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二人のブレス ゼータの鼓動  作者: ビッキー


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第四十四話 イリヤン③

 わたしは細胞変革を行い、元のレイへと形態を変えた。これには、ティナやイリヤンは驚いていた。 そりゃそうだよな・・・男になったり、女になったりとまさに変態という言葉がふさわしいが、元々は魔剣なのだから・・・

 キャンティは我に返った。その瞬間、顔が見る見るうちに真っ赤になり、頭からは蒸気が出ていてもおかしくないほどの状態であった。

「お、お前・・・レイだったのか?あたいの純な心をもてあそんで・・・」

 こりゃ一発や二発の洗礼は覚悟しなければならないな・・・と覚悟した。受け身の体勢で瞳を閉じ洗礼を待っていたが、一向にその気配はない。

「あ、あのさ・・・また今度さ、やってみてくれてもいいんだからな。」

 キャンティは頬を赤らめながら、ボソリとつぶやいた。これは想定外の反応だ。カイではないと理解していてのチューの要求・・・

 つまりは同意ということだ。もしかしたら、チューを超えたプレイをも求めているのか?

 知識としてはわたしにもそれはあるが、未体験ゾーンのことなので、彼女の望み通りのことが出来るか自信は無い。わたしは男にも女にもなれるので、両方の気持ちは理解出来る。女性であれば、例え片思いであっても心も体も満たされたいと思うのは自然の摂理・・・だがそこには理性が働き、本能のままに行動することはまずない。

 前世のカイにはティナがいた。だからこそ、キャンティはカイに対しての想いがあっても常に心はセーブしていた。

 しかし、剣の魔動石をカイに託すことで彼との交流は格段に増したであろう。それは、ティナが関われない特別な時間として・・・そうか、その特別な時間という思い出を大切にしていきたいという気持ちがあったからか・・・他者に剣の石を託せない理由の一つとして。

「わ、解った。前向きに検討しておくとしよう。だが、これから旅に出るのだ。今度いつここに戻って来るかは解らぬぞ。」

 わたしは冷たくあしらったが、キャンティは小さく頷き乙女の顔をしていた。

もしも、転生したカイを見つけることが出来て、それがまったく異質な人間性だったらどうするか?はたまた、顔が不細工だったら・・・

 わたしはここに彼を連れてくるべきなのだろうか?

 前世のカイはイケメンだったし、体格も均整が取れていて素晴らしかった。

 そして、何よりも人間性が神レベルだったからな・・・

 損得で動くヤツじゃなかったし、惹かれる人も多かったのだ。マイちゃん、パルスだけでもスゴイのに、魔王のファイや神のクロちゃんまでも彼に自らのスキルの石を託したのだから・・・

 チューイベントは正直予定外だったので、色々と混乱を生み出してしまった。わたし自身もこの時、冷静に考えることに欠けていたのだ。故にある重要案件に気付くことが出来なかった・・・

 もしかしたら、アイちゃんは気付いていたかもしれないが、必要なこと以外は口を出してこない。あまりうっとうしいのは、わたしも好きではないしな・・・


 わたしたちは新たなる仲間のイリヤンを引き連れて、キャンティの工房を後にした。

 さて、どこへ向かうか・・・

 戦力アップを考えるのであれば、ヴァンやゲンならば力を貸してくれるであろう。再び力を合わせ、目的達成に全力で関わってくれるとは思う。

 ストロームとのバトルから八百年の年月が経過した・・・

 彼らもあれからレベルは上がっているかもしれん。イヤ、きっと上がっているだろう。自分たちの不甲斐なさもあって、カイとティナを失ったのだから・・・

 しかし、キャンティが言っていたように、以前と同じではダメなのだ。以前と同じであれば、結果も変わらない・・・

 だからこそ、無限の力は諦めて、もっと異質なる力を得なければならない。それも圧倒的な何かを・・・

 それが何なのかは解らない。今、アイちゃんに聞いても答えは出ないであろう。

 自分でなくても良い。パーティの誰かが、その圧倒的な力かを持っていれば、それで良いのだ。

 それを人間のヴァンやゲンに求めるのは酷である。彼らは通常の人間としては、十分過ぎるほどもスキルを得て、成果も出してきたのだから・・・

 では、アタッカー的な仲間はどのような類の者が適任なのか?

