第四十六話 マイナス③
さてと・・・考えがまとまり、旅の目的も共有出来た。ニャンの感知スキルで厄災と対峙しつつ、必要と思われる魔動石やカイの情報を集めていく次第である。
わたしも大きな気の乱れは感知出来るし、オーラマスターのキャンディもそちらに関しては優れているしな・・・
ニャンはティナにしっかりと抱っこされていて、何やら眠そうだ。今の所、厄災の気配はないらしい。それはそれで、とても良いことである。平和が何よりの幸福なのだから・・・
ティナはセスとの約束を守って、一定の距離を保っている。だが、何か話かけられると顔を近づけてセスと会話をしているのであった。
「ティナ、顔が近いの。セスは約束したの・・・べたべた人前でくっつかないって。約束は守ってほしいの。」
「あたしは約束、守ってるよ。べたべたくっつかないで、一定の距離は保っているでしょ?それに話をするのに、近い方がよりハッキリ伝わるじゃない?だから、これでいいんだよ。」
そんな都合のよい言い訳を言ってはいたが、わたしがセスに顔を近づけて話をすると、チョッとむくれる彼女は何となく可愛かった。
「レイ、セスの顔に近づきすぎだよ。セスが困った顔をしてるじゃない?もう少し離れてくれるかな?」
「わたしは、ティナが言うようにハッキリ伝える為に顔を近づけているだけだが。じゃあ、何か?わたしは顔を近づけて話してはいけないのか?」
少し意地悪く、ティナをからかってみた。セスには少し悪かったが、これはセスの為でもあるのだ。このアクションでティナの意識が変われば、彼女が顔を近づけて話をするのをやめるかも・・・と考えたからである。
「いい?レイ・・・あたしとセスは運命の出会いをしたんだよ。あんたじゃわかんないだろうな。この感覚は・・・最初に手が触れた時ね、全身が感じてビクンってなったんだよ。これは、恋とか愛じゃないね。LOVEだよLOVE。」
愛とLOVEは一緒じゃないか?と思ったが、面倒だったので、そこはスルーした。まぁ、ティナ的には愛の上級的なものがLOVEなのであろう。
「セスは自分のこと、よく解らないの。胸がないから男性っぽいケド、ホルモン的には女性みたいだし・・・大体、トイレに行く必要がなくて、生殖器もないから、おかしな存在なの。」
アイちゃんに教えてもらっていたから、セスの身体の秘密は知っていたが、自らその秘密を告白しちゃったよ・・・
「セス、そんなの気にしなくても大丈夫だよ。」
ティナは満面のスマイルで解き放つ。
この感じ、心底セスに好意を持っていると誰しもがそう思った一瞬であった。
セスはこのスマイルを見てウルっとしていたが、ほんの少しだけセスとティナの心の距離が近くなったのを感じた。
「ところでさ・・・」
キャンディは話が落ち着いたとみて、違う話を切り出す。
「レイ、お前ブレスは持っているんだろ?お前の生みの親、ティの最高傑作ブレスだよ。バトラーなら持っていて当然だよな。チョッと見せてみろよ。」
わたしは少し恥ずかしかった。
まだブレスを装着してから、それほどの時が経っていないとはいえ、セットしてある石はたったの一つなのだから・・・
しかも、その石は特殊結界で封印されていて、一体何の効果があるものなのかも不明。ブレス開発者が作りしものとして、正直いかがなものかと・・・
笑うなら笑えばよいと半分開き直って、自らの肉体からブレスを露わにさせた。ブレスは体内に手出し入れが自在ということに、ティナは驚いていたが、そこに宿る謎の石にも関心をもっていた。
「わぁ、これがブレスと石なんだね?石には、魔石とか魔動石とかの種類があるって聞いたことあるよ。」
お前も、本来は天空の石をもつ者なのだぞと心では思っていたが、彼女を傷つけないようにここはスルーする・・・
「あぁ、魔石、魔動石、魔王石、魔神石などがあるよ。魔石の上位種が魔動石で、この二種類がほとんどだ。魔王石と魔神石は極レアだから、ほぼ目にすることはないと思って良い・・・ちなみに前世のカイは魔王石、魔神石の両方を持っていて、覚醒魔王の資格も持っていた。つまり、魔王と神に認められし者だったのだ。」
「マ、マジか・・・あの魔王石と魔神石の両方を持っていて、覚醒魔王の資格まで・・・そのカイっていうヤツはとんでもない人間だったんだな。」
「あぁ、わたしはそのカイに使えし魔剣ゼブルだったのだ。だからこそ、今一度転生したカイに出会ってみたい。前世のカイとは全くの別人でも、会うことだけは必ず成し遂げたいと切に思っている。」
