第四十七話 マックラ③
俺は恐る恐る、目の前の人物に問うてみた。
今の自分がどんな状態なのか、遅かれ早かれ知ることになるのだ。しっかりと現実を受け止めなければならない。
一晩寝て、明日は人間になっていました。なんてことは絶対に有り得ないのだから・・・
「今のキミは、石ころそのものだよ。転生先が石ころだなんて、レア中のレアだよね。意思を持った石・・・その語呂合わせも面白いケド、考えただけでもゾクゾクしちゃうよ。これから、どんな石生を送るんだろうね?」
目の前の人物はそう俺に教えてくれた。
そっか、俺って石ころに転生しちゃったのか・・・
かつての名前は解らない・・・
しかし、転生して石ころになったんだ。そこに何かしらの必要性があったのだろう。起こることは全て必然だし、必要なのだ。
だから、五感もなかったのか・・・
口や手足の存在がないのも頷ける。
石ころになって、五感を失って、一体何が出来るんだ?
それでも救いなのは魔気があり、思考することが出来、行動に移せることかな?
あ、今思いついた。
これだけ魔気があるんだ。魔気の壁にみたいなものが出来るかもしれない。
ならば、やってみよう・・・
俺は思いついた・・・
魔気をコントロールし、観えない壁みたいなものが出来るのならば、魔気の口、舌、声帯が体内で作れるんじゃないかと・・・
当然石ころだから、体内にそれを作るスペースは無い。
しかし今、人の口、舌、声帯ほどの大きさは必要ないのだ。
石ころといえども、ほんのわずかの隙間は存在する。
物とは原子が集まり分子となり、分子が集合して大きな個体となるのだ。
その隙間にほんのわずかで良いから、口、舌、声帯を魔気で作り上げる。サイズは、顕微鏡で見ないと解らないくらいのレベル・・・
イメージだ・・・
イメージするんだ・・・
声質は軽い感じがイイな・・・
そして、そのイメージを具現化し、発声を試みる・・・
「・・・あ、あ~、あ・え・い・う・え・お・あ・お・・・おっ、出た出た。石ころでも話せるもんだな。」
この様子を静観していた謎の人物は、驚きを隠せない。
「うわぁ~、スゴイね、キミ・・・ワンの予想を三段階くらい上回った行動をするね。石が話したり、聴覚を持ったりするなんてフツー考えられないよ。」
「俺もうまくいくかは解らなかったケド、何とかなったよ。最初は魔糸を使って、意思の疎通を行おうとしたケド、初対面の人にいきなりそれで意思疎通を図るなんて失礼かなって思ったんだ。これでも感謝してるんだぜ。自分が石ころだなんて、夢にも思わなかったことを教えてくれたからさ・・・」
俺はとりあえず安堵した。
五感を失って転生という、いきなりのハンデを少しずつ克服出来たからだ。
何かしら意味があっての、石ころへの転生・・・
その意味は今の所不明だが、楽しんでいこうじゃないか。
でも、石生って何か言いにくいな・・・
ストーンライフ、これでいこう。
謳歌するんだ・・・滅多にないぞ、ストーンライフを経験するなんて。
あ、でも今は移動手段がないから、目の前の人物に頼るしかないな・・・
「あ、あの・・・」
「なぁに?キミの考えは筒抜けだから、今更遠慮しなくても良いんだよ。それよりもさ、キミにビッグなプレゼントをしようじゃないか。何でもいいよ。キミの望みを一つだけ、かなえてあげようじゃないか。」
「えっ?唐突に何事?・・・俺は特に何もしてないよ。だから、プレゼントを受け取る訳にはいかない。タダより高いものはないからな。後で恩着せがましく、何かを要求されたりされちゃたまったもんじゃない・・・あ、ゴメンな。何も出来ない石ころだからさ、ついつい自己防衛に走っちまって。」
「ウフフッ、キミって素直で気取らないんだね。益々気に入ったよ・・・ここまで、ワンを驚かせたり、楽しませてくれたお礼って言ったら、プレゼントを受け取ってもらえるかな?滅多にないんだよ。ワンがプレゼントを贈るなんて・・・正直、キミの今後にドキドキしてるんだ。きっと、もっとワンを楽しませてくれるってね。だから、お願い・・・大概のことは出来るから、何でも言っておくれ。」
俺は内心、ドキッとした。
石ころの俺だが、どうやら男性の心があるらしい。俺の知識として、男性は女性に惹かれるものがある。だから、目の前の人物は女性だと思われる。その理由は声だけでなく、なんとなく感じる気の質が女性っぽいのだ。
そうだ、さっき感じた圧力・・・
間違いない・・・
俺を運んでくれている彼女から発せられたものだ・・・
きっと、かなりの強者に違いない。気の使い方、質、恐らく俺の想定以上のレベルに違いない。
そんな人にプレゼントなんて、ホントにもらっていいのか?
