第四十八話 ニンカツ②
「あ、そうそう・・・ニュー、あなたはヒューマンモードとストーンモードに形態を変えられるからね。念ずれば、自動的に形態が変わるって便利でしょ?」
「え?あの五感を失った石ころに?何でまた?」
「ウフフッ、そんな訳ないでしょ。ちゃんと五感は機能している状態のストーンモードだよ。」
それにしても、よく解らない・・・
今更、ストーンモードとやらになる必要があるのか?人化に成功したんだから、別にストーンモードになる必要はないんじゃないかな?
「ニュー、解ってないなぁ。それには意味があって、そうしたんだよ。あなたはこの世で一番最強の石ころになったんだよ。意思を持った石・・・それに覚醒魔人級の魔気を使えるって、なんて魅力的だとは思わない?それにアタシが錬金術で作ったあなたは特別製なんだよ・・・それからさ、あっちの方は心配しないでイイよ。アタシはどんな失敗も受け入れるからさ・・・」
あっ!しまった・・・
すっかり忘れていたが、俺が念で思ったことは、ゼータには筒抜けだったんだ。さっきまで、あれこれ考えていたことが・・・
まぁ、過ぎてしまったことは、取り繕っても仕方がない。
それよりも、さっき気になることを言っていたな。特別製のストーンモード?只の石ころじゃないのか?・・・
キャンティが鍛冶師として奇才だったが、このゼータも錬金術師として奇才なのだろうか?
まだ、その腕前を見定めていないが、彼女がこれだけ自信をもっているんだ。きっと、凄腕に違いない。だから、ストーンモードとやらも格別な性能が備わっているんだろう。
「じゃあ、旦那様・・・これからも末永く宜しくお願いしますね。とりあえず、今晩からあっちの方もね・・・」
ゼータは顔を赤くしながら、そう言ってきた。俺は生唾を飲みながら、コクリと頷くことしか出来なかった。今晩のことは考えまい。なるようにしかならないのだ。まずは、ゼータに喜んでもらえるような言動を心掛けるだけだ。
こうして、俺たちは新しい生活へと駒を進めるのであった・・・
ティナは、本日不調であった・・・
活発な彼女も女の子なのだ。月一のイベントが容赦なくやってくる。
日中も元気なく、皆についていくのがやっとの様子であった。わたしはそれを見かねて、彼女を竜魔気で包み込み移動することにした。
オーラマスターのキャンディの力を使えば、気で様々なことが可能になったのだ。
戦闘に於いては特に有効で、遠方に気を転移させ、そこから狙った場所に一閃を放つことも可能になった。
要は気の遠隔操作である。コツを掴めば意外とカンタンであった。
夜の相手であるセスは、そんなティナのことが特に気になるようであった。望んでそうした関係になった訳ではないのだが、体調不良で弱っている相手に手を差し伸べることを進んで行っていた。
ティナに食事をとらせる時も、親身になって世話を行っていたし、下の世話もトイレまで連れていっていた。意外と優しい子なんだな・・・
その晩、深夜二時・・・
この日のセスに睡魔は襲ってこなかった。それもそのはず、体調不良のティナは、ニャンに特殊なエサをやっておらず、ニャンのエサはセスがフツーの物を与えていたからだ。
来ないの・・・
セスはこの日もティナが部屋にやって来ると思っていたが、いつもの定時を過ぎても彼女が現れることはなかった・・・
好き好んで行っていた訳ではないものの、いつも行われている戯れがないと、身体がうずくし何だか落ち着かないもの・・・
足音を立てないようにして、こっそりとティナの部屋へと赴くセス・・・
日中、女の子のイベントでダウン気味だった彼女の様子を見に行ってから就寝することにしたのだった。
ノックしないで、こっそりと部屋のドアを開けるセス・・・
ところが、ティナの姿はそこにはなかったのだった。布団に触れたが、温かみは感じない。つまり、布団を出てからの時間がそれ相応に経過しているということだ。
え?どこに行ったの?こんな深夜に・・・
ティナの気を探るように集中してみたが、彼女の気はまったく感じない。不安しか感じないセスは、慌ててわたしの部屋にやって来て眠っていたわたしを起こすのだった。
