第四十一話 ジレンマ②
テストにも飽きてきたので、そろそろ我が日常を過ごす基本的な肉体を形成することにした。
まずは性別・・・我は、男ベースのゼロと女ベースのレイが共存しており、正直どちらでも良いと思った。だが冷静に今までのカイとティナとの生活を振り返ってみると、女性としての嫉妬心がほんの僅か耳かきで一かけらほどだが、あったことに気付く。
当然、男性としてカイと接していて心からの友情的なものは何ものにもかえがたいほどのレベルであったことは間違いない。
しかし、女性としての心は非常に複雑でティナに対しての嫉妬心が耳かき一かけらでもあったことは素直に認めなければならない。
それだけ、カイという人物が魅力的であったのは間違いないところだが、女性としての愛情が芽生えていたのであろう。だからこそ、カイをこの世から失った瞬間、カタカタと震えたのは女性としての喪失感以外の何物でもなかったのだ。
だからこそ、今回は女性としての日常を送ることにした我・・・
愛を手にしたいということではない。ただ単に愛する人を傍観者として見殺しにはしたくないというだけなのだ。
カイを失った経緯の中で、何も出来なかった歯痒さを再び繰り返したくない。ただその想いが強かったに過ぎない・・・
我は無となり、イメージした顔や体格を形成していく・・・性格は変えようと思えばこの段階でなら可能であった。しかし、自らの性格には満足しているのでそのままを形成していく。自己満と言われても、我は自らを愛しているのだ。
しばしの時が過ぎる・・・
それはそこまで長い時間ではなかったが、非常に静かで緩やかな一時であった。
まばゆい閃光と共に誕生した一人の少女・・・決して外見ではその強さを垣間見ることはない。
身長は百七十センチ、体重五十二キロ、サイズは上から八十七、五十八、八十六・・・って何を言わせるんだ。
まぁ、少々身長は高めでいこう。もし、バトルにでもなれば腕や脚の長さは有利に転ずるからだ。でも、女性としての魅力を感じる体格でありたい。
そして何よりも体内に溢れんばかりの無限竜魔気が我の魅力を後押しする。
体内の気が良質であればあるほど、肌や髪の質も良質になる。十六歳をイメージしての体格形成であったが、大人の色気を感じさせつつ、張り付くような肌質と艶やかな黒髪は、無限竜魔力の元である無限竜魔気のおかげだからだ。
髪はツインテールの銀髪で瞳の色は左右で異なるものとした。その理由は、我自身が一人であるが二人でもあるからだ。そして何よりも瞳を特化した最大理由は、赤の一撃と青の二撃の為である。
赤の一撃とは、全ての物質を破壊する究極のスキル。青の二撃とは、物質の復元や編成が出来る究極のスキルなのだ。
だから細胞が残っていれば、死者の蘇生も出来るし、致命傷の回復、新たなる生命体の誕生も可能。
しかし、赤の一撃と青の二撃に関しては、一日で使用出来る回数が五回という制限があった。それは、使用者であるカイの肉体がもたないから・・・
今回は魔剣ではなく、人間として我は行動する。ティナの協力があって、あれほど肉体として成長したカイの限界値を我が超越することは容易ではないだろう。
であるならば、何かを変えなければならない。何を変えるべきなのか?考えた結論が瞳である。
赤の一撃と青の二撃は特殊波動のスキル・・・今までは拳に特殊波動を集中させ発動し、その反動が自身の肉体にリバウンドしていた。
その反動を発生させない為には、拳ではなく瞳から直に発動させれば問題ないと我は考えたのだ。
言うならば、目から鱗ならぬ、瞳から波動作戦。無限竜魔気があり、その百パーセントを自在に操れる我しか出来ない方法・・・
残念ながら、カイでは我の無限竜魔気を百パーセント使うことは叶わなかったので、この方法はムリなのであった。
そして、問題なのはロゼオン・・・
ロゼオンとは赤の一撃と青の二撃を混合して生み出すスキル。自身が光をも超越したタキオン粒子になることで光速を超えたスピードで相手の体内や脳内に侵入出来て干渉出来るのだ。
しかし、二つの特殊波動を合わせた段階で肉体や空間に歪みが生じ、問答無用で肉体に相当な反動がくるのだ。どう試行錯誤しても、この課題をクリアすべく改善策は生まれなかった。まぁ、この難解な課題をクリア出来る方法は見つかるのだが、それは先の話である。
色々と御託を並べたが、現状の我は赤の一撃、青の二撃、ロゼオンは使用出来ない。これらのスキルはあくまでブレスに無限の石がセットされていて出来ることなのだ。
だからこそカイが転生し、再び無限の石が使える状態までもってくるか、我がブレスを装着し、無限の石をゲットするかしなければならない。
しかし、ティナ、キャンティ、マイちゃん、パルスの心を掌握し、無限の石を作り出すことの難解度はかなり高い。
特にマイちゃんの光の石は激レアと言われるだけあって、我にそれをゲットするだけの器量があるかは疑問である。
新生した我を目にするキャンティ・・・
「ゼブル、お前・・・」
何だ何だ?まだ何か注文を言ってくるのか?と身構えてしまう我・・・
「お前、可愛いな。」
何やらボソッと口にした一言を我は聞き逃さなかった。
したやったり・・・今まで数百万年もの間、上からしか物事を言ってこなかったキャンティが初めて、そう初めて我を対等にみてくれたのだ。
何やら体の奥から嬉し涙がこみ上げてくるのを初めて感じる貴重な一瞬であった。
そしてこの興奮を押し殺したまま、すぐに行動に移すのが我である。
「キャンティ、我はカイとティナを探す旅に出る。まだ二人とも転生していないようだが、ここで日々を過ごすのではなく、新たなる仲間を探したい。そして、目の前に起こる現象を糧にして我も成長したいのだ。」