 魔人、星人、魔獣、星獣か・・・はたまた魔王、神・・・なんてことは、所詮ムリであろう。

 覚醒魔人の中でもトップスリーのスキル、魔撃や無限防御、インパクトも今考えれば一長一短である。

 魔撃は魔族にしか効果が無い。こと魔族に対しての効果は秀でているが、それ以外ではヴァンが習得したインパクトの方が効果的である。

 そのインパクトは確かに物凄い破壊力を秘めているが、ティナのディールにかかれば形無しだろう。

 ゲンの無限防御は、物質的な攻撃や光などの波動系の攻撃に対しては有効である。しかし、回避や反射不可能な攻撃に対してはどうだろう。例えば、侵食系の攻撃など・・・

 わたしが難しいことをあれこれ考えているのを気にしてか、イリヤンが質問をしてきたのだった。

「あ、あの・・・ジブン、さっきから気になってはいたのですが、聴くタイミングを逸してしまって・・・無限の気とかディールって、何なんでしょうか?」

 そっか、そうだよな。

 初耳のことは解らなくて当然だ。仲間なんだし、別に特別シークレットな情報でもないから教えても問題あるまい。

《レイ、マスターが認めた弟子だケド、彼自身オープンに出来ていない情報もあるから、百パーセントの情報開示はしちゃダメよ。》

 だな・・・無限竜魔気やディールのウィークポイントなんかの詳細情報は伏せておこう。

 素性が知れない人物だ。如何にキャンティが認めたとは言っても彼女も完璧ではない・・・

 現にわたしが疑似体としてなったカイに対してはメロメロだったしな・・・先程の彼女の状態を思い出し、わたしもふと笑みがこぼれる。

 そう、彼女も一人の女性としての性があったのだ。いつもは男勝りの言動でイケイケだったことを考えると、そのギャップがおかしくて仕方ない・・・

彼女の新たなる一面を垣間見て、わたしは無性に嬉しくなったのだ。そう、どんな人も温かい一面を持っているものだと・・・

 わたしは、イリヤンに無限竜魔気とティナのディールについて話をした。アイちゃんに言われたように一部の情報は伏せて・・・

「ありがとうございます。ジブン、感動ものです。気は人間なら波気、魔族なら魔気ということくらいしか知りませんでした。その気が特殊な竜魔気があって、更にそれが無限に生み出せるなんて・・・それにディールって、ある意味、優秀な盾にもなりますよね。」

 優秀な盾か・・・

 何でも貫く最強の武器、何でも防げる最強の盾、この二つが衝突したら、どうなるんだろう・・・

 わたしはふと、こんな疑問が生じた。言葉では、それを【矛盾】と表現するというが、実戦ではどうなのだろうか?

 最強の武器が形状は異種ではあるが、神撃ではないだろうか?全ての生命体や物質を消滅させ、再生は不可能だしな・・・

 じゃあ、最強の盾って何だろうか?イプシロンやゲンが持っているスキル、【無限防御】か?イヤ、さっきも考えたが穴がないようでありそうだしな・・・

《レイ、その答えを知りたいの?それとも自分で考えたいの?教えてあげてもいいけどさ、ワレが君の立場なら、自分で考えたいかなぁ・・・》

 そうだな、答えを急ぐ必要はあるまい。今は、情報が不十分であったりする件は後回しだ。早急にアタッカー的な仲間を見つけることこそ、優先すべき案件だ・・・

 つくづく思うが、わたしは宝の持ち腐れだな。折角の無限竜魔気を最大限に活かしきれないのだから・・・


ねぇ、レイ・・・あんた、欲求不満なの?あたしが欲求不満を解消してあげようか?」

 ティナが何やら勘違いをして、そのようなことを言ってきたから驚いた。わたしが色々考えすぎていたのを見て、悶々としているものと思ったらしい。

 まぁ、性がある以上は性欲があってしかりだろう。女性であれば、彼氏や旦那の存在がない以上、そういった欲求不満になることも十分に考えられる。

「何を言っているんだ。わたしのことは大丈夫だ。わたしよりもお前やイリヤンの方が欲求不満なんじゃないのか?」

「ジ、ジブン、今は修行中の身。それどころじゃないですよ。不純な考えを持っていたら、鍛冶師としてろくな作品は作れません。だから、安心してください。」

「あ、あたしだって問題ないよ。そりゃ、欲求不満がないって言ったら、ウソにはなるけどさ・・・レイやイリヤンじゃ、あたしの性欲を満たすことは出来ないかんだからね。」

 イリヤンは謙虚だったが、ティナは明らかに虚勢を張っているのが見ていても解った。アイちゃんの予測演算でも、ティナは恐らく男性経験皆無であろうという見解だったしな。


 そんなくだらないやり取りがあったが、具体的な目的地も決めていないまま、キャンティの工房を後にして数時間が経過した。気付けば皆が空腹であったし、今この場所が魔界の何処なのかさえも解らない状況であった。

「チョッとレイ。あたし、もうお腹ペコペコなんだケド。何か美味しいものを食べましょうよ。」

「それは、いいですね。ジブン、好き嫌いは無いですが、お金もないです。」

 ティナは好き勝手な事を言ってくれるし、イリヤンに至っては、キリッとした表情で金がないことを言い切った。

 わたしは初人化しレイとなった時に、キャンティから餞別をもらっていたが、もうあまりないことを今思い出したのだった。

 ヤバイな・・・食い扶持が増えた上に、金も余裕がない。仕方ないな、魔石を集めて宝石商に売るか。

 わたしは、前世のカイやティナが行っていたように魔獣などから魔石を頂き、それを宝石商に売って、食費を稼ぐことにした。

 自然のものを採取したり、狩猟したりして食しても良かった。だがこの道中、話を聴くところ、ティナは料理がからっきしダメだそうだ。

 前世のティナはスイーツこそカイには劣っていたが、それ以外の料理全般はプロ並みのものを作れていた。だから、現在のティナに料理が全く作れないと聴いた時は残念で仕方が無かったのだ。折角、わたしも料理を楽しめるようになったのにな・・・

 そしてイリヤンに至っては、インスタント食品なら作れるとドヤ顔で言われる始末・・・

 インスタント食品は料理でないと思うぞ・・・とは思ったが、そこはスルーしておいた。わたしは優しいからな、ツッコミを入れて場の雰囲気が悪くなるのを懸念したのだ。


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