第四十七話 マックラ①
「まずいね。二人が出会うのは、想定外。そうならない為、あの子を一緒にいさせたのに・・・こりゃ、保険をかけておかなきゃ・・・」
魔界の奥地で独り言を言う者がいた。
そのことの重要性を、わたしたちは知る由もない・・・
ん・・・
永い眠りから覚めた気がする・・・
めっちゃ永い眠りから・・・
意識はぼんやりしていて、非常に重苦しい限りだ。
重たい・・・
重たいな・・・
てか、動けない・・・
俺は・・・
記憶があるのか・・・
うん、記憶は消えていない。あれ?俺とティナをつないでいた赤い糸がないぞ。あの時の状況と違うのか?
あの時は・・・
周囲は明るくて身軽だった。まぁ、死んで魂になったから、そりゃ身軽だよな。
だが、今は状況が全く違うぞ。
身体はめっちゃ重たいし、周囲はマックラだし・・・てか、何も感じないし、身動きすら全く出来ないぞ。
目の前どころか、周囲は真っ暗。音も全くしないし、臭いも全くしない。口を開けた感覚もなければ、何かに触れている感覚もない・・・
明らかに魂だけの状態ではない・・・ということは、もしかして転生したのか?
転生したものの、何故か五感が無くなったって状況なのか?
待て待て、落ち着いて整理しよう・・・
俺とティナは、超星獣ストロームを倒す為に自らを犠牲にして命を落とした。
死して魂だけになった俺たちには、内から出た赤い糸が結ばれていて、これって結納じゃね?とか思った。
そして、冥界で浮遊していた・・・
その後は・・・その後の記憶がプッツリと途絶えている。ていうか、意識が無くなっていた?そうだな、そうとしか考えられない。
で、気付いたら今こんな感じだ・・・
どれ位の時間、意識が無かったのかは解らない・・・
何でこんなに重たく感じるんだ?何かに触れている感覚はないのだが、異様に重たい。
何かの圧力か?・・・
まぁ、考えても解らないことは保留にしておこう。今、考えて解ることを取組むまでだ。
ラッキーなことに、前世の記憶がある。再び、ヴァンやゲンとバカ笑いすることも出来よう・・・
相棒の魔剣ゼブルと、更なる高みを目指すことが楽しみだ・・・
でも、それって出来るのか?・・・
五感を失って、行動不能な今の俺に・・・
てか、俺って何に転生したんだろうか?明らかに人間ではないよな。
あれ?前世の俺の名前って、何だったんだ?名前だけが、思い出せない・・・
そもそも、波動力や波気はあるのかな?
今は外部からは何も感じない。感じるのは、謎の圧倒的な圧力だけ・・・
まずは、音を聞けるようになろう。出来るかどうかは、知らんけど・・・
気を練り上げる・・・
練り上げる・・・
練り上げる・・・
俺は自分の中にて、気を練り上げることに専念した。
気とは、生命力そのものだ。命あるもの、全てに気は存在する。その気を圧縮したり、高めたりすることは気の扱いに長けていなければ出来ない。
だが、俺にはへなちょこ時代があり、少しでも強くなる為に気を錬成すること努力を惜しまなかった。その結果、気の錬成に関しては得意になった。ならば、今再び出来るはずだ。
長きに渡り、眠っていた俺の中の活力が産声を上げる・・・
転生してから今までなかった鼓動が、体内でドクンドクンと脈打つ・・・
成功だな・・・気のコントロール、出来そうだ。波気は出せるのかな?体内から波気を出せれば、周囲のものに当たった波動が自らに返ってくるハズ・・・
それが音となり、聴こえるかが大事だがな・・・
俺は無心になり、体内の気を波気へ変換、体外へと放出というイメージを体現してみた。
ナカナカ、うまくいかない・・・
最初からうまくいかなくて当たり前、という精神で繰り返し繰り返し行っていく。
何十回、何百回と試行していっただろうか?