「レイ、レイ、ティナがいないの。それにあの子の気も全く感じないの・・・こんな深夜にどこに行ったのか不安なの。歩いて移動するにしても、絶対に気が発生するはずなのに、それがないなんて・・・」
涙ぐむセスを寝起きのわたしは、ぼんやりしながら見上げていた。
次第に思考がハッキリとし、彼女に言われたようにティナの気を探る・・・
ティナの気が全く感じない。どうなっているのだ?いつも微量だが、気を発している彼女なのに・・・
そうだ!雰囲気の個性と魔眼を使えば解るだろう。
しかし、雰囲気の個性でサーチしてみたが、彼女の雰囲気は全く感じなかった。そして、魔眼でティナの名前からサーチしてみる・・・
ティナという人物は複数人確認が取れたが、彼女の気とはどれも別物で別人である可能性が高い。イヤ、別人だろう・・・
気の質というものは、持って生まれたものであり、途中で変わるということは決してないのだ。
だからこそ、雰囲気の個性というスキルは有効であり、魔眼で探しきれない者を探し出すことが出来る。それが今、この状況で考えられることは・・・
ティナの存在が消えた。イコール、この世にいないということなのだ・・・
あまりにもショッキングな出来事なので、わたしは棒立ち状態であった。隣にいたセスもわたしの表情や態度を見ていて感じたのか、泣き出す始末・・・
深夜に泣き声やわたしの気の乱れを察知して、イリヤンとキャンディもわたしの部屋へと慌ててやってきたのだった。
ティナの謎の消滅・・・
この事実を受け止められないまま、夜が明けるのであった。
厄災から、大自然を守る旅を行ってきた。同時に、有能な魔動石やカイの情報を探してはいたが、もうそんなことは正直どうでもよくなった気がした。
やはり、近くの仲間の存在は大きい。戦力的には弱かったものの、ティナは彼女なりに奮闘していた。天空の力の覚醒はついに見られなかったが、そんなものが無くてもいつも明るく元気な彼女を見ているだけで楽しい旅路であった。
それは、一緒に旅をしていた皆も同意見だろう。特にセスは深夜に特別な関係を持っていたからこそ、感じるものが多いに違いない・・・
しかし・・・ナゼ、どのようにしてティナは消えてしまったのだろうか?
《レイ、彼女は今日弱っていたよね?歩くのもままならない状態だったから、竜水晶を体外に出してパワーを循環させていたよ。いつもなら、体内に竜水晶を隠してあったのに、今日は違った・・・もしかしたら、それが関係しているんじゃないかな?》
竜水晶・・・未だに謎多き物体。
ドラゴンハートを使用する時に発動するくらいにしか思っていなかったが、パワーを循環させたり、ブレス改の時にも使ったり出来たよな。一体何なんだろう?
《予測演算してみたけど、竜水晶はティナの核みたいなものかもしれない。竜水晶の中に特殊封印されている部分があったのよ。もしかしたら、そこに天空の力が封印されているのかも・・・ティナを神撃二で襲撃してきたヤツが、今回の黒幕の可能性は高いね。》
何てこった・・・
日々の厄災除去に追われ、そっちのことはすっかりと頭から消えていた。そうだ、ティナは狙われていたのだった。正確には、竜水晶が狙われていたのかもしれない。
ん、待てよ・・・
そうであるならば、あいつらもヤバいんじゃないか?リンとキールも竜水晶を持つ三竜姫・・・
もし、敵の狙いが竜水晶なのであれば、二人の竜水晶も危ないかもしれないな・・・
久々に会うのもイイかもしれないな・・・
まぁ、わたしを見ても誰もゼブルであると解らないだろうが・・・
雰囲気の個性で、彼女たちの位置だけでも把握しておくか・・・
わたしは、リンの雰囲気の個性を探ってみた。
おかしいな・・・
何も感じない・・・
もしかして、精霊界に行っているのか?ヴァンは大自然の力を味方につけているから、そっちの世界へと行っている可能性はある。
精神集中して、精霊界やその狭間の付近まで探ってみる・・・
ダメだ・・・見当たらないな。
キールはどうなんだろう?
キールは次元竜ゆえ、亜空間や異次元へも行き来が出来る。行動範囲が広いと、探すのも少々骨が折れるかもしれない。
だが、この状況ではそんな悠長なことも言っていられない。