わたしは半分自慢話ではあったが、この件は皆と共有して良かったと思っている。カイ、お前は今一体どこで何をしているのだ・・・
一瞬、物思いにふけってしまったが、キャンディは話を続ける。
「レイお前、アタイのスキルを見てどう思った?魔糸と魔気、王気のみ使ったがお前の感想を聞いてみたい。」
「正直、驚いた。魔糸に魔気を付与させた使い方もそうだが、ディーノが一番スゴイと思ったよ。
あれって、対象に浄化効果を付与するスキルなんだろ?物理攻撃、魔気攻撃、波動攻撃のどれも通用しない相手に対して、あんな手段があったなんてさ。でも、お陰様でわたしも思考を凝らして疑似スキルではあるが、ディーノを使える目途がたったぞ。まだ、試してはいないが、多分イケると確信出来ている。ありがとうな、貴重なスキルを見せてくれて。」
「は?・・・ディーノの疑似体スキルが発動出来るだと?あれは見ただけでどうにかなる代物じゃない・・・でもお前、プロテクションの疑似スキルは出来ていたよな。まんざら、ハッタリでもなかろう。」
「あの、ディーノってさ・・・DEATH AND NOTHINGって略なんじゃないのか?つまり、死して何も残さない的な感じの意味と捉えたのだが・・・もし、違っていたらすまんな。」
それを聞いたキャンディは高笑いをし、ティナ、イリヤン、セスはキョトンとした表情をする・・・
「あぁ、ビンゴだ。その通りだよ・・・ティナ、お前が使っているディール。ステキなスキルだろ?そんなステキなスキルに名前だけでも近いものをと思って、ディーノってスキル名にしたんだ。まぁ、スキル自体は全く似ても似つかぬものだがな。」
「キャンディ、もしかしてお前ディールが誰のスキルか知っているのか?さっき、加護を受けて愛されているんだなって言っていたし・・・わたしたちの知っているヤツなのか?この近くにいるのか?ティナが世話になっているんだ。せめて、礼くらいは言いたいのだが教えてくれないか?」
ここで、話を静観していたイリヤンが口を開く・・・
「レイ、それは聞かない方が良いと思いますよ。だからこそ、今までキャンディはその相手のことを伏せていたのでしょうから・・・」
「イリヤン、どういうことなのだ?まぁ、世の中には知らない方が良いこともあるが、ティナが世話になっているんだ。礼を言いたいのは当然のことだろう?それの何がマズイというのだ?」
わたしは納得がいかなかったので、イリヤンにツッコんだ話をしていった。
あまり、グチグチというのは好きではなかったが、恩義を受けて礼を言う行動に間違いは無いと確信していたので、引くことはしなかったのだ。
「ジブン、以前に古の魔界文献の第ゼロ巻を見たことがあって、それを今から話します。最後まで聞いて下さい。」
わたしは静かに頷き、イリヤンの話を静観する・・・
「そもそも、第ゼロ巻っていうのに違和感がありました。内容が膨大で数冊に及ぶ内容であれば、フツーは第一巻からではないでしょうか?それなのに第ゼロ巻って・・・これは古の魔界文献の中でも、最重要機密が書かれているのではないかと直感しました。ジブン、物凄くドキドキして読んでいったのを覚えています。」
イリヤンの話にティナは食い付いていた。勿論、わたしも関心をもって聞いていたが、子供のようなティナの反応に吹き出しそうになっていた・・・などとは言えない。
「ジブン、知らないので聞きますが、キャンディのスキルの正式名称は何でしょうか?」
「あぁ、オーラマスターとは言っていたが、スキルの正式名称は【心の力】。それでこれが魔動石、心の石だ。気の力の頂点に君臨しているから、オーラマスターなんだけどな・・・ティのヤツは【剣の力】でソードマスターって言ってはいるが、あいつは物の力の頂点に君臨している。あ、そんなことは当然知っていたよな。」
わたしもイリヤンも、それは知らなかった・・・
キャンティは、奇才の女鍛冶師で剣の達人ソードマスターであるという認識でしかなかったのだ。マスターって付くくらいだから、剣の道ではスゴイのであろうというくらいにしか思っていなかった。
それに、天空、光、音、剣の四つの力で無限の力が誕生したことも、四つの波の力がもたらした成果であると思っていたのだ・・・
じゃあ、剣の力って物の力が圧倒的にあって、尚且つ波の力も兼ね備えた力ってことなのか?・・・
だからか、自らの魔動石を託したのもカイが初めてであるという理由が・・・