でも、ここまで言ってくれているんだ。女性に恥をかかせる訳にはいかないよな・・・
俺は自分で言うのもなんだが、基本無欲なのでプレゼントなどは正直何でも良かった。パッと思いついたことにしよう・・・
それなら、俺の考えを先読み出来る彼女の新鮮な反応を感じることが出来るかもしれない。
「じゃあさ、君が自分のことをワンって言うのをやめてくれよ。ずっと言ってきた言い方なのかもしれないケド、君にはもっと可愛らしい言い方がいいと思うよ。折角、可愛らしくて色艶ある声をしているのに、めっちゃ勿体ないからさ・・・」
彼女の鼓動が変わった。聴力特化しているからこそ感じられるが、心拍数は格段に上がっている。男性の俺にあんなことを言われてドキッとしたのか?・・・
そんなことないか・・・
こんな石ころに褒められても嬉しくないよな。
「あ、ありがとう・・・解ったよ。わたし・・・イヤ、しっくりこないな。ボク・・・これも違うな。アタシ・・・アタシがいいかな?どう?」
アタシか・・・ティナが自分のことをそう言っていたよな。どうやら、そういう風に自分のことを言う女性が、俺の近くに存在する傾向のようだ。
「いいんじゃないか?ワンよりもアタシの方が、君の可愛らしい声にピッタリだよ。これが俺の願いだ。何かスッキリしたな。」
俺は歯の浮くようなセリフを言ってしまったと思ったが、本心からそう感じたので後悔はしていない。
「キミの願いってこんなことなの?これって、アタシのことじゃない・・・ウフフッ、おかしい。おかしいよ、まさかこんなお願いされるとは思ってもみなかった・・・ホントに呆れるくらい無欲だよね。少しでも闇がある者なら、自らの欲を丸出しにするもんだよ。お金が欲しい、地位や名誉が欲しい、女が欲しいってね・・・アタシの想像では五感を復活させて欲しいとか、そこまでじゃなくても視力を復活させて欲しいとかって言われるもんだと思ってた。君には闇が無い。気にいったよ。」
「いや、勿論それは俺にとって必要なことなんだけどさ、別に無くてもいいんじゃないか?って思ったんだよね。転生した先が石ころって、何かしら意味があると思うから・・・俺はこのストーンライフを満喫するよ。幸い、魔気はあるみたいだから、ゆくゆくは人化出来るかもしれないしな。」
俺は深い意味もなくそう彼女に話したが、彼女は再び笑い出した。別に笑わせようとかいう意図はなかったのだが・・・彼女は俺のことを純粋って言ってくれたケド、俺から言わせれば彼女もまた純粋な子である。
「こんなに笑う日が来るとは思わなかったよ・・・だから、今日は特別な日だ。キミの願い、後一つ聞いてあげるよ。アタシに出来ることなら、何でも聞いてあげる。そもそも、さっきの願いはキミの願いではあったケド、キミ自身の事ではなかったしね。」
え~?そんなこと言われても、願いなんて特に無いんだよな・・・
困ったぞ・・・
この際だ、とんでもない願いを言って諦めてもらうっていう手にしようか・・・
俺の念は彼女に筒抜け・・・
だとしても、今はそう考えるしかなかった。それでも良いではないか。こんな素敵な声の持ち主と話が出来るのだから・・・
「じゃあ、俺を神にしてくれ。」
「え?いきなり、スゴイ願いを言ってきたね。その理由を聞いてもいい?」
「あぁ、俺たちのいる世界は神が作りしもの。それを俺たち下界の者たちが、使わせてもらっていると考えている。だが、基盤を作ってくれた神には申し訳なく思っている。こうして転生したばかりの俺でも解るよ・・・悲痛な声が沢山聴こえてくるからさ・・・」
五感の内、聴覚と話術しか使えていない今の俺・・・
聴覚に特化しているから、解ることがある。研ぎ澄まされた聴覚からは、大自然の精霊や妖精の悲痛な叫びが・・・
彼らは苦しんでいる。どうやら、世界は混沌としているらしい。視覚が無い為、詳細は理解出来ないが、大自然が崩壊し生態系のバランスもおかしくなっていると・・・
オゾン層は破壊され、温暖化、地殻変動、異常気象・・・様々な問題が山積みのようだ。
人々が協力して諸問題改善に取り組めば良いのだろうが、現実は厳しいだろう。
何故ならば、皆が同じ考えではないからだ。今の混沌とした世界でも、何ら問題ないと考える者は必ず存在する。
人とはとかく身勝手なもの・・・
問題を共通認識としていない限り、その解決が出来る訳がないのだ。
ならば俺が神となり、その基盤修正を行うしかあるまい。強大な力があれば、問題解決も早いというもの。そう考えただけである・・・
俺の念は彼女に伝わった・・・と思う。
その為、彼女は泣いている?そう感じたのだ。
「キミって、キミって・・・何てステキな思考の持ち主なんだ。最初、神になりたいっていうからさ、利己的な目的の為なのかな?って思ったケド、それは違った・・・そんな利他的な目的を持つなんて、考えもしなかったよ・・・解った。その願い、叶えてあげよう。で、どの神が希望なのかな?神っていっても、108の分野があるんだよ。得意分野が違うからね。」
「は?そんなこと出来る訳ないだろ。希望すれば誰でもホイホイ神になれたら、世の中おかしくなるに決まっている・・・でも、108の分野があるって、そんなこと何で知ってるんだ?」
彼女は俺の予想を上回る回答をしてくる。
俺が知らない情報を知っているのか?はたまた、冗談で話をしているのか?
