第四十一話 ジレンマ③
ものの一分でブレスは我の右腕に装着が完了し、我と彼女はホッと胸をなで下す。
「良かったです。ホントに良かった・・・」
彼女は薄っすらと涙を浮かべながら、爽やかに微笑んでいた。
彼女もプロとしての誇りがあったのであろう。何とも可愛らしいスマイルで、自然と我もスマイルになっていた。とにもかくにもこうして我は無事にブレスをゲットしたのである。
「あ、ブレスの説明はしますか?今は色々とバージョンアップしていて、昔のブレスよりも機能が充実していますよ。」
それは聞き捨てならない。一応、使える機能もあるとは思うので聞いておこう。
「頼むよ。我は遥か昔のブレスは噂で知っているが、最新タイプの機能は無知だからな。」
一応十六歳という設定だったので、【噂で】ということは加えて話したが、実際は相当昔のタイプのブレスを実体験していた我。どんな機能が付いているのか楽しみである。
「はい。まず大きなポイントしては辞書機能です。今のバージョンになってからの全ブレスのデータは共有化されます。何の石と何の石でどんな結合魔動石が出来るのか。極の魔動石はどんな組み合わせで出来るのか。検索が出来るのです。しかし、魔動石以上の石は唯一無二。例えば光の魔動石は一つのみ。それを所有する者が生存しているのならば、他者はこれを手にすることは不可能なのです。だからこそ、オリジナルの組み合わせが多数存在し、様々な結合魔動石や極の魔動石が求められます。行き当たりばったりの魔石をということではなく、データを検索しながら可能な結合魔動石などを目指してください。」
便利な機能であるが、光の魔動石と言われて正直ドキッとした。我が求める石の一つだからである。
「あ、ちなみにさっきお話しした光の魔動石は超レジェンド級の石でわたしが知る限り、遥か昔に一人だけ手にしたことがあるらしいです。それはそうですよね。光の力って考えただけでも魅力的ですが、それだけ与える側も慎重になるでしょう。誰でも手にすることが出来ないのも納得です。」
そうだろうそうだろうと我は彼女の言葉をかみしめながら頷いた。我のパートナーのカイだからこそ手にすることが出来たのだ。力が全てではない。先程の右脳の話ではないが、感覚、感情、直感などの考え方が人の心を動かすのだ。
無理矢理とか信念皆無であれば、継続しないし力も発揮されない。だからこそ、心と心の共有が大切であり、それこそ石の持ち主が人に石を託すということなのだ。
「次の機能ですが・・・ブレスにセットした石は組み合わせによって結合魔動石になりますが最終的には極の石となります。そして、極となった石はその【組み合わせの特性】によって石の主を守ってくれると言われています。しかし、極の石への道はナカナカ到達しないそうです。ですので、わたしもその状態を確認することが出来ていません。そして、その組み合わせの特性というものは極の種類によって異なるそうです。レイちゃんがもし極の石を万が一にもGETすることが出来たとしたら、その特性を教えてくださいね。」
キャンティめ・・・味な機能をバージョンアップしたものだ。
カイを失ってから、キャンティはしばらくの間放心状態であった。無論、我も同じ状態ではあったが、気持ちは同じであったのであろう。
何か自分には出来なかったのか?今後、どうするべきなのか?何が天才女鍛冶師だ・・・
たいしたことは出来ていないし、今以上を探求していなかったのも事実。
科学は無限の可能性を秘めているといつも頭の中にはあったものの、実際何も出来ていなかったではないか。
もしカイが転生してきたのならば、あって奴が喜びそうな機能を追加しておこう。無論、それは今後のブレス装着者にも活かされてこよう。
そんな想いで追加された機能なのであろうな・・・
そういえばキャンティがカイを失った後に言っていたな。自らの魔動石を託したのは生涯カイだけであったと・・・
マイちゃん同様、キャンティの石も激レアだったのだ。よくよく考えてみれば、パルスの石もマイちゃんが託した相手だったから、自分も託したくなった的な感じであったし、ティナの石もカイのみが得られるものであったからな・・・
無限の石・・・ティナの天空、マイちゃんの光、パルスの音、キャンティの剣という波動の力の結集体。いわば四つとも容易には手にすることが出来ない激レアな力。
だからこそ極の石となり、無限の力を発揮することがかなったのであろう。
あの当時、そんなことは冷静に考えることが出来なかった激動の時であったからな・・・
今でこそ冷静に分析出来るし、その力の偉大さに感服する。
我はこの時、ハッとした・・・
ブレスをゲットしたものの、この激レアな力を我がゲット出来るのか?今まででマイちゃんもキャンティも石をカイ以外、誰にも託さなかったのだ。まぁ、事情を説明すれば石を我に託してくれるかもしれないが、絵に描いた餅になることも十分に想定出来る。
あれこれ詮索しても仕方がないか・・・
無限の石を作り出し、それを転生したカイに託し、再びコンビを組むのが目標ではあるが、もし計画通りいかないのであれば、路線変更もやむをえない。
赤の一撃と青の二撃の為に赤青の瞳を作り出したが、いつでも編成は可能なのだ。その時その時に応じた柔軟な対応をしていかなければなるまい。
目的のブレスをゲットしたので担当の彼女とも別れたが、いつまでも我の手に触れながら頬を赤らめていたのは一体何だったのであろうか?