それにわたしが彼女の力を再び託してほしいと言った時、断られた理由がそこにあったのだな。物の力の頂点を簡単には託せないという理由が・・・
わたしはこの時、ハッとした・・・
《レイ、気付いたね。ブレスにセットする最高の魔動石がなんなのかを・・・》
あぁ、アイちゃん!方針が決まったよ・・・
イリヤンの話は続く・・・
「キャンディの心の力・・・これはいつから使えるようになったのか?何故、あなたが使えるようになったのか?他の人ではダメだったのか?・・・そもそも、魔石や魔動石に似た類の物は存在します。しかし、例えばキャンディの心の石は唯一無二の石で他には存在しません。結論から言います。スキルとは、スキル神が選んだ者に与えられた特別なものなのです・・・キャンディはスキル神に認められた存在なのですよ。」
衝撃的だった・・・
今まで、そんなことは微塵も考えていなかったことだから・・・
三竜姫のスキル、キャンティや覚醒魔人、魔王ファイ、そしてクロちゃんの様な神のスキルなんかも全てスキル神が選んで与えてくれていたとは・・・
だからか、わたしにスキルがないのは・・・
わたしは元々魔剣が人化した存在。故に特別なスキルはスキル神が与えてくれなかった。
その代わりにキャンティは、わたしの成長と共に力が備わるように作ってくれていたのだろう。わたしが魔剣として完成するまで、五百年もかかる訳だ・・・
●レイとゼロの合身
●無限竜魔気の覚醒
●人魔合身機能
●ドラゴノイドフォームへの変形
●人化機能
●アイちゃんの覚醒
わたしにこれだけのものを与えてくれたキャンティに心から礼を言いたい・・・
もしかして、気付いていたのかもな・・・
先程、一時工房へ帰った際に、アイちゃんが覚醒していたことに・・・
彼女が、それっぽく笑っていたような気がする。やっと、あたいが目指していた機能を引き出してくれたのかよってな・・・
「イリヤン、ありがとう。謎が解けたよ。でも、考えてもなかったな・・・スキルは適任者に与えられしものだって。」
「そ、そんな・・・ジブンは知識を皆に伝えただけです。ジブンには、皆の為になるようなスキルが未だに発揮できていないのでせめて知識だけでもって・・・」
イリヤンは、頭をポリポリとかきながら照れていた。そんな彼の純粋さは素晴らしいと皆は感じたはずだ。
「えっと・・・話が飛んでしまったが・・・レイ、ほらよ!」
キャンディは、わたしにキラリと輝く一つの石を差し出した。何と、それは心の力をもつ心の石だった。つまり、認められたのだ。オーラマスタ―である彼女に・・・
「いいのか?わたしなどが、オーラマスターの力を授かっても?」
「何を言ってるんだ。もっと自分に自信を持てよ。かつて、アタイはティと共に修行に明け暮れ、お互いに物と気の力を極めていったんだ。アタイとティの模擬線はいつも勝負がつかなくてな・・・そんなアタイにお前は勝ったんだ。今のお前なら、ティにも勝てるかもしれんな。もっとも、あいつにはシークレットスキルがあるから、油断は禁物だが・・・」
何だ?シークレットスキルって?奥義的なものなのか?
まぁ、今は良い。心の力を託されたのだ・・・
初めて自らの力で魔動石をゲット出来た。こんなに嬉しいことはない。それも、気の頂点の力だ。わたしに最もふさわしい力の持ち主に認められた嬉しさで、心が震えた一瞬であった。
早速、ブレスに二個目の石をセットする・・・
あ、あっ・・・体内に魔動石の情報やエネルギーが流れ込むのを感じた。身体が熱い・・・
これが石をセットした時の感覚なのか。
《レイ、心の石の情報を疑似スキル、プロテクション、サーチ、ディーノに上書き完了したよ。まぁ、それほどの誤差は無かったけど、オリジナルは精度がやはり高いね。色んなスキルが使えるようになったけど、とりあえず瞬間移動と空間転移が一番便利かな。》
お~、ゲンがよく使っていた瞬間移動と空間転移が出来るようになったのか・・・
瞬間移動と空間転移の仕組みをアイちゃんに聞いたが、かなり難易度が高かったので一任した。
わたしの中で役割分担出来ることは、アイちゃんと分担していく。
そうすることで、見えていないもの、気付けていない感覚や状況を把握出来るようになる。
カイはスゴイよな・・・
わたしとアイちゃんで行うことを、彼はたった一人で行っていたんだもんな・・・
お前は今、一体何を見ているのだ?
早く会いたいものだ・・・




