戻っただけだ。お前を傷つけたくはない。手出しは無用だ。」
一体、どうなっているんだ?イリヤンが何かをしたっていうのか?あいつは非力で、未だにスキルも開放出来ていない未熟な身だ。
だが、先程彼の中から、彼ではない声が聴こえたのも事実・・・
もしかして、何者かに身体を乗っ取られたのか?
《この感じ・・・イリヤンの中から、さっきまで全く感じていなかった03を感じるよ。何で?何でなの?・・・ヤツはキャンディのディーノで消滅したハズなのに・・・》
次の瞬間、セスは身体から激しい閃光を放ち、わたしたちの視力を奪い去る・・・
セスの気はハッキリと解るので、位置の特定は出来ていたが、何をしようとしているのかは把握出来ない。
「イリヤン・・・イヤ、この感じは03だな。邪魔はもう来ない。覚悟をしろ。」
どうやら、イリヤンとセスは近距離でいるらしい・・・このまま、わたしたちは何もしないで良いのか?
「ちぇ~バレちまったら、どうしようもないよね・・・折角、利用しやすい身体だったけど、そろそろ潮時かな。」
イリヤンの身体は黒いオーラを放ち、威圧感を出してきた。これはまさしく、03そのものだ。
「イリヤン、イヤ03・・・お前はアタイのディーノで消滅したハズだろ?何でそこにいるんだ?」
「え?あぁ、ボクは確かに君のスキルで消滅しかかっていた。だけどね、丁度タイミング良く素体が近くにいたから憑依させてもらったんだよ。イヤぁ、あの時は近くにこの素体が無かったら、確実に消滅していたよ。お蔭で目的の三竜姫を手に入れることが出来たしね。」
「あの時、神撃二でティナを狙ったのもお前なのか?」
わたしは問うた・・・
ティナが、神撃二で打ち抜かれたことを確認する為に・・・
「あぁ、確かに僕は神撃二で彼女を撃ち抜いたよ。でもね、あの時はこの素体じゃなかったんだ。もっと虚弱な素体だったから、うまくコントロールが出来なくて狙いがズレちゃったし・・・そこで、この素体がタイミングよく手に入ったって訳。納得いく身体じゃないケド、前の身体よりも利点があったからね・・・」
「三竜姫が手に入ったって・・・ヴァンやゲンはどうしたんだ?二人の雰囲気が全く感じられない。それに三竜姫は一体どこに・・・彼女たちの雰囲気も感じられない。答えろ!」
わたしはイラッとして思わず、言葉を荒げてしまった。
こういうときこそ、冷静に状況判断しなければならないが、その役目はアイちゃんに託す。
かつての戦友が消息不明なのだ・・・
この状況下で冷静でいられるほど、わたしは出来た者ではない。
こうして謎多きまま、激闘は更に激しい展開をみせる・・・