「ゼブル・・・いや、今は女性だからレイと呼ぶべきか。カイとティナが作ってくれた平和は今や崩壊している。各地で発生している暴動、温暖化によるオゾン層破壊、異常気象や地殻変動による地震多発化、その他問題をあげれば数えきれないほどになっている。今こそ不老不死の我らが率先して出来ることを行い、少しでもこのメタル系銀河を良くする時なのだ。期待しているぞ。あたいに出来ることがあれば、何なりと頼って来るが良い。行け!レイ!」
キャンティの言葉を耳にした我は黙って頷き、キャンティの工房を後にする。この混沌としたメタル系銀河を良くするなんて大それたことは出来ないにしても、何かしら出来ることをしていく次第である。
「おっと、大事なことを伝えるのを忘れていたな・・・まぁ、時がくれば分かるであろう。」
キャンティはそう言って、舌を出す。
その大事なことっていうのが、我にとって真に必要な情報であったのだが、キャンティらしいと言えばそれまでである。
さてさて、どこへ向かおうか?キャンティの工房を後にした我は一旦停止し、しばし考える。
行き当たりばったりの旅も良いものではあるが、計画性がないと得られる成果もたいしたことないに違いない。
《ブレスをゲットして、石を集めていくか・・・それとも武術を極めていくか・・・》
しばしの間、自問自答していったが、導き出した答がブレスをゲットして再度【無限の石】を作り出すことにした。
我らにとっての至高のブレスとなった無限の石・・・
その無限の石もカイの消滅と共に消え去ってしまった。
ブレスにセットされる石は、それを与えし者が認めた者にしか使えない。即ち、キャンティ、マイ、パルス、ティナに認められなければならない唯一無二の見えない契約なのだ。
我はカイのパートナーではあったが、彼女たちに認められた訳ではない。故に我にはその使用資格がないのだ。
だから、赤の一撃と青の二撃、ロゼオンは現状使用不可である。
しかし、事前準備としての我の身体の構築は完了している。赤と青の瞳・・・無限竜魔気を用いて作り出した竜魔眼である。
さてと、そうと決まればブレスをゲットすべく行動する次第である。
人は十六歳になると職業を選択出来る。
誕生日を過ぎても職業を選択することは可能であるが、希望する職業が飽和状態であればそれにつくことが出来ない。
だが、我は何気に天才である。
なぜならば、我は今日誕生したのだ。しかもカイと同じく十六歳の肉体を作り出して・・・
故に今日の我は、十六歳を迎えた女性なのである。
まぁ、その状況が偶然の賜物であるのはここだけの話である。
なぜならば、今日ブレスをゲットしようと思わない選択肢もあったのだから・・・
そして我は職業選択会場へと到着した。カイのように光速で移動出来れば瞬間的に到着出来たのだが、その能力が今はない。早い所、無限の石を作り出さなければならないな。
とはいえ、無限竜魔気を使っての飛行は、やはり通常の魔気を使っての飛行とは異なり別格のスピードではある。今はカイが転生したあとの準備をするのみであるが、正直無限竜魔気は現状宝の持ち腐れであるのは否めない。
会場内は意外と静かなものであった。もっと人がごった返した感じかと思っていたが、正直拍子抜けである。
そういえば、キャンティに聞いたことがある。今の人間界、特にスティール星は少子高齢化であると。
暴動が多発化し、自然災害などによる要因もあるとは思われるが、収入が増えなければ子供を作る余裕もないのは至極当然である。
その収入も何も変化がなければ、増えることは有り得ない。残念ながら、今の人間界はその変化がないのが現状である。いや、逆に日々人間界の生活レベルは衰退しているというのが正しい判断だろう。
この先のスティール星が不安で生態系のバランスが崩れないことを祈る。
受付を済ませた我の順番は意外にも早目の案内であった。
受付の女の子は明るく元気で好印象であった。この明るさを見ているとティナを思い出す。早く転生した彼女と再会したいものだ。
「はぁい、次の方・・・レイさん、どうぞ~。」
さて、我の名前が呼ばれたので中へと入り、詳細の確認を行ってもらう。しばらく無言で我の事をジロジロと観るお姉さん・・・
「あなた・・・」
何か言われるのかとドキドキしてしまう我。
もしや、我の身体が異常なのか?はたまた瞳が左右、青と赤なのが問題なのか?それとも、極力放出しないように抑えてはいるものの、無限竜魔気の異常さに気付かれてしまったのか?突っ込まれても仕方がないことが幾つか思い当たる・・・
「ゴクリ・・・」
思わず生唾を飲み込み、彼女の反応を恐る恐る伺う我。
理想の身体を構築編成したつもりだが、何か問題があるのか?イヤイヤ、何一つ問題などない。細胞レベル、更にはその元になる組織も通常の人間と比較して、何ら問題はない。無限竜魔気を使った身体硬化は出来るが、今はそれを使用していないしな・・・
両眼の色が問題なのか?カラコンを使用している人間が多数存在する中で、我だけが指摘されるのはおかしい。
もしやカラコンではなく、裸眼であることが判別出来た為のツッコミなのか?イヤ、裸眼でも時折両眼の色が異なるオッドアイの者は存在するしな・・・
無限竜魔気は皮膚にバリアを巡らせているので、外に漏れることは考え辛い。そのバリアも人間が使用する波気をベースにして作っているので、問題は無い。
「レイさん、めっちゃ可愛いじゃないの~!希望職業は武闘家ってなっているケド、モデルか女優それともアイドルじゃなくてホントにいいの?イヤイヤ、絶対に芸能界にいった方がいいよ~。何なら芸能事務所を紹介してあげてもいいし、絶対に売れっ子になれるわよ~わたしが保証するって。」
オイオイ、そっち?そっちのツッコミなのか?