我のことを可愛いと言ってくれたのは、女性としては喜ばしい限りであるが、行き過ぎた行動は望んでいない。
さてと、目的の石を早速ゲットしにいこうと思ったが、会場内には沢山の人間が我の前を往来しているので、しばしの間人間観察を楽しむことにした。
人化した今は自由に動けてはいるが、魔剣でジッとしていた日々は実に退屈で楽しみも全く無い状態だったからである。
雰囲気の個性に神経を常時集中していたので、何もアクションが無いのは全くもって達成感が無い。人間界で言えば、パチンコで何百回転も全く演出の無い当たる気配が皆無の状態と言えば解るだろうか?
波気が高めの者もいれば、そうでない者もいる。初期能力だけ高くても成長はしないし、カイのように初期能力はたいしたことがなくても晩成タイプの者もいるのだ。人間とは全くもって不思議な生命体である。
我の目の前を往来する人間の個性は瞬時に我にインプット出来るのも確認した。必要が無いとは思うがこれでいつでも雰囲気の個性を用いて、彼らの居場所が察知可能となったのだ。
おっと、会場のブレス担当の彼女も勿論例外ではない。しっかりと我に個性はインプットしてあることを付け加えておく。
そういえば、カイとティナはこの会場で初対面だったと聞いている。いや、正確には何度か対面はしていたものの、カイにはその記憶があいまいだったのだ。
それはそうだろう・・・十六年間で何十万、いや何百万人という人と関わったりすれ違ったりするのだ。人の顔など一々記憶にとどめておくことは非常に困難である。
まぁ、我の様にひときわ存在感がある人物なら記憶に留まることも当然だがな。何故ならば、数えきれないほどの人間と接していたブレス担当の彼女が良い例だ。
我に対しての話し方、接し方が出会った時と別れる時では全くの別ものになっていたからである。人の感情をこうまで変化させることが出来るというのは非常に痛快。少々、別の路線にいきそうではあったが・・・
フォーカスする部分がズレてしまった・・・そうそう、ティナはカイの居場所を常時把握していた。だからこそ、幾度となく自然とカイのピンチを救えていたのだ。当時は雰囲気の個性というスキルは無かったが、カイの居場所は【竜眼】で感じ取れたとティナが言っていたな。
しかし、一度でも会ったことがあるのであれば、波気、雰囲気、匂いなどでその居場所を特定することが可能というのは解らなくもない。
だが、そうでないとするならば、何をもってまだ見ぬ人物の居場所を特定出来るのだ?
我はしばしの間、瞳を閉じ瞑想に入った・・・何だ?何で解るのだ?カイにしかない絶対的なものなのか?
時間にして数分・・・その回答は雷が落ちてきたように、いきなり我の頭上に降りてきた。
そうか・・・もしや【名前】ではないのか?カイという名前の人物は、あの時ティナが言っていたがウン千年間誕生しなかったと・・・カイという名前が複数存在しない理由は、破壊竜のパートナーはカイという名前の人物のみであるとティナが言っていたからな。
それに魔王ファイも覚醒魔王となるべく資格のある人物は、カイとプサイのみであるとも言っていた。プサイはあの時点で存在していたし、ファイはカイという名前の人物の誕生を長きにわたり心待ちにしていた。
待てよ・・・我にも出来るかもしれん。
我はカイとティナをベースにして、この肉体を作り上げた。当然、ティナの竜眼をベースにしての赤と青の瞳・・・
だが、我はただ単に瞳を複製するだけに留まらなかった。そう、我の瞳は竜魔眼・・・ティナの竜眼と魔人が持つ魔眼を融合したのだ。
魔人が持つ魔眼は遠く離れていても、細胞レベルで居場所を感じ取れる。細胞とは固有のもの・・・魔人は感覚が人間とは異なり、非常に繊細である。魔眼で細胞レベルの識別、魔耳で心臓の鼓動レベルの識別が可能なのだ。
勿論、知っていなければ探しようがない。実際に対面し、目の前の人物を知ってこそ魔眼は次に活かされる。そこは雰囲気の個性と同じであるが、雰囲気の個性はその人物が発する雰囲気を感じ取るスキル。一方の魔眼は細胞レベルを察知するスキルで一見同じように思えるが、実際は異なる。
事件を勃発したルーツの様に魔獣を喰らいながら、自らの魔力を上げていった者は当然細胞も変化していく。だから、魔眼は意味をなさない。
だが、細胞が変化してもその者の持つ雰囲気は変化しない。故に雰囲気の個性がこのケースでは効果が発揮されるのだ。
我はこの時に気付いたのだった。転生したら、雰囲気は変化するのではないかと・・・転生しても魂そのものは変化しないと時の神であるクロちゃんが言っていた。
しかし、それこそ波気、雰囲気、匂いなどは魂が宿る肉体によって変化して当然ではないのか?育った環境で人はいくようにも変化する。
イヤ、待て待て・・・実はカイとティナはもう既に転生しているのではないか?転生していても雰囲気が変化しているのであれば、雰囲気の個性でサーチしてもヒットするはずもない。
カイとティナがこの世を去ってから、もうかれこれ八百年は経過しているのだ。いくらなんでもまだ転生していませんでしたなんてことはないんじゃないのか?
我は闇に落ちた感覚に襲われていた。まだ不確定要素ばかりの憶測ではあるが、一つ一つ整理して考えていくと点と点が一つに繋がり正解が見えてきたのだ。
ハッ!もしやキャンティはこのことを知っていたのではないのか?我が雰囲気の個性でカイが見つからないとぼやいていた時に何やら言いたそうな感じであったし・・・