だが、何の根拠もなくで適当に言ってくるタイプではなさそうだし、冗談やウソを言うタイプでもないだろう・・・
ならば、ホントに神にしてくれるっていうのか?イヤイヤ、それが万が一可能だとしても、今や石ころの俺がそこに収まることは百パーセント考えられない。
「ウフフッ、戸惑っているね。そりゃそうだよ。いきなり神になれるなんて、フツーは有り得ないんだから・・・だけど、神になれる方法は二つあるんだよ。一つはアタシが推薦して、神の養子にしてもらう方法。こう見えても、人脈はあるんだよ・・・って言っても、信じちゃもらえないか・・・もう一つは神に認められて、魔神石を手に入れて念ずる方法。まぁ、そう簡単に神は下界の者を認めないケドね。魔神石を託すってことは、自らの能力を与えるってことなんだから・・・」
「え?前世の俺は魔神石を持っていたよ。クロちゃんがくれたんだ。もっとも、正体を明かしてくれたのは最後の最後だったケドな・・・それにしても、神との人脈のパイプがあるなんて君はスゴいんだな。」
「嘘でしょ?前世で魔神石を手に入れてた?・・・クロちゃんって、そんな神いたっけ?」
「うん。時の神って言ってたぞ。ホントの名前は、クロノスだって明かしてくれた。気さくな爺ちゃんでさ、何か何でもお見通しって感じだったよ。触れただけで、俺の全てを見透かした能力は、後から考えたら神なら出来るかもって思ったね。」
「クロノス・・・クロ爺のことか?あのクロ爺が認めし者だったとは・・・アハハッ、キミが魅力的な訳だ。恐れ入ったよ。そうか、そうだったのか・・・」
彼女は腑に落ちたようで、一時鼻歌交じりだった。それにしても、クロちゃんってクロ爺って言われてたのか。でも、呼びやすいし違和感が無いよな。
「あ、あのさ・・・もし俺が神の養子になったら、その後どうなるんだ?神って、基本死なないだろ?神のスキルを使える権限的なものとか、立場的なものとかがイマイチよく解らないよ。」
鼻歌交じりだった彼女は、俺の質問に対してこう答える。
「神ってね、段階があるんだよ。現役の神に養子が出来て、修行の成果として立派に独り立ちが見込めた段階で神は聖神となる。そして自らは聖神界へと赴き、新たなる神を離れて見届ける・・・そんな感じ。で、その魔神石って今どこにあるの?」
「聖神って・・・そんなものが存在していたなんて全く知らなかったよ。俺の魔神石?俺は死んでしまったから、魔神石も消滅したんじゃないのかな?・・・クロちゃんは自分が見込んだ人間がそぐわなかったら、石は消滅させようって言ってたし・・・恐らく俺が死んだ段階で、石はクロちゃんが消滅させたと思うよ。」
「そっか・・・じゃあ、アタシが推薦して神になる方法しかないね。やっぱ、クロ爺の養子がいいのかな?それとも、他の神に興味ある?」
「イヤイヤ、そんなの突然言われても心の準備が出来ていないし、ましてや石ころの俺が神の養子なんておかしいだろ・・・まぁ、神なら石ころでも人化させることは可能かもしれないが・・・やっぱ、この願いはナシナシ。別のにするよ。」
俺は焦ってしまった。いきなり、神の養子なんてとんでもないことになりそうだったから・・・
他の願いか・・・
どうしよう。全く頭に浮かばない・・・てか、石ころの俺にそもそも頭などないのだろうケド・・・
やっぱ、この瞬間にパッと浮かんだことにしよう。