予想外のツッコミで拍子抜けした我・・・
確かにそれなりのルックスやスタイルを意識して身体編成したが、ここまで反応されるとは意外であった。
現状、少子高齢化であるとはいえ、職業選択会場の受付をしてきて、日々数えきれない程の人間を見てきた彼女がここまで言うのだ。
それなりの自信をもって良いかもしれないな。
「ありがとう。でも、我は武闘家にならねばならんのだ。ある目標があるし、この混沌とした世界を少しでも良くしたい。まぁ、女性としての美は意識してこれからも自分を磨いていくがな。」
我はニッコリと微笑み、そっと彼女の両手を握り締める。無意識に彼女の両手を握り締めたが、あくまで褒めてもらったお礼としてである。
しかし、彼女は顔を真っ赤にして我の瞳をキラキラとした瞳で見つめる。
オイオイ、我は別に口説いている訳でもなく、チョッとしたスキンシップのつもりであったのだが、彼女の反応には驚きを隠せなかった。
それにしても久しいな。何の確証もない【わたし保証】を聴くのは・・・ティナがよく口にしていたっけな。
思い出し笑いをしていた我ではあったが、その光景を受付のお姉さんがどう観ていたかは我の知る所ではない。
時間をムダには出来なかったので、彼女に武闘家としての登録とブレスの装着を催促する。
彼女は残念がっていたが、職業は途中からでも転職出来るので、その際は遠慮なくわたしを訪ねて下さいねとキラキラとした瞳で見つめてきた。
「さてそれではレイちゃん、左腕をわたしの方に突き出して下さいね。」
さっきまではレイさんと【さん付け】で名前を呼んでいた彼女であったが、いきなり【ちゃん付け】に呼び方が変わっていた。
まぁ、それだけ距離が近くなったってことかな。それに軽い口調であった話し方がいつの間にか丁寧になってきていた。
それだけ、敬意をもってくれたと思うこととしよう。
我は言われた通りに左腕をそっと彼女の方に突き出した。細く色白な我の腕にそっと触れながら、ブレスをセットしてくれている彼女。
しかしながら、時間にして五分かかっても我の左腕にはブレスはセット出来ていなかった。
「おかしいですね・・・ブレスのセットは個人差がありますが、一分から三分で完了するものですが、ここまで時間がかかるのはわたしも初めてです。」
彼女は額に汗をにじませながら、何とかセットしてくれようと試みるがうまくいかない・・・
「なぁ、ブレスって左腕じゃなきゃダメなのか?右腕とかじゃ機能しないのか?」
我は思ったことを口にする。特に問題が無ければ、別に左腕に固執する必要も無いと思ったからだ。
「ブレスを左腕に装着するのは人間の右脳と左脳の兼ね合いからなんです。右脳は感覚、感情、直感など倫理ではでは説明出来ないことを司ります。一方の左脳は、倫理そのものを司ります。ですので、直感などをダイレクトに機能させる為には右脳とリンクしやすい左腕がベターなんですよ。」
なるほど・・・そんな仕組みがあったのか。そこまで考えてのものだったのかと改めてキャンティ作のブレスに感心する。しかし、何故我の左腕には装着が出来ないのか解らないな。
「何でレイちゃんの左腕に装着出来ないのかは解りませんが、こんなことはわたしも初めてです。でも、右腕に装着するのは右脳リンクのことを考えなければ問題ないと思います。右腕にブレスをセットしますか?」
そんなリンクとか難しいことは解らないが、とりあえずブレスと石がセット出来れば良いのだ。後はどうにでもなろう。
「あぁ、頼むよ。我にはどうしてもブレスが必要なのだ。」
彼女はコクリと頷き、我が突き出した右腕にブレスのセットを試みる。