次第に、ほんのわずかではあるが何かを感じるようになっていった。今まで何も感じなかった俺は、それがとてつもなく嬉しくて試行するのを苦にも思わなかった。いや、むしろ楽しくなっていったのだ。子供がおもちゃを与えられ、飽きるまで遊ぶが如く・・・
気が付けば、周囲の音は確実に感じるようになり、自信をもって聴覚と呼べるにふさわしいものを獲得することが出来たのだ。
そして、気の対流を感じることが出来たことで、衝撃的なことに気が付いた。
俺の気は、波気ではなく魔気であると・・・
前世の俺は人間であった為、波気を使えていた。そしてティナと出会い、魔剣ゼブルを手に入れ、魔気や無限竜魔気をこの身で体感した・・・
だからこそ言える。今の俺は、魔気使いであると・・・
やっぱ、人間じゃなかったんだな・・・
てことは、魔族に転生したってことなのか?
でも五感どころか、口や手足の存在感覚が無い魔族って一体何なんだ?・・・
まぁ、焦っても仕方がない。その内、色々と解ってくるだろう。
音が認識出来るようになると、何とも楽しいものだ。以前は、それが当たり前だと何も思わなかったが、今は感謝しかない。
当たり前が、当たり前ではないと気付くのはナカナカ難しい。
失ってこそ、そのありがたみはとてつもなく感じる。五感全てが無くなっていた先程を考えると、聴覚だけでも機能してきたことはとても有意義だ。
そして、どうやら聴覚しかない状況でいると、そこが研ぎ澄まされていくようだ。
物が移動する音・・・
風が吹く音・・・
地面が微かに蠢く音・・・
遠くで聴こえる声・・・
気配はないが、心臓の鼓動・・・
あ、さっきから感じていた圧力と同じ位置で心臓の鼓動を感じるな・・・
俺がそう思った途端に、周囲のざわめきを感じた・・・
「キミ、面白いね。」
そう言葉が聴こえると共に、俺自身が移動している感覚が得られた。どうやら、聴覚が機能すると平衡感覚も機能するようだ。
どれだけの時間が経過したかは解らない。
解るのは目の前に誰かがいて、心臓の鼓動がするということのみ・・・
視覚が機能すれば良いのだが、恐らく難易度は高いに違いない。それよりも言葉を発することの方が急務だな・・・それが出来れば、自らの意思を伝えることが出来る。
でも、恐らく今の俺には口が無い。口を開け閉めしようと試みるのだが、その感覚が無いのだ。
てことは、美味しい食事も出来なければ、好きな子とチューをすることも出来ない・・・
何て夢も希望もないのだろう・・・などとは思わない。
食事が出来ないということは、つまりする必要がない。イコール、それでも生きていけるということだ。
好きな子とチュー?・・・確かに甘く切ない一時を体感出来るが、感染症というリスクを避けることが出来る。
転生した俺は以前とは異なり、不老不死ではないという前提で物事を捉えるしかない。
全て悲観的に捉えていては、これからの人生を楽しく生きてはいけないのだ。あ、そもそも人ではないかもしれないから、これからの生をとしておこう。
ポジティブ思考は大切である。今まで五感が機能していなかった頃に比べて、聴覚だけでも戻った身としてはある意味ラッキーである。
話が逸れてしまったが、口が無い俺が取るべき行動・・・
念波は、ブレスがないと出来ない。魔王ファイのようにデタラメなヤツ以外は、基本出来ないものだ。俺もそのデタラメなヤツの仲間入りが出来る自信は無い。
念話は、心と心が真に通じ合った者のみが出来ていた。これならば出来るかもしれないが、そこまでの信頼関係が構築出来るのか?今の俺はしゃべれないんだぞ・・・
独りでツッコんでしまったが、これが現実だ。如何にポジティブ思考でも、ムリなものはムリである。
じゃあ、どうする?何か手段はあるのだろうか?・・・
手話がある!って、今の俺には手足が存在している感覚がない。そもそも、手話は相手も理解出来なければ会話が成立しないしな・・・




